96.量産は難しい?
「ぅぅ・・・スティクォンさん・・・疲れました・・・」
「僕も手伝っているんだからアリアーサさんも頑張って」
「はい・・・」
アリアーサは誠意をもって何度も謝ったことでメルーアたちの怒りも少しは収まったが、アイスクリームを食べられなかったことについて大いに不満を露わにする。
再度アイスクリーム作りをすることになったが、アリアーサ1人に全部作らせるのはあまりにも酷なのでスティクォンも手伝うことにした。
それから30分後、ようやくアイスクリームが完成したので早速皆で試食する。
「美味しいですわ~♪」
「舌触りがとても滑らかです」
「アリアーサさんが言う通り牛乳や卵の濃厚な味が口いっぱいに広がります」
メルーアたちはできたてのアイスクリームを食べてご満悦だ。
「ぅぅぅ・・・アイスクリーム・・・」
それを羨ましそうに見るアリアーサ。
さすがに可哀そうだなと感じたスティクォンが声をかけようとしたときのことだ。
「アリアーサさん、これをどうぞ」
メルーアがアリアーサに声をかけていた。
そして、アリアーサの手にアイスクリームが入った器を持たせる。
「え、えっと・・・」
「先ほどはごめんなさい。 アリアーサさんが協力してくれたのに1人で全部食べたことについ怒ってしまいましたわ」
「わ、私のほうこそごめんなさい。 あまりにも美味しくてつい・・・」
先ほどのことを思い出したのだろう、申し訳なさそうに謝る。
「謝罪は十分に受け取りましたわ。 アリアーサさんも皆さんと一緒に食べましょう」
「いいんですか?」
「もちろんですわ」
「ぅぅぅ、ありがとうございます」
アリアーサはメルーアたちの輪に入ると一緒にアイスクリームを食べ始めた。
先ほどみたいに暴食するのではなく一口一口しっかりと味わっていく。
「美味しいです~♪」
嬉しそうにアイスクリームを頬張るアリアーサ。
それを見てスティクォンも安堵する。
「ふぅ、禍根が残らなくて良かった」
「終わりよければ全てよしだな」
「まぁ、今回のことで別の問題も発生したけどな」
スポーグが怪訝そうに呟く。
「別の問題?」
「このアイスクリームを作るために大量の乳や卵が求められるだろう」
試食した限り乳製品の中でアイスクリームが一番好評だったので、この加工場内にアイスクリームの製造場がすぐに設けられることになるだろう。
原材料となる物はバーズのスキルとスポーグのスキルによって現在増産中だ。
「ああ・・・そういうことか・・・もし、ここでアイスクリームを製造して需要が多くなりすぎると畜産に影響あるのかな?」
「あまりに多いなら牛や山羊だけでなく羊や鹿からも搾乳することになるかな」
「今は鶏の数が少しきついぜ。 あと2~3週間もすれば安定して卵を提供できるはずだ」
バーズとスポーグは現在の畜産状況を簡潔に報告した。
「うーん・・・そうなると当分の間は我慢してもらうしかないかな?」
「「「「「「「「「「えええええぇーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
聞き耳を立てていたのだろう、メルーアたちから悲鳴が聞こえてきた。
「アイスクリームが食べられないんですか?!」
「もっと食べたいです!」
「スティクォン、どうにかなりませんの?」
「どうにかといわれても・・・」
スティクォンは助けを求めるようにバーズとスポーグを見る。
「まぁ、落ち着け。 動物っていうのは簡単には増えないんだ」
「そうだぜ。 卵だって鶏から無限に産まれる訳ではないんだぜ」
「でもでもティエスさんはスキルで簡単に魚貝を増やしていましたよ?」
バーズとスポーグが動物や鳥について説明するが、アリアーサは納得していないのかティエスの【海殖神】を引き合いに出してきた。
予想外の質問にバーズとスポーグは難しい顔をしてスティクォンを見る。
「それは種類が違うからだよ。 えっと・・・たしか・・・」
「魚なら1回の産卵で20~40個ほど、貝なら100個以上となります。 それに対して動物は1回の出産で1~5頭ほど、鶏に関しましては1日に1個産むそうです」
スティクォンが思い出そうとしているとうしろから声が聞こえてきた。
振り向けばそこにウィルアムがいてアリアーサの質問に対して回答する。
「ウィルアムさん!」
「ほっほっほっ、お困りのようですな」
「正直助かりました」
スティクォンがウィルアムに礼を言っているとメルーアが話しかけてきた。
「爺、先ほどのは本当なの?」
「すべてという訳ではございせん。 多少の誤差はありますが先ほど申し上げた通りでございます」
「それじゃ、アイスクリームの量産は?」
「そうですなぁ・・・乳に関しては牛や山羊、羊、鹿から搾乳するとしても卵はどうにもなりませんな。 それを踏まえると今のところ量産は難しいかと愚考致します」
「そんなぁ・・・」
ウィルアムの言葉にメルーアたち女性陣から嘆きの声が聞こえてくる。
特にアリアーサが凹んでいた。
「ま、まぁ、皆落ち着いて。 あと2・・・いや3週間我慢すれば量産できるんだから・・・」
「そんなに待てません!」
「3週間もお預けなんて・・・」
「食べたい! 食べたい! アイスクリームが食べたいです!!」
今までにない甘味に皆すっかり魅了されてしまったようだ。
「まいったなぁ・・・」
スティクォンが再び困っているとスポーグが質問してきた。
「スティクォンさん、1つ聞きたいんだけど肉の提供は急務なのか?」
「いや、急ぎというほどのものではないんだけど」
回答を聞いて考え込むスポーグ。
「・・・そうしたら現在増産中の鶏の卵の2割ほどをここに卸すというのはどうだろうか? 毎日少量ではあるがアイスクリームが作れるだろ?」
「うーん、それはやめたほうがいいだろうな・・・」
「どうしてだ?」
「大多数の人たちは食べられないからだ。 少量しか作らなかった場合間違いなく喧嘩に発展するだろうからな」
「・・・ああ、たしかにそうなるだろうな」
男や老人はなくても我慢できるだろうが、女子供はそうはいかない。
「そういう訳でメルーアたちには悪いけど2~3週間我慢してほしい」
「そんなぁ・・・」
このあとスティクォンは1時間以上かけてメルーアたちの説得に成功したのであった。




