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76.獣の国へ

ソレーユの(うた)により畜産のヒントを得たスティクォン。

『それでスティクォン、いつものようにスカウトしに行くのだな?』

「ああ、人選を決めたら獣の国へ出発する予定だ」

「誰を連れて行くんですか?」

スティクォンは思案する。

「今のところ【鑑定】が使えるウィルアムさんと現地のアルラウネと通信できるビューウィは確定で、できれば魔法が使えるメルーアを連れていきたいところだけど・・・」

「スティクォン様、獣の国が危険な場所であればメルーアお嬢様をお連れするのは承服しかねます」

危険を察知したのかウィルアムがメルーアの身を案じて連れていくことを拒否する。

「・・・たしかにウィルアムさんの心配ももっともだ。 僕が知る獣人族は人間族と比べると温厚な種族といえるが絶対とは言い切れないですから」

「それなら私が同行するぜ。 獣の国には昔行ったことがあるからな」

名乗りを上げたのはアールミスだ。

「アールミスさん、いいのですか?」

「ああ、構わないとも。 魔法もちゃんと使えるから安心しろ」

「それじゃ、ウィルアムさん、ビューウィ、アールミスさんを連れていきます」

同行者が決まったところでシディアが声をかける。

『決まったようだな。 では、スティクォン、ウィルアム、ビューウィ、アールミス、我の背中に乗れ』

スティクォンたちはシディアの背中に乗る。

「シディア、目的地は王国よりも南にある獣の国だ」

『南だな。 よかろう』

シディアは翼を羽搏かせるといつもより空高く浮かび南へ飛んで行く。

『うむ、それでソレーユの(うた)では獣の国ははるか南と言っていたな』

「それについては僕が知っているから指示するよ」

『道案内は任せるぞ、スティクォン』

しばらく南に飛んでいると砂漠が終わり、山脈を超えるとそこから先は荒地が広がっている。

先を進むといつまでも荒地が続くだけだ。

「!!」

「スティクォン様、いかがなされましたか?」

「いや、なんでもない」

何事もないように振る舞うスティクォン。

しかし、内心ありえない光景に驚いている。

(おかしい・・・王国はこんなに荒廃していたか?)

記憶の中の王国はたしか緑豊かな国であったと。

だが、現実はスティクォンの【現状維持】が解除されたことによって本来の国の姿に戻りつつあるのだ。

そうとは知らないスティクォンからしてみれば急変したと思い込んでも仕方ないことだろう。

それから23時間が過ぎると今まで以上に荒れた土地が目に入った。

(! あれはアバラス公爵家の館だ! ということはここはアバラス公爵領なのか?!)

あまりにも様変わりした故郷にスティクォンは言葉が出てこなかった。

(いや、僕はアバラス公爵家から追放されたんだ。 今の僕にはもう関係ないことだ)

スティクォンは考えるのを止めた。


死の砂漠にある開拓地を出発してから1日が経ち、目的地である獣の国に到着したがここで問題が発生する。

それはどこに着地するかだ。

なるべく人がいない場所を探すと丁度良い森を見つけたのでシディアに指示して降り立つ。

「ふぅ、無事に獣の国に着いたな」

シディアから降りるとアールミスが自分の腹を触る。

「それにしてもスティクォンさんの【現状維持】というスキルはすごいな。 時間にして1日は経っていると思うが空腹を感じないなんて・・・飲まず食わずだと腹が減るのが普通だぞ」

ここ(獣の国)に来る前にスティクォンが【現状維持】で全員の腹の状態を維持していた。

「スキルを解除しない限りは今の状態を維持し続けることができるからね。 それであの場所(死の砂漠)まで行って本来ならメルーアとウィルアムさんの3人で細々と暮らす予定だったんだけど・・・」

「ほっほっほ、あの時は飲まず食わず眠らず休まずに10日間も歩きましたからな。 土地を作成したところでシディア様が尋ねられましてそれから徐々に発展していきました」

「と、10日間もあの砂漠を歩いていたというのかっ?!」

スティクォンとウィルアムの昔話を聞いてアールミスが呆れた顔をする。

「ま、まぁ、今は多くの人たちに支えられて暮らしているけどね」

「私たち3人だけでは今のような生活はできませんからな」

スティクォンたちは軽く笑いあうとシディアが問いかける。

『それでスティクォン、目的の者はどこにいる?』

「今回は事前に調べていないからな・・・ビューウィ、お願いできるか?」

「任せなさい」

ビューウィは誰もいないほうへと声をかける。

「誰かいないかしら」

するとビューウィとは違う姿のアルラウネが現れる。

「何かしら?」

「狼の獣人と鷲の獣人について教えてほしいの」

ビューウィの質問にアルラウネが答える。

「狼の獣人と鷲の獣人? たしかここから南南東に最近できた集落があってそこにいたと思うわ。 ただ、今この国(獣の国)は荒れているから行くなら気をつけたほうがいいわよ」

「ありがとう。 助かったわ」

「どういたしまして」

アルラウネはその場から姿を消す。

「場所は分かったけどなんか物騒なことを言っていたな」

「荒れていると仰っていましたな」

「とりあえず集落に向かうとしよう。 シディアはここで待機していてくれ」

『うむ、何かあれば我を呼ぶがいい』

シディアをその場に残してスティクォンたちはアルラウネに教えてもらった集落へと移動する。

森を歩くこと2時間、アルラウネの情報通り集落を見つけた。

「あの集落かな?」

「そのようだな」

早速向かおうとしてビューウィがスティクォンの服の袖を掴む。

突然の行動に驚くスティクォン。

「ビューウィ、どうした?」

「スティクォン、囲まれたわ」

ビューウィの言葉にスティクォンたちが戦闘態勢に入る。

背後を取られないようにお互い背中を庇い合う。

警戒していると2人の獣人が姿を現した。


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