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「おいィィィイイイ!!」(CV:杉田和智)

 振り返った瞬間、物凄い勢いで何かが顔の横を通過し――その背後にいるアリスに向かって飛んできた。

 この銀色の閃光、剣――? と思った瞬間、アリスとアストリッドの目が見開かれた。


「アリス――!」


 ヴィエルが言えたのは、そこまでだった。

 瞬間、バチッ! という鋭い音が発し、強烈な光がヴィエルの視界を灼いた。思わずうめき声を上げて顔をかばった後――ヴィエルはおそるおそるアリスを見た。

 アリスは――地面にへたり込んでいた。思わずという感じで腰を浮かしたまま固まっているアストリッドの横に――真っ黒に焼け焦げた剣が、昼食を入れてきたバスケットを貫き、深々と地面に突き立っていた。

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 とりあえず、ヴィエルはアリスを気遣った。

「あ、アリス、大丈夫か!?」

「え、えぇ……なんとか……」

「今の――今の、何が起こったんだ? いきなり剣が飛んできて、アリスにぶつかる直前で、強い光が……」

「……今のが破魔の魔力よ。そうよね、アリス?」

 アストリッドが問うと、アリスが震えながら首肯した。

「あ、あの……破魔の魔力、っていうのは、こういうものらしいんです。持ち主の身に危険が生じると、持ち主の意思に関係なく、自動的に持ち主を守るように作動する……今のは多分、破魔の魔力が私を守ろうとして……」

 飛んできた剣を弾いた、か。魔法というものの便利さには今まで何度も驚かされてきたが、これへの驚きは別格だった。まさか魔法が自動的に発動するなんて……ヴィエルがその不可思議さに驚き、絶句していると、アストリッドがヴィエルの耳元に口を寄せ、鋭く耳打ちした。

「驚くのはわかるけど――ヴィエル、始まるわよ」

「え――?」

「参ったわ、ここでこのイベントか……。まぁいい、よく聞いて。これはある男のルート開始を示す特殊イベント。これから、ある男がここへやってくる。その男はかなりの曲者よ、油断しないで。どう振る舞えばいいかわかるわね?」

「え、えぇ――!? どう振る舞え、って――!?」

「私たちの目的を思い出しなさい。どうすれば二年後に起こることを回避できるか、それを考えれば、自分のやらなきゃいけないことはわかるはず。いい? 何度も言うけど、相手は相当の曲者。その声で全力で立ち向かいなさい」

 声。その言葉にヴィエルはハッとした。

 『乙女ゲーム業界のプリンス』と呼ばれるこの櫻井ヒロの声。これからやってくる相手は、この美声でもっても一筋縄ではいかない相手――つまり、同じく相応以上の技量を持った声優が声を当てている人間――攻略キャラクターの中の一人であるということだ。

 そんなことを考えたヴィエルは、瞬時、数日前の入学パーティでのアストリッドの言葉、そして今背後に聞こえた声とを同時に思い出した。


 今の野太い青年の声。これ以上ない男性的な頼もしさを含みながらも、どこかコミカルに聞こえる、この声、この声――。


「おい、大丈夫か!? こっちに向かって剣が飛んできたはずだぞ!」


 この声の持ち主、否、この声の声優は――!


「そっ、そこのあんたたち、無事か!? いやすまない、裏庭で剣の稽古をしていたら手が滑ってしまって……!」


 この如何にも頼りがいのある青年の声――CV:杉田和智。

 ヴィエルの視界の中で、赤い短髪を揺らし、筋肉質な好青年――攻略キャラクターの一人であるロイド・バルドゥールが、慌ててこちらに駆けてきていた。




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