90.ロニー6 〔ロニー視点〕
東の帝国との戦いが始まって1ヵ月以上が経過した。
俺は今も最前線で戦いを続けている。
魔力が尽き、うしろに下がって休憩していると今俺が所属している第四魔法兵団の女団長が姿を現した。
俺を含めた全員が立ち上がる。
「状況はどうなっている」
団長が部下に現在の状況について説明を求めた。
俺に対していつも馬鹿にした口調の男がすぐに団長のところに駆け寄り最敬礼して丁寧に報告する。
「現在帝国との戦線は変わっておりません。 我ら第四魔法兵団の被害は軽微であります」
「うむ、ご苦労」
報告を聞き終えた団長が俺たちを見回してから発言する。
「お前たち! ここで気張れよ! もし、ここが落ちたら王国には俺たちが帰れる場所がなくなるんだからな!!」
「「「「「「「「「「サー! イエッサー!!」」」」」」」」」」
団長の激に俺を含めたその場にいる団員全員が返事をする。
「よし! 魔力が回復した奴から随時戦線に復帰しろ! わかったな!!」
「「「「「「「「「「サー! イエッサー!!」」」」」」」」」」
団長はそれだけいうとその場から立ち去った。
いなくなると俺を含めた全員が座り込む。
「まったく・・・団長も人使いが荒いぜ」
「俺たちの身にもなってもらいたいものだな」
文句を言う団員たちだが俺も同じ意見だ。
「まぁ、そういうな。 俺たちはまだ可愛いほうだぜ。 団長と行動をした奴らなんて可哀そうなもんだ」
それを聞いて俺は身震いする。
(冗談じゃない! あんな女と一緒にいたらいくら命があっても足りやしないぞ!!)
俺は団長と行動した時のことを思い出す。
それは戦いが始まってから3日目の朝だった。
「おい新入り、お前今日は昼の戦いに出なくていいぞ」
「え?」
団長の言葉に俺は戸惑いを感じた。
「夜まで暇を与えるから英気を養っておけ」
「サ、サー! イエッサー!!」
言うことだけいって団長はその場をあとにした。
「はぁ、お前も可哀そうだな」
「よりにもよって団長に目をつけられるなんてな」
「同情するぜ」
配属されてからいつも馬鹿にしてくる連中だが、この時ばかりは俺を哀れんだ目で見る。
「な、なんだよ・・・気持ち悪い」
「まぁ、夜になれば嫌でもわかるぜ」
「お前が無事に生きて帰ってくることを願ってやるよ」
「縁起でもないことをいうな!!」
そんな訳で団長の言葉に甘えて身体を休めることにした。
そして、夜になり団長のもとへと向かう。
到着すると俺以外にも団員が幾人か集まっていた。
「なんだよ、新入りも呼ばれたのか」
「お前も運がねぇな」
「明日の朝日が拝めるかは団長次第だけどな」
笑ってはいるが団員たちの顔は暗い。
そこに団長が現れると俺を含めた団員たちがだんまりする。
「ゴミクズども集まっているな。 お前たちを呼んだのはこれから敵の陣営に夜襲するからだ」
「!!」
団長の言葉に皆息を呑む。
「開戦してから今日で3日目だ。 お前たちが昼間頑張っている間、俺も部下を引き連れて連夜敵軍である帝国の部隊に襲撃を敢行している。 さっさとくたばればいいのに思った以上に奴らの生存本能が高くてな。 おかげで俺の肌は荒れるは髪に潤いがなくなるは寝不足だはで身体が休めていられない。 まったくいい迷惑だ」
文句を言うが団長の目の下には隈はない。
それどころか肌もあれていなければ髪も艶々だ。
「そういう訳でここにいる全員でこれから夜襲する」
「ちょっと待てよ! こんな人数で夜襲するなんて無謀だろ!」
俺が慌てて進言する。
「何を言うのかと思えば泣き言か? ならばお前に選ばせてやる。 俺とともに敵軍を攻めるか今ここで俺の手で殺されるか好きなほうを選べ」
団長からのあまりの言葉に恐怖を感じたのか皆が凍り付く。
「さぁ、どうした? 選べないなら今ここで殺してやるぞ?」
「お、俺は・・・だ、団長とともに戦います」
俺が屈すると団長は圧力を霧散したと同時に俺に近づいて拳を放つ。
ドガッ!!
一瞬の出来事に対応できず俺は左頬を殴られ吹っ飛ばされる。
壁に激突すると前のめりに地面に倒れた。
団長が俺の頭を掴んで無理矢理顔を上げさせる。
「本来なら上官に逆らった罪で罰を与えるところだが今は戦時中だ。 お前みたいなのでもここでは立派な戦力だからな。 今はこれくらいにしといてやる」
それだけ言うと俺の頭を放した。
本来ならほかの団員が俺のことを嘲笑するのだが、今は団長がいるためそのような愚行をする者はいない。
「では、これより3班に分かれて活動する。 チーム分けだが1班は俺と新入り、2班・3班は残ったので均等に分けろ。 担当は1班正面、2班左翼、3班右翼だ。 以上」
俺は拒否権もなく団長と組まされることになった。
班分けが決まるとそれぞれの位置に移動する。
夜戦の狼煙は団長が合図すると言っていた。
所定の位置に到着すると俺は団長に質問する。
「団長、どうやって2班と3班に合図を送るんですか?」
「そんなの決まってるだろ。 こうするんだよ!!」
団長が【火魔法】で巨大な火球を作り出した。
「なっ?!」
「吹っ飛べえええええぇーーーーーっ!!」
敵陣地に火球を放つもそれに気づいたのか、敵も巨大な水壁を展開して対応する。
「だ、団長っ! そんなことをしたら・・・」
敵が陣地から出てきてこちらに攻め込んできた。
「これでいいんだよ。 いいか、俺たちの役割は囮だ。 これから夜通し正面からくる奴らを叩くぞ」
「む、無茶苦茶だあああああぁーーーーーっ!!」
このあと、俺は朝になるまで団長とともに正面からくる敵を相手にさせられるのであった。
「おい、大丈夫か?」
誰かが声をかけてきたことで俺は現実へと引き戻される。
「あ、あぁ、大丈夫だ・・・」
俺は何とかそれだけを言うのが精一杯だった。
魔力が回復するまでまだ少しかかるようなので休んでいると団長が戻ってきた。
「おい新入り、言い忘れていたがお前明日は夜襲に参加だ。 わかったな」
「サ、サー! イエッサー!!」
そして、俺は明夜に再び悪夢を見ることになった。




