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92.ラストール6 〔ラストール視点〕

「東の戦況は?」

「デジャス辺境伯の騎士団に加え、国王陛下が派遣した第四騎士団及び第四魔法兵団により戦は拮抗しております。 また、周辺の貴族たちからも一個中隊以上が援軍にかけつけております」

「周りの貴族たちもデジャスが落ちれば次は自分たちが同じ目に合うと必死のようだな」

デジャス辺境伯が治める領地は帝国と隣接しているため、ここを突破されると勢いついて帝国軍が雪崩れてくるだろう。

それだけは阻止しようとデジャス辺境伯とその周りの貴族たちは一致団結して帝国と戦っている。

「南のほうは?」

「こちらも現在交戦中です。 アバラス公爵が戦場に現れると敵は蜘蛛の子のように散って逃げるそうで、本気で攻めてこないところを見るとアバラス公爵を領地に引き留めるのが目的かと。 それと周辺の貴族たちはすべてアバラス公爵に任せている状態です」

「ちっ! 面倒なっ!」

宰相から帝国との戦況報告を聞いて余は舌打ちした。

イコーテムは短慮だが我が王国最強の軍人であり守護者だ。

戦については一日の長があり、戦局に対する先見の目と判断は決して侮ることはできない。

本来なら南にいる帝国軍をさっさと片づけて東の対策をしたいところだが、イコーテム自身が動けないところを見ると南の軍は温存されており、隙を見せたら大軍で攻め落としにくるのだろう。

そうならないように自派閥の貴族たちや周りの貴族たちに援軍を頼むもすべて断られている。

イコーテムの人望がないのもそうだが、王国の守護者という肩書がここにきて裏目に出ていた。

「南の貴族どもは楽観しているな」

「アバラス公爵が落ちるとは微塵も考えてないのでしょう」

仮に余が貴族どもに声をかけて渋々動かしても戦況は変わらないだろう。

下手をすればさらに悪化するのが目に見えている。

「余としてはイコーテムに南をさっさと片づけて東を何とかしてもらいところなんだけどな」

「帝国の立ち回りを見る限りこちら(王国)を研究し尽くしているようです」

「ええい、歯痒いなっ! ここで騎士団や魔法兵団を南に派遣すれば虚を突いて潜伏しているであろう帝国のスパイたちが王都内を混乱させてくるだろうからなっ!!」

帝国は余の次の一手をじっくりと待っているに違いない。

今の状況を打破するためにはイコーテムが南を片づけることだ。

イコーテムの足止めに失敗したとなれば帝国も深追いはせずに撤退するだろう。

「はぁ・・・頭が痛くなる」

「気分が悪いところ申し訳ございませんがもう一つお伝えしたいことがあります」

余は宰相を見る。

「なんだ?」

「実はここ最近王国内でドラゴンが飛び回っているそうです」

「ドラゴンだと?」

ただでさえ農作物の不作、品不足、物価の高騰、国力低下、魔物や魔獣への脅威度が増したことなどに加え、イコーテムの息子であるスティクォンの捜索や帝国との戦ときて、今度は生きる伝説であるドラゴンか・・・これ以上ないほど余の頭を悩ませる。

「それで・・・被害状況は?」

「ありません」

「は?」

「ですから被害はありません」

宰相の言葉に余は目を白黒させる。

「聞き間違いか? 被害がないと聞こえたんだが?」

「だからそう言っているのです。 目撃者によると高高度から森の中に降り立ってしばらくすると何か大きな箱のようなモノを掴んで北へと飛び去って行ったそうです」

不審な行動ではあるがドラゴンが何をしたいのかさっぱりわからない。

「それとドラゴンが降り立った場所で複数の男たちが目撃されております」

「男か・・・そのような者たちなどどうでも・・・」

そこで余はふと思い出す。

以前にも同じようなことをした結果痛い目にあっていることを。

もしかすると余にとって何か重大な事ではないかと。

「その男たちだが、どのような者たちだ?」

「皆フードを被っていましたが、人間族と獣人族、それにエルフ族らしき者が同行していたそうです」

人間族と獣人族だけならわかるが、エルフ族らしき人物が他種族と一緒にいること自体が疑うべきことだ。

なにしろエルフ族は他種族を嫌う風潮がある。

それなのに他種族と共に行動している時点で怪しさ大爆発だ。

「容姿は?」

「12~13歳くらいの人間族の少年に、獣人族は狼、鷲、虎、鷹、山羊で人間族の年齢に換算して20歳前後ではないかと予測しており、エルフ族らしき者はおそらく初老を迎えているだろうとのことです」

人間族の少年という単語に余は反応する。

その少年がイコーテムの息子であるスティクォンではないかと期待していた。

「その人間族の少年の事を詳しく教えてくれ」

「褐色の肌に白い髪、頬に刃物で斬られた傷があるとのことです」

宰相の言葉を聞いて余は落胆した。

イコーテムもその妻も褐色肌でないし、白髪でもない。

まして貴族たる者が何か問題でも起こさない限り頬に傷など受けるはずがないだろう。

宰相を見ると余と同じ考えに至ったのだろう、無言で頷く。

「その者たちの目的は?」

「豚や鶏など飼われている動物や鳥たちの購入です。 牛、馬、羊、山羊なども購入しております」

目的を聞いてますますわからなくなった。

「この恐慌状態で大金を積んで買っていくとはな・・・」

「送られてきた情報によりますと短期間に複数の場所で購入しております」

その言葉を最後に宰相はだんまりとする。

これ以上報告はないのだろう。

どの問題も余の手に余る問題ばかりで頭が痛い。

「それにしてもドラゴンが向かった北か・・・お前はどう見る?」

「どうと言いますと?」

「魔族の国が動くと思うか?」

宰相はしばし思案したあと結論を口にする。

「動かないと判断します」

「その理由は?」

「魔族は我々人間族よりも優れた魔力を持っているのにも関わらず今まで何もしてこなかったのです。 それなのに今更動く理由が思いつきません」

余も宰相と同じ意見だ。

今までのことを考えると魔族が王国にちょっかいを出すことはないだろう。

「魔族については横に置いといて、当面の問題は帝国だな」

「はい。 今はアバラス公爵とデジャス辺境伯に頑張ってもらうしかありません」

「そうだな」

余はそれだけいうと溜息を吐いた。


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