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ナイツオブラウンド②

 その一言にわけもなく胸を衝かれたらしいロイドの目が見開かれた。


「弱いものを庇い護る……そのために力を使う、だと?」

「そうさ、男は痩せ我慢、そうだろう? 魔力なんかに頼らなくったって、男なら意地張って護りたいもんを護る、それが俺だ。いや、正確には……俺はなれるもんなら、そういう俺になりたいんだ」


 ロイドが少し呆然としたような表情でヴィエルを見つめ――それからゆっくりと立ち上がった。


「意地張って護りたいものを護る、か……。そんなこと、考えたことすらなかった……」


 ロイドは顔を俯向け、独白するかのように言った。


「力があれば何も奪われずに済む、力があれば何でも奪い取ることが出来る……今までの俺は、そんな考えばかりしていた。だが、それでは本当の強さは手に入らないというのか……。力に頼らない人間こそが本当に強い人間なんだと――俺の親父が言っていたのは、そういうことだったのか……」


 なにかを考える少しの間があり――顔を上げたロイドには、再びの闘志が舞い戻っていた。


「ヴィエル・アンソロジューン。今の俺は……お前と真剣に剣を交えてみたい。もうアリスが手に入ろうが入るまいが、そんなことはどうでもいい。俺は――お前に、お前という人間と真剣に戦ってみたい。……改めて、俺の剣を受けてくれるだろうか?」


 明らかに一皮剥けたような表情でそう言ったロイドに、ああ、とヴィエルは頷いた。ああ、これだ。これぞCV:杉田和智であるキャラが見せるべき誠実さ、そして決意の表情だ。


 こんな真剣な目をした男と戦えることが、なんだか無性に嬉しい――それは生来クソザコナメクジでしかなかったヴィエルにとって、人生で初めて感じた喜びだった。


「おい、ヴィエル。ちょっと耳貸せ」


 と、そこで――アストリッドが小声で呟き、ヴィエルを半目で睨みつけた。


「アンタは今実に爽やかな流れでロイドと戦いたいようだけど、あんまり一時のテンションに身を任せないでよ。あくまで勝つのはアンタ、それを忘れないでね。でないと私まで死ぬことになんだから。――ホラ」


 湿りきった口調でそう言って、姉はヴィエルになにかの紙を手渡してきた、戸惑いつつそれを受け取ったヴィエルは、アストリッドに問うた。


「何だよこれ?」

「必勝の虎の巻、これが前に言ったナイツオブラウンドよ。いい? 確かにヴィエルになったアンタには闇の魔力っていうチート的魔力があるけど、んなもんなくてもアンタには既に十分チート能力が備わっている。それを最大限引き出すためのアンチョコがそれよ。開いてみなさい」


 虎の巻、ナイツオブラウンド――? 戸惑いつつ紙を開き、そこに書かれた文章を読んだヴィエルは――ぎょっと目を見開いてアストリッドを見た。


「ね、姉ちゃん――! なんだよこれ!!」

「この間夜ナベして考えてたのがコレよ。私謹製の殺し文句集。どう? 萌える?」

「何だよこれ! 俺に何させるつもりだ!! こんな、こんなもん俺に渡してどうするつもりなんだよ!?」

「ああ、うるさいわね……そんなぶっ壊れたおそ松みたいな声出すな。いい? これをボソボソ呟きながら戦いなさい。そしたら絶対勝てるから。わかったわね?」

「こ、こんな小っ恥ずかしいこと、人に面と向かって言えるか!! こんなんで勝っても全然嬉しく――!」

「やれ。やんなきゃアンタのケツの穴にバラ差して生ける花瓶にするからね」


 最後に物凄い脅迫の一言を付け加えられると、どうにもやらざるを得ないようだった。それでもヴィエルが慈悲を乞うようにアストリッドを見ても、アストリッドは許してくれない。上手くやんなさいよ、というように肩を二度叩いてから、アストリッドはモブたちの人垣の方に戻った。


「さぁ、色々あったけれど試合再開よ! ――両者、始めっ!!」


 その宣言とともに、ロイドが地面を蹴った。もう奇声を上げることもなく、己の技だけを信じ、一直線に突っ込んでくる。先程までの素早さや圧がない代わりに、その足取りには一切の迷いというものがない。この状態のロイドの剣を受けたら――流石にヴィエルも抗しきれないかもしれなかった。


 そう、如何に爽やかな感じになろうとも、ヴィエルは武芸などからきしのクソザコナメクジでしかない。クソザコナメクジでしかないのなら――姉の言ったことをやるしかなかった。


 そう、やるしかない。

 かなり無理やりな覚悟を固め、ヴィエルは剣を握り締めた。初太刀を外し、その隙に捩じ込む――!!


「おおおおおおおッ!! 真の力に目覚めた俺の剣、受けよ――!!」


 ロイドの野太い一声とともに、木剣が視界に弧を描いた。その鋒を避けることだけに集中して――ヴィエルは身体を捻った。


 ブォン! という音と共に、ロイドの剣が空を切る。

 よし、上手くいった――! その確信を胸に抱いたまま、ヴィエルは自分の背後をロイドの身体が通り過ぎた一瞬、その耳元に向かい――毒を流し込むかのように小さく囁いた。




「『自分からこんなに必死になって剣振っちゃって――可愛い♥』」




明日で完結します。

個人的には最高傑作だと思っているので

打ち上がればいいなぁ……!!



ブクマ、★にて評価していただけると

管理人がスライディング土下座で喜びます……!

なにとぞよろしくお願いいたします(暗黒微笑)。

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