77.生命維持
目的の獣人に会いに行こうとするスティクォンたちの目の前に虎人族と鷹人族が立ち塞がった。
「お前たち、見ない顔だな」
「人間族にダークエルフ、花の精霊、それに見たこともない種族がいるな。 ここへは何をしに来た?」
虎人族がスティクォンに問いかける。
「ここに畜産に詳しい獣人がいると聞いてやってきました」
スティクォンは素直に答えることにした。
「・・・どうやら敵意はなさそうだな」
「ああ、もし、この者たちに何かすればあのドラゴンが黙っていないだろう」
鷹人族の目が遠くにいるドラゴンを捉えている。
が、その額には大量の汗が流れていた。
獣人たちがドラゴンを警戒するようにシディアもまたスティクォンたちと獣人たちの動向を窺っていたのだ。
「・・・客人、歓迎する」
「といっても、今は立て込んでいておもてなしはできないがな」
それだけ言うと獣人たちに連れられてスティクォンたちは集落に招待される。
集落につくと其処彼処に傷を負った多くの獣人たちが横たわっていた。
「これは・・・」
「酷い有様ね」
スティクォンたちが驚いていると虎人族が声をかけてくる。
「客人、こっちだ」
虎人族が歩き出したのでスティクォンたちも黙ってついていく。
1つの藁の家に到着すると中に入るように促す。
スティクォンたちが入るとそこには傷ついた狼人族と鷲人族の男たちが胡坐をかいていた。
「・・・人間族か・・・」
「ここへ何しに来た?」
「ここに畜産に詳しい獣人がいると聞いてやってきました。 できれば、その方を僕たちが開拓している場所に招きたいと思っています」
先ほどと同じ問答をするスティクォン。
「そうやって俺たちを油断させてうしろから襲うつもりなのだろう?」
「その手には乗らないぜ」
狼人族と鷲人族は武器を取ると無理やり立ち上がった。
よろよろな状態で矛先をスティクォンたちに向ける。
「邪魔するぞ・・・っと、何をやっとるんじゃ! 絶対安静だと言っただろうが!!」
そこに家に入ってきた老齢の驢馬人族が狼人族と鷲人族を見るや否や叫んだ。
「こいつらを生かして帰したらここを攻められる可能性があるんだぞ」
「ここを守るために俺たちの命だけで済むなら安いものだ」
鷹人族が口を挿む。
「待ってくれ! そいつらを殺すと外にいるドラゴンが何をするかわからないぞ!!」
「ドラゴン・・・だと?」
「俺たちを排除しようとそこまでするのか・・・」
気力が抜けたのか狼人族と鷲人族は倒れそうになるが、虎人族と鷹人族がその身体を支える。
「ほら! 言わんこっちゃない! すぐに横になるんじゃ!!」
驢馬人族の指示のもと、狼人族と鷲人族を寝かせる。
その際に傷口が開いたのか出血したようだ。
アールミスは持っていたポーションを2本取り出した。
「これを使うといい」
「これはポーションか? ありがたい・・・」
ポーションを受け取った驢馬人族がアールミスを見て驚いた顔をする。
「あ、あんた・・・まさか、あの時の錬金術師か?」
「ん? そういうお前はあの時のボウズか?」
当時の事を思い出したのだろう、驢馬人族が懐かしい目でアールミスを見た。
「もう70年以上前じゃったか・・・あの時はありがとう。 おかげで多くの者が命を救われた」
「褒めるなよ。 照れるじゃないか」
アールミスは顔を真っ赤にしてぶっきらぼうに応える。
「そんなことより早くそのポーションで治してやれよ」
「そうだったな。 ほれ、二人とも飲むんじゃ!」
驢馬人族が狼人族と鷲人族の口に無理やり瓶を突っこむとポーションを流し込んだ。
喉を動かしながら飲み込んでいく。
その直後、身体が発光して傷口が塞がり癒された。
「傷が!!」
「治った!!」
獣人たちは傷が治って喜ぶが、すぐにアールミスに頭を下げる。
「お願いがある。 持っているポーションを全部くれないだろうか?」
「怪我人や子供たちを助けてほしい。 この通りだ」
「それは構わないが私はそんなに持ってないぞ?」
アールミスは持っているポーションすべてを取り出すと驢馬人族に渡した。
「材料と道具さえあれば私がポーションを作ってやるよ」
それに対して驢馬人族が首を横に振る。
「ポーションを作る材料が枯渇しているんじゃ。 今のところ必要最低限を残して全部使ってしまった」
「材料がないんじゃお手上げだな」
そんなことを話していると山羊人族
「先生! 大変です! 重傷者の様態が急変しました!!」
「なんだと?! 今すぐ行くぞ!!」
驢馬人族はポーションを持ってすぐに家から出て行った。
「スティクォン様」
「僕たちもできることがあれば協力しよう」
スティクォンたちが頷き合うと家から出る。
外では先ほどの驢馬人族と山羊人族が重傷者の手当てを行っていた。
「先生! ポーションの数が足りません!!」
「しっかりするんじゃ!!」
アールミスが手渡したポーションを使い切ったのか、ほかの重傷者たちの手当に天手古舞だ。
「ウィルアムさん」
「承知しました」
ウィルアムが【鑑定】で重傷者たちの状態を次々と確認していく。
「スティクォン様、スキル
「わかった」
スティクォンは【現状維持】を発動して重傷者たちの生命力を維持した。
さらに血液量が減らないようにするのと傷口がこれ以上開かないように身体を維持する。
これにより死は免れたが、痛みや苦しみから逃れたわけではない。
「とりあえず応急処置は済んだよ」
安堵するスティクォン。
そこに驢馬人族と山羊人族がやってくる。
「お前さんたち、治療の邪魔じゃ」
「すみません。 勝手なことですが僕のスキル
「生命力を失わないようにした?」
「俄かには信じられないんじゃが?」
状況を理解できていない驢馬人族と山羊人族が不審な目で見てきた。
「疑うのもわかりますが事実です」
何かを言おうとしたその時、大声が聞こえてきた。
「大変だ! 魔獣が攻めてきたぞ!!」
突然の魔獣の襲撃に獣人たちに緊張が走った。




