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85.温泉に入ろう

メルーアたちに案内されてやってきたのは1つの建物だ。

入り口には男性、女性を表す看板が立てかけられている。

まだ利用されていないのか建物内には人の気配を感じない。

中を覗こうとするが衝立があり、外からは見えないようになっている。

男性を表す看板がある入口から建物に入り、衝立を横から回り込むと壁に多くの棚が設置されていた。

棚の1つ1つに丸い籠が置かれている。

メルーアたちはそこをスルーして更に奥へと進む。

室内から室外に出るとそこは多くの岩でできた大きな窪みがある。

中は空っぽだ。

建物の半分女性側は見えないように間仕切(まじき)り壁が設定されている。

周りをよく見ると窪みの近くに巨大な岩があり、そこから何かを通す穴が設置されていた。

「ここは?」

「温泉ですわ」

「温泉って、たしか地下水を火山の地下深くで熱により温められて、それが地上に湧き出したものだよね?」

「そうです。 本来はスティクォンさんの言う通りなんですけど、ここ(死の砂漠)には火山なんて当然ありませんので疑似的なものになります」

スティクォンの説明を聞いてティクレが肯定する。

「2つ問題があって今はまだお湯を張っていないんだ」

「問題?」

「そうです。 こっちに来てください」

案内されてやってきたのは巨大な岩の裏側だ。

ティクレは岩をペタペタ触る。

ガコン!!

突然大きな音がして岩に穴が開く。

よく見るとそれは扉だった。

中に入ると縦二層式の貯水槽があり、人工山の頂上にあった螺旋式汲み上げポンプが設置されている。

「ここは温泉の管理室だよ」

貯水槽の中には温泉の代わりに大量の水が入っている。

「温泉というけどただの水のように見えるんだけど?」

「水は水でもここのはたしか・・・なんだったっけ?」

「アリアーサ様の【水神】によりここの水には炭酸水素塩が含まれております」

ティクレの言葉を引き継ぐようにウィルアムが説明してくれた。

「そうそう、それで問題なんだけど1つは見ての通り水の循環だよ。 ここのは人工山の頂上と違い私でもなんとか動かせるんだけど持久力がね・・・で、もう1つは水温だよ。 人肌よりも少し温かい温度を常に維持しておきたいんだ」

「どちらも僕のスキル(【現状維持】)があれば簡単にできることだね」

スティクォンの言葉に同意するようにメルーアたちが頷いた。

「そういう訳でスティクォンにやってほしいのですわ」

「わかった」

話が纏まったところでティクレが指示を出す。

「まずは水温の設定からだね。 アリアーサさん、お願いします」

「は、はい」

アリアーサが水に触れて【水神】を発動した。

しばらくすると水からほんのりと湯気が立ち上る。

「アリアーサ様、水温が39度に達しましたのでスキルを止めてください」

【鑑定】で確認していたウィルアムが突如アリアーサにスキルを止めるように発言する。

「は、はいっ!」

アリアーサは急いで触れていた水から手を放す。

「スティクォン様」

「水温を維持します」

スティクォンは【現状維持】を発動して水温を維持した。

「次は水の循環ですね」

「私がやります!」

ファリーが名乗りを上げるとポンプのところまで移動した。

「それ!」

ハンドルを右に回したのを確認するとスティクォンも【現状維持】を発動してハンドルの回転を維持した。

下層から上層へと勢いよく水が移動していく。

本来なら水は浴槽へと流れていくところだが、通路が閉ざされているため、溢れだした水が下層のほうへと落下して戻る。

「おっと、蓋を開け忘れていた」

ティクレが蓋を開けると水は勢いよく浴槽である窪みへと流れていった。

「これでしばらくすればお湯が溜まるだろう」

「お湯が溜まったらまた蓋をするのか?」

「向こうで溢れたお湯はここに戻ってくる仕掛けになっているから心配しなくても大丈夫だよ。 汚れについてもドレラさんの【悪食神】で対処が可能だから」

説明を受けたスティクォンはティクレの【技術神】に脱帽する。

浴場に戻ると窪みにお湯が溜まっていくがまだ入浴できるほどの量ではない。

「ここのお湯が満たされるまで時間があるので残りの8ヵ所も稼働させますわ」

「え?」

「ほら、次行きますわよ」

それから残り8ヵ所も同じように温泉を稼働させた。


太陽が西に沈む頃、メルーアの提案でスティクォンたちは温泉を堪能することになった。

スティクォンはウィルアムと共に男湯のほうへ入り、脱衣所で服を脱ぐと腰にタオルを巻いて浴槽へと移動する。

「おおぉー」

岩の窪みにはお湯が溢れるほど注がれていた。

その光景にスティクォンは思わず声を上げる。

「こんな本格的な風呂・・・じゃなかった、温泉は初めてだ」

「私もこのような体験は初めてでございます」

「それじゃ早速入ろう・・・と、その前に身体を洗わないとな」

「スティクォン様、こちらをお使いください」

ウィルアムはスティクォンに石鹸を手渡した。

「ありがとうございます」

スティクォンとウィルアムは石鹸で身体の隅々まで洗ったあとに温泉に浸かる。

じんわりと身体を温められて思わず頬が緩んでしまう。

「はあああああぁ・・・気持ちいいなぁ・・・」

「左様ですなぁ・・・」

極楽な気分の中、間仕切り壁の向こう側からメルーアたちの声が聞こえてきた。

『良いお湯ですわ』

『身体がポカポカします』

『命を洗われている気分です』

『これだけ広いと泳ぎたくなりますね』

どうやらメルーアたちも温泉に浸かっているようだ。

『そういえばメルーアとハーニに聞きたいことがあったわ』

『わたくしに?』

『なんですか?』

『───』

『『ぶうううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!!!!!!』』

小声だったので質問の内容は聞こえてこなかったが、明らかに動揺するメルーアとハーニ。

『メルーアさん! ハーニさん! 落ち着いてください!』

そのあとメルーアとハーニが暴れながら何か言っているが、水音にかき消されて肝心な部分が聞こえてこなかった。

「に、賑やかですね・・・」

「そうですなぁ・・・」

スティクォンとウィルアムはお互い頷き合うとトラブルに巻き込まれないうちに温泉から上がるのであった。


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