95.乳製品を作ろう3
ハプニングはあったが場を収まったところでクーイが軽く両手を叩く。
「それよりもアイスクリームを作りましょう」
「そ、そうだな・・・それで材料に砂糖と卵だっけ? が必要なんだよね?」
「はい」
そこでスティクォンが質問する。
「砂糖は作り置きを持ってくるとして、卵は何か特別な物を使うのか?」
「鶏の卵で問題ありません」
「ほかに特別な材料とかは?」
「基本はありません」
それを聞いたリルとバーズが応える。
「砂糖を取ってきます」
「スポーグのところに行って卵をもらってくるぜ」
「お願いします」
リルは砂糖を、バーズは卵を取りに向かった。
しばらくしてリルは砂糖が入った瓶を、バーズはスポーグと共に籠一杯に卵を持って戻ってくる。
「持ってきました」
「待たせたな」
「卵はこれで良いのか?」
「はい。 問題ありません。 これよりアイスクリームを作ります」
材料は一通り揃ったところでアイスクリーム作りが始まった。
「まずは卵を割ります」
クーイは平らな場所に卵の中央を軽く打ち付けて罅を入れる。
それから殻の割れ目に両手の親指を入れてゆっくりと左右に開く。
すると卵が左右にパカッと割れて中の黄身と白身が落下して用意していたボウルの中に落ちていった。
3個卵を割ると次の工程へと移動する。
「ここに砂糖を加えてよくかき混ぜます」
砂糖を加えるとクーイは泡立て器でボウルの中をかき混ぜ始めた。
最初は問題なくかき混ぜていたが、あまりやったことがない作業にクーイの腕が悲鳴を上げる。
「んんっ! んんっ! はぁはぁ・・・つ、疲れるぅ・・・」
「クーイさん、代わるよ」
「ス、スティクォンさん、助かります」
スティクォンはクーイからボウルを受け取ると泡立て器でかき混ぜる。
程なくして砂糖と卵が混ざり合う。
「クーイさん、こんな感じですか?」
「えっと・・・はい、それくらいで問題ないです。 砂糖と卵が混ざり合ったところで牛乳を加えます。 牛乳はそこで温めているのをお願いします」
「すぐに用意します」
ドーグは牛乳を持ってきてクーイに渡す。
「ボウルの中に少しずつ牛乳を加えていきますので、スティクォンさんは引き続きかき混ぜてください」
「わかった」
クーイは持っている牛乳を少しずつボウルに入れ、スティクォンはひたすらかき混ぜていく。
すべての牛乳を入れてかき混ぜ終わる頃にはスティクォンの利き腕である右腕はやり慣れていない作業でパンパンになっていた。
「はぁはぁはぁ・・・」
「スティクォンさん、お疲れ様です。 あとはこれを冷凍させればできあがりです」
「どれくらい冷凍させれば良いのですか?」
「時間にして3時間程です」
「結構かかりますわね」
すぐに食べられないと聞いて残念がるメルーアたち。
「けど、アリアーサさんのスキルなら急速冷凍すればすぐにできると思います」
「ふっふっふっ、そこまで言われると頑張るしかなさそうですね。 先ほどのクリームというのが美味しかったのでこれも期待していますよ」
クーイの持ち上げにアリアーサは自分の胸をたたいて得意気に応じる。
「それではアリアーサさん、お願いします」
「いきます! 【水神】!!」
アリアーサはボウルを持つと【水神】を発動して急速に冷やす。
中の液体は熱を奪われ冷えていき、やがて徐々に凍っていく。
「アリアーサさん、魚を冷凍するようにもっと低い温度で凍らせてください」
「は、はい! はあああああーーーーーっ!! フルパワーですうううううぅーーーーーっ!!!」
ありったけの力を開放したことによりアリアーサの周囲が極寒へと変わった。
そのあまりの寒さにスティクォンたちは急いでアリアーサから離れる。
それから1分としないうちにボウルの中の液体は完全に凍った。
「ぅぅぅ・・・さ、寒いですぅ・・・ク、クーイさん、これで良いですか?」
アリアーサは寒さを我慢しながらもクーイに確認する。
「え、えっと・・・ちょ、ちょっと待ってください。 【料理神】・・・大丈夫です。 ちゃんとアイスクリームができあがっています」
「で、できあがったんですね! さ、早速食べます!」
できあがったアイスクリームを食べようと手で触れるも凍っていて掬うことができない。
「か、固いです。 で、でも、負けないです」
アリアーサは強引に爪でひっかくとアイスクリームの一部を掬うことに成功する。
「い、いただきますぅ・・・」
アイスクリームを掬った指を口の中に入れて舌で味わった。
「っ!!」
アリアーサは指を咥えた状態で固まる。
「ア、アリアーサさん?」
「・・・な」
「な?」
「なんですかっ?! なんなんですかっ?! これっ?! とても美味しいですぅっ!! 牛乳や卵の濃厚な味と砂糖の甘さがたまらないです!!」
それだけいうとアリアーサはアイスクリームを指で掬っては口に入れる。
「そ、そんなに美味しいの?」
「アリアーサさん、私たちも・・・」
「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ・・・」
メルーアたちの言葉が届いていないのかアリアーサは一心不乱にアイスクリームを食べている。
そして、ボウルの中のアイスクリームはすべてアリアーサの胃袋に収まった。
「ふぅ、美味しかったぁ~♪ ご馳走様~♪」
アイスクリームを完食したアリアーサは上機嫌だ。
「スティクォンさん、この世界にはこんなに美味しい食べ物があるんですね・・・って、皆さん、どうしました?」
周りを見渡すと皆恨めしそうにアリアーサを見ている。
特にメルーアたち女性陣の目つきが怖い。
「み、皆さん・・・め、目が怖いですよ?」
「・・・そう見えますか?」
「ひいいいいいーーーーーっ!!」
あまりのドスの利いた声にアリアーサは震え上がる。
「こ、これでも食べて機嫌を直してください!!」
そういって差し出したボウルの中は空だった。
「へぇー、私にはそのボウルの中には何も入っていないように見えますけど?」
「私も」
「私もです」
「あっ!!」
今しがたアイスクリームを完食したことを思い出してかアリアーサの顔が蒼褪める。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
このあとアリアーサはヘッドバンキングするようにメルーアたちに何度も何度も謝った。




