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93.乳製品を作ろう1

動物や鳥たちを死の砂漠に連れてきてから1週間が経過した。

獣人たちの世話によって動物や鳥たちは順調に育って繁殖している。

スティクォンはワイン造りででた葡萄(ぶどう)の搾りかすが載せられた台車を引いて北東の人工山に向かう。

そこではバーズとスポーグがほかの獣人たちと一緒に世話をしていた。

「バーズさん、スポーグさん、おはようございます。 動物や鳥たちはどんな感じですか?」

「今のところは問題ないな」

「朝から元気よく鳴いているぜ」

「それは良いことですね。 あ、これ動物たちの餌に持ってきました」

「お、こいつは助かるな。 おーい、これを頼む」

「はーい」

バーズが声をかけると近くにいた獣人が台車を引いて厩舎(きゅうしゃ)へと運んで行った。

それからスティクォンはバーズとスポーグとともに見て回る。

皆、のびのびとしているなか、バーズが一頭の雌牛を見て頭を掻く。

「バーズさん、どうかしましたか?」

「あー、またあいつ張っているか・・・すまないがちょっと行ってくる」

バーズはいったん小屋のほうへ行くと大きなバケツを持って戻ってきた。

そして、そのまま雌牛のほうへ行くとバケツを後ろ足手前のところに設置する。

「今楽にしてやるからな」

バーズは雌牛の4本ある乳頭のうちの2本を掴むと搾乳を開始した。

ビュッビュッという音とともに乳が出て、バケツに溜まっていく。

ある程度搾ると残りの2本も同じように搾乳する。

「よし、こんなものかな。 お前もよく頑張ったな」

バーズは雌牛の背中を優しくなでる。

雌牛は『モー』と軽く鳴くと何事もなかったかのようにゆっくりと歩いていく。

そこに様子を見ていたスティクォンとスポーグがやってきた。

「バーズさん、今の雌牛は?」

「ああ、あいつはほかのと比べると乳を生成しやすい体質なんだ。 なんで気づいたらなるべく搾乳するようにしているのさ」

「そうなんですか」

「さて、俺はこの搾乳したてのを処理してくるかな」

バーズはバケツを持ち上げる。

「どうするんですか?」

「搾乳したてのは雑菌が入ってそのままでは飲めないってドーグが言っていたんだよ。 人が飲むには加熱処理だったか? をしないと飲めないらしい。 実際搾りたてを飲んで腹を壊したのがいるからな」

「な、なるほど・・・」

スティクォンはバケツの中に触れようとしたが、バーズの話を聞いてその手を引っ込めた。

「それじゃ行ってくるぜ」

「あ、僕も一緒に行っていいですか?」

「構わないぜ」

バーズが先に歩きスティクォンはあとについていく。

しばらくして到着したのは死の砂漠の北西にある住宅地で、そこに大きな倉庫が建てられていた。

「あれ? ここってたしかファリーがつい最近建てていたところだよね?」

「ああ、ここは牛や山羊など動物から搾乳したのを処理するところだ」

中に入ると広い空間の中央で大きな釜が下から火にかけられており、獣人たちが棒で中にあるモノをかき回している。

「ゆっくり丁寧にかき回してください」

「「「「「はい!」」」」」

建物内を見回すとドーグが獣人たちに指示を出していた。

そんなドーグにバーズが声をかける。

「ようドーグ、今いいか?」

「どうしたんですか?」

振り向いたドーグがバーズの持っているバケツを見て納得する。

「それはこちらで処理しておきます」

「助かるぜ」

そこにメルーアたち女性陣がやってきた。

「あら、スティクォンも来ていたんですの」

「たまたまね。 それより皆はなんでいるの?」

「処理済みの牛乳を飲みに来たんです」

「牛乳は美容に良いと聞きましたわ」

「え? 身体に良いと聞きましたよ」

メルーアとリルたちで意見が食い違っている。

「牛乳は健康にも美容にも良いです。 ただ、飲みすぎは逆効果になりますので注意が必要です」

「なるほど」

【医神】を持つドーグがすぐに説明することでメルーアたちは納得した。

落ち着いたところでスティクォンが質問する。

「話は変わるけどここではチーズを作っていないのか?」

「チーズですか? 残念ながら僕はチーズの作り方がわからないので・・・」

「そうか・・・」

話を聞いていたクーイが声をかけてきた。

「それなら私のスキル(【料理神】)で調べてみます。 【料理神】」

言うが早いかクーイは【料理神】を発動するとチーズの作り方を調べた。

「えっと・・・殺菌した乳を沸騰しない程度に温めたら檸檬(レモン)の搾り汁を加えて軽く混ぜる。 しばらく放置すると透明な液体と白い塊に分離するので、白い塊を布に入れて10分間こすとできあがりだそうです」

「意外と簡単にできるんだな」

「せっかくなのでチーズを作ってみましょう」

「いいですね」

「作りましょう」

クーイの提案に皆が賛同する。

それからリルは材料である檸檬をとりに死の砂漠の南西にある畑に向かい、クーイは茸の家から調理道具を取りに戻った。


20分後───

建物内にクッキングスペースが設置された。

そこでは興味を持った獣人たちが物珍し気に見ている。

「では、早速始めましょう。 まずは檸檬を絞ります」

クーイはリルがたくさん持ってきた檸檬から3個まるごと絞った。

「次に牛乳ですが・・・殺菌したての釜の中の牛乳を使いましょう。 温度的にも丁度良いですし」

用意してもらったコップ3杯の牛乳をボールに入れて、その中に檸檬の搾り汁を加えると軽く混ぜた。

「あとは分離するまで放置です」

放置してしばらくするとボールの中の牛乳は透明な液体と白い塊に分離した。

クーイは白い塊を布に入れて10分間こしていく。

10分後、クーイが【料理神】で布の中を確認する。

「チーズができあがりました」

布の中を開くとそこには10分前に見たのと同じ白い塊があった。

それを見てスティクォンが首を捻る。

「僕が知るチーズってもう少し黄ばんでいるんだけどな・・・」

「スティクォンさんが知るチーズは長持ちさせるために塩を加えて熟成させたものだと思います」

「へぇ、そうなんだ」

問題が解消されたところでスティクォンたちはチーズを試食する。

「あ、ちゃんとチーズの味がする」

「本当ですわ」

「チーズってちょっと癖がある味ですね」

ここにいる多くの者がなじみのない味に渋い顔をしていた。

だが、このあと調理されたチーズの真の味に一同驚愕することになる・・・


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