79.獣人たちの移送
獣人を無事にスカウトしたスティクォン。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。 俺の名前はバーズ。 狼人族という狼の獣人だ」
「俺はスポーグ。 鷲人族という鷲の獣人だ」
バーズとスポーグが名乗るとスティクォンたちも名乗った。
「僕は人間族のスティクォン」
「私は魔族で名前はウィルアムと申します」
「アルラウネのビューウィよ」
「名はアールミス。 ダークエルフだ」
「それとあそこにいるのがシディアというドラゴンだ」
スティクォンが指さすとそれにつられて獣人たちがそちらを見る。
ドラゴンの存在を確認した獣人たちが蒼褪めた顔をした。
「ド、ドラゴンだ!!」
「は、早く逃げろ!!」
「お助けを・・・」
獣人たちはパニックを起こして右往左往していた。
「皆さん! 落ち着いてください! あのドラゴンは僕たちの仲間です!!」
なんとか宥めようとするが、それよりも早くシディアが飛んでやってきた。
人がいないところを見つけて着陸する。
突然のことに若者たちはその圧力に屈して動けず、年寄りは腰を抜かし、女性たちは恐怖から震えていた。
ただ、子供たちはドラゴンを見て、その恰好良さから目を輝かせている。
『スティクォン、呼んだか?』
「いや、呼んでないから。 とりあえず無事にスカウトできて一段落ついたところだよ」
『それでこれからどうする?』
今後の方針について聞かれたので考えを話すことにした。
「ここにいる獣人を全員連れていくことになった。 何往復かしてもらうことになるからよろしく頼むよ」
『わかった。 重傷者はどのようにして運ぶつもりだ?』
「それについてはここにファリーを連れてきてくれないか。 小屋みたいなものを建ててその中に固定して運んでもらう予定だ」
クーイたちの茸の家を思い出したのだろう、シディアが納得する。
『なるほど。 では、スティクォンたちの準備ができ次第戻るとしよう』
それだけいうとシディアはその場で蹲った。
獣人たちは何も起きなかったことに安堵する。
「えっと、あんた・・・スティクォンさんだったか? 肝が据わっているな」
「シディアとは良い関係を築いているからね」
出会ってまだ1年も経っていないが、スティクォンもシディアもお互い信頼できるほど仲が良くなったのはたしかだ。
「それはそうと獣人たちを受け入れる準備が必要だよな」
「ほかにはポーションなどの回復薬で使われる材料の量産と製造が必要になるでしょう」
「あー、そういえば癒し草や魔力草などの錬金術で使う素材はあんまりなかったような気がするな」
「それならここら辺に自生しているのを採取してむこうでメルーアとリルに量産を協力してもらうといいわ」
スティクォンたちが話し合った結果、最初にアールミスと獣人の女子供数人を死の砂漠の開拓地に連れていくことにした。
話を聞いていたバーズとスポーグだが、見知らぬ土地に行くということで護衛を何名かつけることで了承する。
纏まったところで連れていく者たちを決めるとスティクォンは【現状維持】を発動して獣人たちの生命力を始めとした今の状態を維持した。
それからアールミスと連れていく獣人たちをシディアの背に乗せる。
「それじゃ、頼んだよ」
「獣人たちについては任せてくれ」
『むこうに着いたらファリーを連れてすぐに戻ってくる』
シディアは翼を羽搏かせると空高く浮かび北へと飛んで行った。
「スティクォン様、シディア様が戻ってくるまではいかがいたしましょうか?」
「僕はスキルを使って先ほど倒した魔獣たちを腐敗させないよう鮮度を維持する。 ウィルアムさんとビューウィは獣人の皆さんと協力してこの集落の近くに自生している癒し草や魔力草などの薬草を集めてもらえないか? 僕も終わり次第手伝うから」
「畏まりました」
「任せておきなさい」
それぞれやることを把握すると行動を開始した。
スティクォンは獣人たちと協力して魔獣たちの死体を集めると【現状維持】を発動して鮮度を維持する。
ウィルアムとビューウィも獣人たちと協力して薬草を採取した。
2日後───
シディアがファリーを連れて戻ってきた。
「スティクォンさん、手伝いに来ました」
「ファリー、早速だが頼めるか?」
「任せてください!」
話を事前に聞いていたファリーは集落の外に行くと【製造神】を発動して持ってきた斧で次々と木を切り倒していく。
ある程度材料がそろったところで慣れた手つきであっという間に頑強な小屋を建てた。
「できました!」
獣人たちは小さい女の子が小屋を建てたのを見て皆驚いている。
「ファリー、担架を作ってくれ」
「はい!」
ファリーは【製造神】を再び発動して100個の担架を作った。
「スティクォンさん、できましたよ!」
「ありがとう」
獣人たちに協力してもらい重傷者を担架に乗せると小屋に運んだ。
重傷者で満たされるとシディアに話しかける。
「シディア、お願いする」
『任せるがいい』
シディアが行動に移ろうとしたその時、驢馬人族と山羊人族
「おーい、彼も一緒に連れて行ってくれ」
山羊人族が頭を下げる。
「ドーグといいます。 よろしくお願いします」
「ドーグは【医神】というスキルを持っておる。 何かあれば対応してくれるはずじゃ」
「それは心強いな。 そういうことならむこう
「はい!!」
ドーグと採取した大量の薬草を乗せるとシディアは再び死の砂漠にある開拓地へと戻っていった。
それから毎日多くの獣人が死の砂漠にある開拓地へと移送された。
シディアだけなら死の砂漠から獣の国の集落までの距離など一瞬だ。
因みにファリーが作った小屋はむこう
薬草の採取を終えたウィルアムとビューウィも先に帰らせて栽培をお願いする。
ついでに倒した魔獣たちも食料となるので全部送った。
そして、ついに獣人たちの移送も終わりをむかえる。
集落に最後まで残ったのはスティクォンとファリー、バーズ、スポーグ、それと獣人30余人だ。
「これでここともお別れか・・・」
「寂しいものだな・・・」
バーズとスポーグは名残惜しさを感じつつスティクォンたちとともに新天地へとむかうのであった。




