83.人工山を作ろう
スティクォンは獣人たちを引き連れてホビット族たちのところに向かった。
「獣人の皆さん、今日からしばらくの間ホビットたちが収穫した野菜や果物を倉庫に運ぶ手伝いをお願いします」
「お前ら張り切ってやるぞ」
「「「「「「「「「「「おおおおおぉーーーーーっ!!」」」」」」」」」」」
バーズが発破をかけることで獣人たちをやる気にさせた。
それから収穫した野菜や果物を載せた荷車を力のある獣人たちが押して運んでいく。
今までは収穫から運送までホビット族たちが引き受けていたが、獣人たちのおかげで栽培・収穫に集中できるようになった。
ホビット族たちと獣人たちの間で問題ないことを確認する。
「さて、シディアたちのほうはどうかな?」
死の砂漠の北東へと移動するとそこには巨大な穴があった。
「え? 何この穴?」
不思議そうに穴を覗いているとそこにウィルアムがやってきた。
「スティクォン様、いかがなさいましたか?」
「ウィルアムさん、この穴はいったい何なの?」
「こちらはシディア様の発案でこの北東に山を作るということになりまして、その前提で地下空間を作ることになりました」
「地下空間? なぜ?」
「おそらくですがシディア様の塒として利用されるのではないかと」
ウィルアムの言葉にスティクォンは納得する。
北西の住宅地にもシディア用の雨風を防げる家屋はあるがそれでは物足りないのだろう。
「そういえば何かの書物でドラゴンは穴倉が好きだと書かれていたな」
「人の手が滅多に入らないところですので地上よりかは安全な場所かと愚考いたします」
「地下なら財宝を隠すのにも最適だしね」
現在シディアがここに持ってきた宝石などはウィルアムが代わりに管理している。
だが、シディアとしては誰かに管理されるよりかは自分で管理したいのだろう。
「それで地下が完成したら地上に山を作るの?」
「はい。 構成につきましてはシディア様の頭の中でございます」
「今回はシディアに全部任せているからな。 本人がやる気になっているし、余計なことはしないでおこう」
「それがよろしいかと」
スティクォンとしてもシディアの好きにさせるつもりだ。
「そうそう、スティクォン様にも山作りにご助力したいことがございます」
「別に構いませんよ。 必要な時に声をかけてください」
「では、その時が参りましたらお声をおかけします」
ウィルアムとの会話を終了するとスティクォンはリルを手伝いに南西の畑に戻った。
それから2週間後に地下が完成するといよいよ地上の山作りが始まった。
メルーアの【土魔法】で土を作り出すとファリー率いるドワーフたちが少しずつ傾斜をつけて地盤を固めていく。
川になる場所にはクレアの【鉱石創造】でオリハルコンの板を作成して埋めた。
これにより水漏れを防ぐことができる。
そのあとも作業は順調に進み、更に2週間後に山の外観が完成した。
遠目に人工山を眺めていたスティクォンのところにメルーアたちがやってくる。
「シディア、あれで完成か?」
『見た目だけな。 これから川の水を引いたり草や木を作成せねばならぬ』
「まだまだ時間がかかりそうだな」
シディアと話しているとそこにティクレが声をかけてきた。
「スティクォンさんに手伝ってほしいんだけど」
「えっと・・・僕の力が必要なの?」
「はい。 スティクォンさんのスキルが必要なんです」
「わかった」
「それでは参りますわよ」
メルーアたちに連れられてきたのは山の頂上から北北東の場所だ。
そこには大きな湖が広がっていた。
「ここは?」
「人工の湖だよ。 この湖にある水をあの場所まで引くのにスティクォンさんのスキルが必要なんだ」
ティクレが山頂を指さす。
湖から山頂までは急な傾斜でとても水を引けるようには見えなかった。
「え? ここからあそこまで?」
「そうだよ。 すでに水は引いたんだけど持続力がなくてね。 詳しいことは山頂に行って見てもらったほうが早いかな」
「とりあえず行ってみるか」
メルーアたちの案内でスティクォンは山頂へ向けて歩き出した。
緩やかな山道を歩くと程なく山頂へと到着する。
「登ってみるとそんなに高くないな」
「子供でも気軽に登れるように設計したからね」
「良い運動になりますわ」
高さ120メートル。
見た目は山というよりもどちらかといえば丘に近い感じだ。
「スティクォンさん、こっちです」
ティクレに案内されたところには変な筒がいくつもあった。
中を覗いてみると中心の棒に螺旋状の板がついており、先端には手動で回すハンドルが備えつけてある。
「これは?」
「私の【技術神】で開発した螺旋式汲み上げポンプだよ。 このハンドルを右に回すと水が螺旋状の板にすくわれて上へ上へと移動する仕組みになっているんだ」
「へぇ、そうなんだ」
スティクォンは試しにハンドルを右に回そうとした。
「ん? ぎぎぎ・・・」
全力で動かそうとするもハンドルはピクリとも動かない。
「はぁはぁはぁ・・・な、なんなんだ? これは・・・」
「スティクォンさん、これ一人で回すの無理だから」
スティクォンは疲れた顔でティクレを見る。
「え? それじゃ誰が回せるんだ?」
「ファリーさん」
「任せてください!」
ティクレに呼ばれてファリーがやってきた。
スティクォンが場所を譲るとファリーがハンドルに触る。
「いきますよ! せーの・・・それ!!」
ファリーは力任せに思い切りハンドルを右に回した。
勢い余ってかハンドルがくるくると右に回り続ける。
すると筒から水が噴き出してきた。
「・・・」
「どうだい? すごいだろ?」
「これ、何度やっても面白いですよね」
気に入ったのかファリーが楽しそうに見ている。
しかし、時間が経つにつれハンドルの回転が弱まり、やがて完全に停止した。
「あーあ、止まっちゃった・・・」
「と、こういう感じさ」
「つまり僕のスキルでこの回転を維持し続ければいいんだね?」
「その通り!!」
「わかった。 早速やろう」
ファリーは再びハンドルに触れると力任せに思い切りハンドルを右に回す。
スティクォンはすぐに【現状維持】を発動してハンドルの回転を維持するのであった。




