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「基本的に戦争は力で決まる」(CV:杉田和智)①

 そして、三日後。この時に至る。


 学園内での真剣での勝負はご法度、ということで、ロイドが持参した木剣を腰に帯びたヴィエルは、決闘を聞きつけて集まってきた学園のモブたちがワイワイと騒ぐ中、精一杯背を伸ばしたアリスに思いっきり抱きつかれていた。


「ヴィエル様、どうかご自身のご安全を第一に考えてください! 私、ヴィエル様がこの決闘で怪我なんかしちゃったら……!」

「あ、アリス……! アリス! お願い、ちょ、ちょっと離れて! ヤバいってヤバいって! 何がヤバいかって言うと超ヤバいから……!」

「ああ、どうしてこんなことに……! ロイド様とヴィエル様が私を巡って決闘だなんて! こんなことになるなら私、田舎から出てこなきゃよかったんだわ!」

「あ、当たってるから! それになんかめっちゃいい匂いがする!! もうホント勘弁して! しっ、真剣勝負の前にこれはヤバいから……!」

「ヴィエル様、私のことなんか考えなくていいですからね!? 私、私の大切な友達が傷つくぐらいなら、ロイド様の妻どころか、いっそ魔王の妻にだってなりますから……!」

「あ、これはダメだ。あーもうダメだ。俺、幸せすぎて死ぬわ。もう死ぬ、死にます。先立つ不幸をお許しください。こんな矢鱈可愛い娘に抱きつかれたならもう死んでもいい。この匂いだけでご飯三杯……」


 そこで何者かに結構強めに後頭部を叩かれ、ヴィエルは邪に過ぎる妄想の世界から立ち戻った。


「何をわけわかんないこと言ってんのよ、アホ弟。真剣勝負の前に何を死ぬ死ぬ抜かしてんだ。死んだらいけん、忘れんじゃないわよ。それにアンタたちが臆面もなくイチャイチャするからあっちもやる気ゲージうなぎ登りじゃないの。見なさいアレを」


 幸福の絶頂にいるヴィエルに氷水をぶっかけるかのように言って、アストリッドは向こうにいるロイドを顎でしゃくった。腕を組み、ギリギリギリギリ、と音が鳴る勢いで歯を食いしばったロイドは、目を血走らせてヴィエルとアリスを睨みつけていた。


「……いいご身分だな。真剣勝負を前に、俺の将来の妻になる人とイチャイチャイチャイチャと……!」

「……アリス、悪いけどもっと強く抱きついてくれ。擦り付ける勢いで」

「はいっ! もっと強く抱きつきます! こうですか!?」

「ぐ、ぐぬぬ……! 見せつけやがって……!」

「ほーれほれ、悔しいか? こんな可愛い子に俺が抱きついてて悔しいかよ。お前なんか汗臭くて硬いからアリスは抱きつきたくないってさ」

「あ、汗臭い、だと……!? 言ったな、この青二才が!!」


 なにかの地雷を踏み抜かれたらしく、日焼けしたロイドの顔が真っ赤に変色した。


「バルドゥール家の人間に向かってそれだけは禁句なんだぞ! これでも色々と気を遣ってるんだ! 毎日風呂にもちゃんと入るし、制汗剤だってつけて……!」

「うるせー、お前の場合は最早存在自体が暑苦しいんだよ! 自宅の庭にアスレチック組んじゃうSASUKE狂いのサラリーマンみたいな体型しやがって! お前が近くにいるってだけで毎日が三十八度の猛暑日だよ! デオドラントだけじゃなく、少しは線細くする努力でもしろ、この筋肉ダルマめ!!」


 ヴィエルが面罵すると、ブヒーン! とロイドの頭から湯気が迸ったのが見えるようだった。乙女ゲームのキャラクターとしてそれなりに端正ではあるが色々と圧の強い顔が限界までひん曲がり、目玉がこぼれ落ちんばかりに目が見開かれる。


「俺にそこまで面と向かって言った人間、お前が初めてだぞ……! 俺が筋肉ダルマ、だと……!? よぉおぉぉし……! 今回の決闘は少し派手に血が飛ぶぞ! この剣で親父のキンタマから出てきたことを後悔させてやる! 覚悟しとけコノヤロー!!」


 これぞCV:杉田和智と言える野太い声でロイドは木剣を振り回した。この辺が潮時だろう。ヴィエルはまだ抱きついたままのアリスの背中を叩き、離れるよう促した。


「さ、アリス、始まるぞ。しっかりと俺たちの戦いを見届けてくれ」

「ヴィエル様――!」

「大丈夫だ、これでも俺は水柱なんだぜ、めっちゃ強いんだぜ?」

 ニカッ、と、意識してヴィエルは明るく微笑んだ。




「これは言った人が違うけど……俺は俺の責務を全うするさ。アリスはそれを見ててくれればいい、何も心配はいらないよ。いいね?」



 櫻井ヒロの端正な声でそう言い聞かせると、アリスは涙に潤む目のまま、それでもはっきりと頷いた。そのまま少し離れた位置にいるアストリッドの隣に立ったアリスは、ヴィエルに向かって手を振った。


「さて、お互い開戦の口上は終わったようね。――時間は無制限! 勝敗条件は相手が負けを認めるか、それとも戦闘不能と見做された時よ!」


 アストリッドが朗々とした声で告げる。やるしかない、と覚悟を決め、ヴィエルは木剣の柄を握り締めた。


「それでは両者、構え! ――勝負開始、始め!」


 瞬間、ヴィエルはロイドに向かって剣を構えた――はずだった。


 だが――意図した通りに言ったかは、わからない。何しろそれに向かって構えたはずのロイドの姿が勝負開始とともにコマ落としのように消え――うぇっ? とヴィエルは一瞬、気の抜けた声を発してしまったからだった。


 なんだ? どうなった――? とキョトンとしてしまった瞬間、右側に物凄い圧を感じ、ヴィエルははっとした。考える間もなく右側から来る圧を剣で受けた瞬間、人生で一度も感じたことのない衝撃が全身に突き抜けた。




「おいィィィイイイイイイイイッ!!」





完結まであと少しです。


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管理人がスライディング土下座で喜びます……!

なにとぞよろしくお願いいたします(暗黒微笑)。

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