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80.快復祝い

死の砂漠にある開拓地に戻ってきたスティクォン。

先に戻ったウィルアムの案内で急いで獣人の重傷者たちがいる家へと移動する。

家の中は未だ苦しんでいる重傷者たちが横たわっていて、アールミス、ドーグ、それに驢馬人族(驢馬ロバの獣人)を含めた10余人の獣人たちが看病していた。

スティクォンの【現状維持】で生命力や身体の状態を維持しているので死ぬことはないが、その状態では治療を施しても意味がない。

「遅れてすまない!」

「用意できてるぜ」

アールミスの近くには大量のポーションが用意されていた。

「これから重傷者の生命力や身体の状態を1人ずつ解除していくから」

「すぐにでも治療できるように体制は整ってます」

「それじゃ、始めるよ」

スティクォンが【現状維持】で維持していた獣人の生命力や身体の状態を解除する。

ウィルアムがすぐに【鑑定】で解除されたことを確認するとすぐに治療を指示した。

アールミスがポーションを飲ませたり患部にかけたりして傷を癒していく。

治療を終えた獣人をドーグが【医神】で身体の状態を確認して、問題なければスティクォンの【現状維持】で生命力を再び維持した。

「傷が治った!!」

危険域を脱した獣人が自分の身体に起こったことに驚き、そして、喜んでいた。

あとは流れ作業みたいなもので、重傷者の獣人1人1人に解除→回復→維持を施していくだけだ。

1人また1人傷が癒える度に歓喜の声が家中に木霊する。

最後の1人を癒し終えたところでスティクォンたちはようやく安堵した。

1人の死者も出さずに救えてホッとしているとバーズとスポーグが家に入ってくる。

「外まで声が聞こえてきたから来てみれば全員治っているじゃねぇか!」

「お前たち! 心配させやがって!」

バーズとスポーグも同族(獣人)が治ったことを自分のように喜んだ。

「邪魔したら悪いから僕たちは外に出ていようか」

「そうですな」

スティクォン、ウィルアム、アールミスは獣人たちを邪魔しないように静かに家を出た。

「ウィルアムさん、アールミスさん、お疲れさまでした」

「スティクォン様も戻って早々お手数をおかけしました」

「やっと肩の荷が下りたぜ」

スティクォンたちも談笑を始めた。

「それにしてもすごい量のポーションを作りましたね」

「採取した薬草をメルーアお嬢様やリル様、ビューウィ様、ドーグ様、ホビット族の皆様方が栽培に尽力しておりましたからな」

「おかげで癒し草や魔力草などの一般的な薬草から珍しい薬草や貴重な薬草、入手困難な薬草まで入手し放題だったぜ」

アールミスが機嫌良く話す。

「そうですね。 ぼくとしても驚いています。 医学的にも貴重な薬草が短期間で大量に手に入ったのですから」

不意にうしろから声が聞こえたので振り向くとそこにバーズ、スポーグ、ドーグがいた。

「獣人たちはいいのか?」

「怪我も治って命の危機を脱したのでもう問題ありません。 それよりもお礼を言いに来ました。 はっきりいってぼくと先生だけでは全員を助けることはできませんでした。 本当にありがとうございます」

「俺たちからも礼を言わせてくれ。 ありがとう」

「正直何人かは助からないと諦めていたんだ。 全員救ってくれたことに感謝する」

バーズたちが頭を下げる。

「1人も欠けなくてよかったよ」

「俺たちを助けてくれたんだ。 受けた恩はきっちりと返させてもらうぜ」

「たしか畜産がどうたらこうたら言ってたよな? 俺たちの力が役に立つなら存分に使ってくれ」

バーズとスポーグは改めてスティクォンたちの力になることを約束した。

「ありがとう。 畜産については明日話し合うことにして、今日は獣人の歓迎会と快復祝いをしようと思うんだけど・・・ウィルアムさん、準備できそうかな?」

「予想しておりましたのでいつでも宴ができるようにしております」

「話が早くて助かるよ。 それじゃ、今日の夕方に人工海で」

「畏まりました」

ウィルアムは一礼すると早速宴の準備をするべく行動を開始した。


太陽が西の地平線に触れる頃。

南東の人工海では総勢3000人以上が集まって宴が始まった。

日頃を労うように大量の酒と料理が振舞われる。

周りを見ると皆生き生きとしていた。

「皆楽しんでいるみたいだな。 ん?」

スティクォンの視線の先には獣人たちがアールミスを囲んでお礼をしていた。

「アールミス様、助けていただきありがとうございます」

「もうダメだと思いました」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「むず痒いからやめてくれよ」

アールミスは照れ隠しからかワインを一気に呷る。

立役者であるシディアも気を良くしたのか豪快にワインを飲んでいた。

よく見るとシディアの周りには空になった樽が10樽以上転がっている。

「あれだけ飲んでまだ飲み足りないとかすごいな」

「ああ、それは俺も思うぜ」

「俺たちだって結構飲んでるけどシディア様には敵わないぜ」

バーズとスポーグがジョッキを持ってスティクォンの隣まで歩いてきた。

「バーズさん、スポーグさん、楽しんでますか?」

「当たり前だろ」

「こんな美味い酒を飲んで楽しまないなんてありえねぇな」

そういうとジョッキを口につけてゴクゴクとワインを飲んだ。

「ぷはぁ、美味(うめ)ぇな」

あんなところ(獣の国)じゃこんな美味い酒なんて飲めねぇもんな」

酒のつまみにと用意された料理を食べてさらに上機嫌になる。

「それに出される料理も格別だ」

「どれも新鮮で驚かせれるばかりだ」

「リルやホビットたちが聞いたらきっと喜ぶよ」

それからしばらくスティクォンはその場で酒を飲みながら獣人たちを眺めていた。

初めて会った時の暗い顔が嘘のようだ。

「みんな良い笑顔だな」

「当たりめぇよ」

「祝いの席で辛気臭いのはなしだぜ」

バーズとスポーグの言葉にスティクォンも同意する。

「それもそうだな」

「さぁ、俺たちもガンガン飲もうぜ」

「ああ、シディア様に負けないぐらい飲んで飲んで飲みまくるぞ」

「ははは・・・ほどほどにね」

苦笑しながらも宴を楽しむスティクォンたちであった。


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