81.場所を考えよう
宴の翌日、スティクォンたち主要メンバーは人工海に集まっていた。
「みんな、こちらは狼の獣人のバーズさんと鷲の獣人のスポーグさんだ」
スティクォンに紹介されたバーズとスポーグが挨拶する。
「俺の名前はバーズ。 狼人族という狼の獣人だ」
「俺はスポーグ。 鷲人族という鷲の獣人だ」
メルーアたちもそれぞれ自己紹介をした。
お互い名乗ったところでバーズとスポーグはスティクォンたちに頭を下げる。
「まずは俺たちを助けてくれたことに改めて礼を言う」
「俺たちとしてもあの後どうやって生きていこうか考えていたんだ」
「そういえばどうしてあの場所にいたのですか?」
スティクォンの質問にバーズとスポーグが答える。
「実は俺たちは中央から逃げてきたんだ」
「獣の国では今『強硬派』と『穏健派』に分かれて対立しているんだ」
「なんか物騒ですね」
話を聞くとなんでも国を拡大しようと力で支配しようとする『強硬派』と相手を取り込もうとする『穏健派』で争っているそうだ。
「面倒臭いことこの上ない」
「俺たちは国を拡大することなんて興味もなければ望んでもいねぇ」
「どちらにも付かずに逃げたんだけど、そこに『強硬派』の奴らが兵を送ってきたんだ。 奴らは魔物や魔獣を使役して俺たちを襲ってきたんだ」
スティクォンは最初に会った時を思い出して納得した。
「それで僕たちを警戒していたんですね」
「その通りだ」
「あの時はすまなかったな」
「いえ、気にしないでください」
バーズやスポーグたち獣人の事情がわかったところで早速本題に入る。
「それでバーズさんとスポーグさんに畜産について色々聞きたいんだけど」
「そういわれてもな」
「俺たちだって知らないぜ」
顔を見合わせて困った顔をするバーズとスポーグ。
「とりあえずスキルを発動してみてくれないか?」
「ああ、わかった。 【陸殖神】」
「【空殖神】」
バーズとスポーグがそれぞれスキルを発動すると何やら納得をした顔をしている。
「なるほどな。 まずはどの動物をここで育てるか」
「だな。 どの鳥を育てるか検討しないとな」
「具体的にはどの動物や鳥を育てればいいのかな?」
「そうだな・・・乳が欲しければ牛や山羊、皮紙や毛が欲しければ羊、移動手段として使いたいなら馬だ。 ただ単に食用なら豚、猪、兎、鹿、熊だな。 ああ、あと俺のスキルは人や動物型の魔獣も対象にできるぞ」
「卵が欲しければ鶏、鶉だろう。 食用なら家鴨、鴨、七面鳥だ。 俺のほうも鳥型の魔獣は対象になっている」
それを聞いたスティクォンが苦笑いする。
「なるほどね・・・どうりで集落を襲う魔獣が多いと思ったらバーズさんとスポーグさんのスキルだったんだな・・・」
「ほかの同族と違って戦闘に関係ないスキルだったからほったらかしにしていたんだが」
「自動で発動していたっぽいな」
スティクォンは集落にいた時のことを思い出す。
時間があったので畜産用の動物を探して集落の周りを探すも1匹も見つからない。
その代わり動物型や鳥型の魔獣が引っ切り無しに襲ってきて、その都度迎撃していた。
実はソレーユが詩った4節目は豚や鶏といった生き物ではなく、魔獣を指していたのだ。
そうとは知らないスティクォンたちは動物探しに無駄な時間を費やしたのである。
もっとも倒した魔獣は全部食料として死の砂漠の開拓地に送ったが。
「それでスティクォン、何をここで育てますの?」
「バーズさんとスポーグさんが言った動物や鳥をここで飼おうと思っているんだけど」
「それがよろしいかと」
スティクォンの意見にメルーアたちが首を縦に振った。
「意見も一致したところでまずは環境作りからかな」
「厩舎が必要だろう」
「動物や鳥がお互いに危害を加えないように防護柵も必要になるだろうぜ」
「どこで育てるんですか?」
「そうだな・・・未開拓である北東がいいかな。 あそこなら動物や鳥を飼うのに十分な広さがある。 けど・・・」
スティクォンはビューウィを見た。
それを察したのか気にした様子もなく応える。
「あそこに作った花畑は別に潰してもいいわよ」
『ビューウィよ。 いくら簡単に作れるからといってせっかく作ったモノを潰すのはどうかと思うぞ。 潰すくらいなら我に任せよ』
シディアにしては珍しく花畑を潰すのではなく移動するといった。
「あら、それならお任せしてもいいかしら?」
『移動させるくらいなら容易いことだ』
「それならビューウィの花畑の移動はシディアに任せるとして、北東に家畜用の環境を作るということでどうかな?」
スティクォンの言葉に皆が頷く。
「満場一致ということで北東の未開拓地を動物や鳥の住める環境として開発します」
パチパチパチパチパチパチパチ・・・
メルーアたちが拍手する。
「まずは北東の開拓についてだけど・・・」
『それなのだがスティクォン、我に任せてくれないか?』
「? 別にいいけど」
許可するとシディアがメルーアたちを見る。
『スティクォン、ここにいる何名かを借りるが構わないか?』
「開拓に必要なら僕に断りを入れなくてもいいよ」
『そうか? それなら遠慮なく借りるとしよう』
スティクォンが承諾するとシディアが名を呼ぶ。
『メルーア、ウィルアム、ファリー、クレア、ハーニ、ビューウィ、ドレラ、アリアーサ、ティクレ、我を手伝え』
「わかりましたわ」
「畏まりました」
「やるわよ」
「頑張ります」
「はい」
「いいわよ」
「・・・(コクコク)」
「わ、私ですか?」
「お手伝いします」
メルーアたちはシディアのところに集まって話し合いを始めた。
「スティクォンさん、動物や鳥を育てる環境が整うまで俺たち獣人は何をしてればいいんだ?」
「それなんだけど、本格的な畜産が始まるまでリルたちホビット族と協力して収穫した農作物の荷運びを手伝ってくれないか?」
「応、それくらいお安い御用だ」
「是非手伝わせてくれ」
バーズとスポーグはスティクォンの提案に二つ返事で了承した。
そこにアールミスが話に割って入る。
「あ、そうだ、あのドーグという山羊人族を貸してくれないか? 医学に関して話し合いたい」
「それは構わないぜ」
「それじゃ遠慮なく借りるぜ」
こうして獣人たちの新しい生活が始まるのであった。




