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89.イコーテム公爵6 〔イコーテム視点〕

「国境付近の状況は?」

「連日小競り合いが続いております」

「王国からの援軍は?」

「東の戦線を維持するため援軍は送れないとの回答を承っております」

「わしの傘下の貴族たちからの支援や援軍は?」

「残念ながら・・・」

わしの質問に執事長が現在の状況を説明する。

「おのれ・・・どいつもこいつも・・・わしの領地が落ちればどうなるかくらいわかる筈だぞ!」

ラストールの援軍なしは予想内だが、アバラス公爵領が落ちれば次はお前たちの領地が襲われるのは目に見えてわかる筈だ。

それなのにわしへの支援や援軍を無視するとは。

「支援や援軍がないのは自領のことで手が回らないのか、あるいは旦那様の力なら簡単に退けられるとお考えなのではないでしょうか?」

「ちっ! こういう時だけわしをあてにするな!」

役に立たない連中だ。

そういう信頼などいらん。

「それと敵も未だに本気で攻めてくる気配がないか・・・」

相手はアバラス公爵領を攻めてくるもちょっかいを出す程度にとどめていた。

「わしが出るしかないか?」

「それでは前回と同じ結果になるかと・・・」

そう、わし自ら大軍に攻め入ろうとしたら彼奴らは一目散に逃げるのだ。

蜘蛛の子のように分散して。

これで終わったかに見えたが翌日には何事もなくちょっかいを出してきた。

それも1度や2度だけではない。

わしが出陣した時は必ず同じ戦法をとる。

「ええい、忌々しい・・・わしのことをずいぶんと分析しているようだな。 同じ結果になるのであれば部下たちに任せるしかあるまい」

「それについては騎士団に報告済みでございます」

「助かるぞ」

わしが1から言わずとも動いてくれる執事長に礼を言う。

「それにしてもわしの騎士団もそれなりの実力があると自負していたが、彼奴らも引けを取らない力を持っている」

「精度に関しては我が領の騎士団のほうが上だと思いますが、相手には獣人も含まれております」

人間族同士での戦いであればわしの勝ちは揺るぎないだろう。

ただ、相手には獣人の傭兵も交じってる。

身体能力では人間族を上回るから厄介だ。

「くっ、こういう時にロニーかリクルのどちらかさえいれば・・・」

「ロニー坊ちゃまは東の帝国との国境付近で帝国兵と交戦中、リクルお嬢様については現在消息不明でございます」

国王(ラストール)め、勝手にロニーを東の国境付近に派遣しおって・・・仕方ない、ロニーはともかくリクルは何をやっているんだ!!」

帝国が王国の中枢である王都を攻めるには距離がある。

アバラス公爵領の一大事故に国王直轄近衛騎士団に所属するリクルを呼び戻すことに。

しかし、当のリクルはスティクォンを探すため暇を貰ったとかで不在であった。

「あの馬鹿娘が! 今どこをほっつき歩いているのだ!!」

「リクルお嬢様の行方は現在捜索中でございます」

「ただでさえスティクォンの事で手一杯なのに問題ばかり増えていくとは・・・」

わし自らの手でスティクォンをアバラス家から追放してから碌な目にあっていない。

農作物の不作、品不足、物価の高騰、魔物や魔獣への脅威度の増加など悪いことばかりが目に付く。

それだけでなくラストールからスティクォンを連れ戻さなければ廃爵するという言葉がわしの心に重く圧し掛かっている。

「・・・それでスティクォンの捜索はどうなっている?」

「はい、それが進展が全くありません」

「捜索隊は何をやっているんだ! スティクォンの捜索を命じて1ヵ月以上が経っているんだぞ? なのに成果がありませんとはどういうことだ!!」

わしの激怒に執事長は身を縮める。

「も、申し訳ございません。 王都並びに各貴族領地を探させているのですが、未だにスティクォン坊ちゃまの居場所が掴めず仕舞いでして・・・ロニー坊ちゃまの仰っられたとおり魔族の国にいる可能性もありうるかと」

「魔族の国か・・・」

ロニーが自分の保守のためにした発言だと思っていたが、これだけ国内を探させていないとなるとここにきてその線も濃厚と言わざるを得ない。

ただ、魔族の国に行かせるのはすなわち死んで来いというのと同義だ。

スティクォンの捜索のためだけに部下たちに死ねというのはあまりにも酷い仕打ちだろう。

「どういたしますか?」

「仮に・・・だ、仮にロニーの言ったスティクォンが魔族の国にいるのが本当だとしたら、スティクォン1人を捜索するためだけに部下たちを魔族の国に行かせる訳にはいくまい」

「・・・」

執事長もわしと同じ考えなのだろう、苦虫を噛んだような顔をしている。

「・・・冒険者でも雇って探させますか?」

執事長が考えに考え抜いてなんとか代案を出した。

「冒険者か・・・」

普通ならば貴族の息子1人連れてくるだけで大金が手に入ると喜んで依頼を引き受けるだろう。

だが、他国・・・それも魔族の国ともなれば話は別だ。

目の前に大金を積まれても首を縦に振る者がはたしてどれだけいるか。

「普通は難しいな・・・なら、闇ギルドか・・・」

実際に闇ギルドならば無茶な依頼でも引き受ける可能性はあるだろう。

が、これにも問題がある。

それは替え玉を用意されることだ。

スティクォンの容姿を伝えてそれっぽいのを用意し、わしに渡して『はい、おしまい』とか言いかねん。

わしの目を誤魔化せないと判断した場合は依頼人(わし)を消すよう動くだろう。

「闇ギルドはなしだな。 そうなると実力があり国の内情を知らない冒険者を探すしかないか・・・」

「それか内情を知った上で依頼を引き受けてくれる冒険者となります」

「・・・心当たりはいるのか?」

わしの問いに執事長は無言で首を横に振る。

「だろうな。 わしとてそのようなお抱え冒険者がいるなら真っ先に命じている筈だ」

それから2人で知恵を出し合うも良い案が浮かばず、結局魔族の国への捜索は自然と頓挫するのであった。


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