94.乳製品を作ろう2
チーズの試食が終わるとスティクォンは牛乳から分離して残された透明な液体を見た。
「チーズを作ったあとのこの液体ってもういらないから捨ててもいいよね?」
スティクォンの何気ない一言にドーグが怒る。
「スティクォンさん! その液体を捨てるなんてとんでもない!」
「え?」
「その液体は(乳酸菌などの)栄養が豊富に含まれていて身体に良いんですよ! 飲んだり料理に使ったりできるのにそれを捨てるだなんて!!」
「そ、そうなんだ・・・すまない」
あまりの剣幕にスティクォンはドーグに謝罪する。
「そ、それでこれを使った料理って何があるの?」
「料理ではないですけど、たしかヨーグルトというのができる筈です。 僕は料理人ではないので詳しい作り方は知りませんけど」
ドーグは申し訳なさそうにクーイを見る。
「そのヨーグルトというのを調べればいいのですね? 【料理神】」
クーイが【料理神】を発動してヨーグルトの作り方を調べる。
「えっと・・・人肌よりも少し高い温度まで温めた牛乳に、チーズ作りででた液体を少し加えてかき混ぜます。 この時温度は常に人肌よりも少し高い温度を維持して4~6時間ほど発酵させます。 あとは凍らせない程度に温度を下げてできあがりです」
「これもすぐに作れそうだな」
「試しに作ってみましょう」
チーズの次はヨーグルト作りが始まった。
まず、先ほどのチーズを作った時と同じ量の牛乳を用意する。
人肌よりも少し高い温度まで下がったら、チーズ作りで分離した液体を少し入れる。
かき混ぜまたらスティクォンの【現状維持】で現在の温度を維持した。
「あとは4~6時間ほど発酵させればヨーグルトの完成です」
「完成までには少し時間がかかるけどこれも簡単にできそうだな」
「でも、先ほどのチーズと同じ独特な味なんですよね?」
チーズやヨーグルトになじみがないリルたちには不評のようだ。
「ヨーグルトは牛乳と同じく身体を内側から良くしてくれるので、できれば毎日食べることをお勧めします」
「身体に良いなら食べたほうがいいのかな?」
「そうなるよね」
ドーグの言葉にリルたちは難しい顔でクーイの持つヨーグルトを見ていた。
健康でいたいが乳製品独特の味にはまだ慣れていないようだ。
「ヨーグルトが発酵するまでまだ時間がありますからほかに何があるか調べてみましょう。 【料理神】」
クーイは【料理神】を再び発動する。
「えっと・・・クリームというのとアイスクリームというのがありますね」
「ん? クリーム? アイスクリーム?」
「あの・・・その2つはどこが違うんですか?」
クレアの質問にクーイが答える。
「作り方が違うんです。 クリームは牛乳を水が氷る一歩手前ほどの冷たさで冷やすと乳脂肪と脱脂乳に分かれるのですが、その乳脂肪をクリームといいます。 アイスクリームは牛乳を基に砂糖や卵を入れてかき混ぜたあとに冷やしたものをアイスクリームといいます」
説明を受けるもスティクォンたちにはさっぱりわからなかった。
「実際に作ってみればわかります」
「どちらを先に作るんですか?」
「簡単なのはクリームですね。 牛乳を冷やすだけなので手間はかかりません」
「冷やすならアリアーサさんの出番ですね。 ちょっと呼んできます」
察しの良いリルはアリアーサを連れてくるために南東の人工海に向かった。
しばらくしてアリアーサを連れて戻ってくる。
「お待たせしました」
「スティクォンさん! リルさんから美味しい物を食べてるって聞きましたよ! どうして呼んでくれないんですか!!」
「いやつい先ほど動物の乳からチーズを作れないのかというのがあったばかりで・・・たまたまいたクーイが【料理神】で調べてくれたんだよ」
「ずるいです! ずるいです! 私も美味しいもの食べたいです!!」
自分だけ除け者にされたと感じたのかアリアーサは駄々をこねる。
「それなら丁度良かったです。 今から作るのはアリアーサさんのスキルが必要なんです。 協力してもらえませんか?」
「美味しいものが食べられるなら手伝っちゃいますよ」
クーイのお願いに美味しいものが食べられると察したアリアーサは二つ返事で了承した。
「それで私は何をすればいいんですか?」
「器に入った乳を氷る程度の温度まで下げてもらえませんか? できれば徐々に冷やす感じでお願いします」
「これを冷やせばいいんですね? 任せてください! 【水神】」
アリアーサは牛乳が入った透明な器を受け取ると【水神】を発動して牛乳の中の水温をゆっくりと冷やしていった。
しばらくすると透明な器の中で徐々に水と脂に分かれていく。
「下に水が溜まって、上には白いのが集まってます」
「本当です」
「不思議です」
それから5分後、牛乳は乳脂肪と脱脂乳に完全に分かれた。
「アリアーサさん、もう大丈夫です。 スキルを止めてください」
「ふぅ、思ったよりも簡単だったです」
「あとは上に浮かんできた乳脂肪を別の皿に分けて・・・っと、完成しました。 クリームです」
皿の上にはできたてのクリームが載せられていた。
「早速試食してみましょう」
スティクォンたちはクリームを指で掬って口に入れる。
「・・・チーズとは違う濃厚さがあるな」
「このクリームを攪拌するとバターというのになります」
「チーズよりもこちらのほうが好きです」
「私も」
先ほどのチーズと違い、クリームはリルたちには好評のようだ。
「うーん、美味しいですね♪ では、こちらのほうは・・・」
「あ・・・」
誰かが声をあげた時にはアリアーサは脱脂乳の器を口にしていた。
「ゴクゴクゴク・・・?! ぶほぅっ! げほぅっ! げほぅっ! げほぅっ!!」
脱脂乳を飲んだアリアーサは目を白黒させている。
「だ、大丈夫ですか?」
「なんですかっ?! これっ?! なんなんですかっ?! とても味が薄いんですけどっ!!」
「乳脂肪が分離してなくなったのでそのせいかと・・・」
「これなら元のほうがいいですっ!!」
アリアーサは涙目になりながら訴えた。
「まぁまぁ、アリアーサさん、落ち着いて」
このあとスティクォンたちはアリアーサをなんとか宥めることに成功したのであった。




