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98.量産化に向けて

チーズを始めとした乳製品を使った料理は皆から好評を博した。

「皆満足してくれたようだな」

その光景を眺めているとうしろから声をかけられた。

「スティクォンさん」

「ん? ああ、ドーグさん、どんな感じですか?」

「見ての通りです。 皆乳製品を使った料理に大変満足しています」

今まで処理に困っていたドーグも搾乳したのを無駄にせずに済んでホッとしている。

「それは良かった」

「それでこれからについて相談したいのですが・・・」

「ここじゃ皆の邪魔になるから向こうで話し合おう」

スティクォンとドーグは皆の邪魔にならないようその場を少し離れて話し合いを始めた。

「さて、今回のを踏まえてなんですけど、チーズ、ヨーグルト、クリーム、アイスクリームの量産を検討しています」

「飲料用だけでは限界があるからね」

「はい。 余ってしまったのを捨てざるを得なくなるのは心苦しかったので今回の料理は正直助かりました」

「礼ならクーイさんに言ってくれ」

「もう言いました」

ドーグがクーイをチラッと見る。

「話を戻しますけど、卵があまり使えない今はチーズ、ヨーグルト、クリームを量産して、解禁されたらアイスクリームも追加します」

「チーズ、ヨーグルト、クリームは作るのも簡単だし、それが良いじゃないか。 ただ、アイスクリームはちょっとねぇ・・・」

「何か問題でもありますか?」

「材料よりも作業工程のほうに問題あり・・・かな?」

スティクォンの言葉を聞いてドーグがすぐに察した。

「ああ、スティクォンさんやアリアーサさんが頑張って泡立て器でかき混ぜていましたね」

アイスクリーム作りを思い出したのかスティクォンはげんなりする。

「あれが思いの外大変でね・・・」

「スティクォンさんのスキル(【現状維持】)でかき混ぜる作業を維持すればいいのでは?」

「僕もそれは考えたよ。 だけど、自分が食べるために作るならともかく、作業者にとっては休むこともなくただただ泡立て器でかき混ぜるだけで、できあがっても自分が食べるわけではないから腕の疲労と精神的苦痛しか残らないんだ」

「それはちょっと・・・」

想像したのだろう、ドーグも嫌な顔をする。

「かき混ぜ作業については考えがあるから僕に任せてほしい」

「わかりました。 吉報をお待ちしております」

話し合いが終わりスティクォンとドーグは皆のところへと戻る。

このあと皆に果実入りのヨーグルトを食べて乳製品のお披露目会は締めくくられた。


翌日───

スティクォンはクーイたちが住む茸の家にやってきた。

コンコンコン・・・

「スティクォンだけど誰かいますか?」

ガチャッ!

しばらくすると扉を開けて出てきたのはティクレだった。

「あ、スティクォンさん。 今日はどうしたのかな?」

「ティクレさん! よかった、今日はティクレさんに用があって来たんです」

「私に? いったいなんの用かな?」

突然のことにティクレは驚くも冷静に対応する。

「実は自動でかき混ぜる泡立て器を作ってほしいんだ」

「自動? 泡立て器?」

訳のわからない単語にティクレは何ともし難い顔をしている。

そこにクーイとアールミスも現れた。

「ティクレ、どうしたんだ?」

「あら、スティクォンさん。 今日はどのような用件ですか?」

「実はティクレさんに自動でかき混ぜる泡立て器を作ってほしくて訪れました」

「自動でかき混ぜる泡立て器? なんだそれは?」

アールミスは首を傾げるが、クーイはすぐに何を指しているのか思い至った。

「もしかしてアイスクリームを作るためですか?」

「アイスクリームだってぇっ?!」

「昨日試食したけどとても美味しかったよ」

味を思い出したのかティクレとアールミスの頬が緩む。

「クーイさん、その通りです。 作っているときはずっとかき混ぜていたんだけど、終わった頃には腕がパンパンだったから・・・」

「ああ、そういうことか。 たしかに自動でかき混ぜる泡立て器があれば便利だね」

「それでティクレさん、実際に作れそうですか?」

「うーん・・・」

「ティクレ! 絶対作れよ! アイスクリームが作れるかどうかはティクレの両肩にかかっているんだからな!!」

ティクレが考え込んでいるとアールミスが発破をかけてきた。

「・・・はぁ、わかったよ。 私に任せてほしい」

苦笑しながらもティクレは了承した。

「ティクレさん、ありがとう」

「お礼はできあがってから受け取るよ。 それじゃ、早速部屋に戻って作るから。 2時間もすれば試作品ができてると思うのでそれまで適当に待っていて」

それだけいうとティクレは自室へと戻った。


2時間後───

スティクォンたちが待っているとティクレが戻ってきた。

「スティクォンさん、とりあえず試作品ができあがったよ」

そういうと机の上に2つの泡立て器を置いた。

「もうできあがったのか?! それも2つもある!」

スティクォンたちは2つの泡立て器を見た。

1つは普通の泡立て器で、もう1つは泡立てる部分が3つ付いている。

「驚いているところ申し訳ないけどそっちは希望の品じゃないんだよ」

ティクレは泡立てる部分が3つあるほうを手に取る。

よく見ると柄尻にハンドルがついていた。

「これはハンドルを回すことで中の歯車が回転して先端の3つの泡立てる部分が回るようにした手動泡立て器だよ」

実際にハンドルを回すと先端の3つの泡立て部分がくるくる回る。

「それで頼まれたのはこっちだよ。 柄尻に押しボタンがあって押すことによって回転のオン/オフを切り替えるように設定したんだよ」

ティクレが柄尻にある押しボタンを1回押すと先端の泡立て部分が高速で回転する。

もう1回押すとゆっくりと回転が弱まっていき、やがて完全に回転が止まった。

「こんな感じかな」

「どうして試作品を2つも作ったんだ?」

「ここを見て」

ティクレは握り部を外すとそこには魔石が組み込まれている。

「動力源となる魔石なんだけど、手持ちが少なくて量産が難しいんだよ。 ウィルアムさんにもお願いしてはいるんだけど・・・」

「魔物や魔獣からしか魔石は手に入らないからね」

スティクォンの言葉にティクレが肯いた。

「そういうわけで手動のほうも作ったんだよ。 魔石が手に入り次第量産するから」

ティクレの説明を受けてスティクォンたちも納得したのであった。


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