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75.変な詩 再び

スティクォンたちは悩んでいた。

酵母、ワイン、パンと次々と新しい物を作りだすが圧倒的に足りないモノがある。

それは人だ。

特に農作業が不足していた。

今のところはリル率いるホビットたちが農作業とパン作りを、ファリー率いるドワーフたちに建築作業と酒造りを手掛けてもらっている。

だが、ホビットたちに野菜、果物、麦など栽培が多岐にわたり、1つ1つに分散させると人手がまったく足りていなかった。

話し合いの結果、東のドワーフの国でホビット族とドワーフ族をまたスカウトすることに。

今回は各地で細々と暮らしているホビット族・ドワーフ族だけでなく集落に赴いて移住希望者を募ったところ、ホビット族950人、ドワーフ族450人、計1400人が移住を承諾する。

また、海人たちも人手を希望したので海まで行って魚鱗人族440人、人魚30人、セイレーン30人、計500人をスカウトしてきた。

これにより死の砂漠の開拓地の人口が一気に2100人超に増加した。

いきなりの人口増加に最初こそ先行組と後行組が上手く連携が取れない問題が発生したが、リルたちの努力により次第に打ち解けていった。

そして、ついにあの問題が浮上する。


それは後行組がここ(死の砂漠)にやってきて1ヵ月が経過した時だ。

食事を終えてスティクォンは1人のんびりしていたところ突然声を掛けられる。

「スティクォンさん、ちょっと話があるんですけど・・・」

そちらを向くと後行組のホビットやドワーフの若者たち10数人がそこにいた。

「どうした? なにか問題でもあったのか?」

「あの・・・実は・・・」

言い淀んだが意を決して聞いてきた。

「次はいつ肉を食べられますか?」

「肉?」

「はい。 野菜や果物、魚にパンとどれもとても美味しいのですが、肉が美味しかったので・・・」

肉。

シディアがたまに肉が食べたいとスティクォン、ファリー、ドレラを引き連れて狩りに出かける。

その時に狩るのはだいたいフォレスト・ベアで、数にすると13~17匹くらいだ。

そのうち3匹がシディアに、1匹がドレラの胃袋に収まるので、お持ち帰りは実質9~13匹である。

今までは狩ってきた数に対して食べる人数が少なかったため冷凍保管庫に保存していた物でも事足りていたが、人口の増加に伴い1回の消費量が一気に増加した。

「ああ・・・たまにフォレスト・ベアを狩りに外に行くんだけど、シディアに頼まないと生息地まで行けないし、入手もできないからな・・・」

フォレスト・ベアと聞いて若者たちは顔を蒼褪める。

「そ、そうですか・・・」

スティクォンの回答に落ち込む若者たち。

「次狩りに行くときはなるべく多く狩ってくるよ」

「わ、わかりました。 ありがとうございます」

若者たちは礼をするとその場から立ち去った。

「・・・肉か・・・ここで畜産業とかできるかな・・・とりあえずウィルアムさんに聞いてみよう」

スティクォンはウィルアムのところへ向かう。

南西の畑に到着するとメルーアやリルたちと一緒に畑仕事を手伝っていた。

「えっと・・・あ! いたいた、ウィルアムさん。 ちょっといいですか?」

「スティクォン様、何か用でございましょうか?」

「ウィルアムさんは畜産に詳しいですか?」

「残念ながら畜産についての知識は持ちあわせておりません。 お役に立てず申し訳ございません」

ウィルアムは申し訳なさそうに頭を下げる。

「そっか・・・どうしよう・・・」

困り果てたスティクォンにウィルアムが助言する。

「それなら皆様に聞いてみたらいかがでしょう?」

「そうですね。 1人で悩んでも仕方ないですからね」

スティクォンとしても誰かが知っていればその人から教えてもらおうと思っていた。

「皆様には私のほうから声をかけておきましょう。 場所は南東の人工海がよろしいかと」

「それでお願いします」

「畏まりました」

ウィルアムは一礼すると早速行動を開始した。


ウィルアムの呼びかけで南東の人工海にスティクォンたち主要メンバーが集まった。

「スティクォン、話って何かしら?」

「実は肉が食べたいという意見をもらったんだけど、ここで畜産ができないかなって皆に相談するために集まってもらったんだ」

肉という単語にシディアが目を細める。

『ふむ、ついにこの時が来たか。 我もいずれ提案しようと考えていた。 ここに牛や豚、鶏などを放牧したらどうだ? 育ったのを食用にしたい』

「シディアは肉が好きだものな」

「ドレラもお肉好き」

シディアだけでなくメルーアたちも同意するように頷く。

『ただ我は畜産については何も知らぬ。 故に後回しにしていたのだがな』

「僕もだけど先ほどウィルアムさんにも聞いたけど畜産に知識がないんだ。 そこで畜産に詳しい人がいないかと集まってもらったんだ」

「私は知らないですわ」

「私も知りません」

スティクォンの問いに皆首を横に振る。

「やっぱり皆知らないか・・・」

「念のためほかの方たちにも聞き取りをしましたが、残念ながら皆様ご存じないようです」

いよいよここでの畜産が難しいとなったその時、ソレーユが(うた)いだした。

「ここからはるか南に~♪ 獣のような人がいて~♪ 狼と鷲の2種が~♪ 自覚もなく育ててる~♪」

突然の出来事にスティクォンとティエス以外の全員が驚いた。

「もしかすると今のがソレーユさんの【吟遊詩神】ですの?」

「たしかに変わった(うた)ですね」

皆不思議そうにソレーユを見ていた。

『そんなことよりも早く(うた)を解読するのだ』

「落ち着け、シディア。 今回は簡単な(うた)だから」

「スティクォン、解読をお願いしますわ」

スティクォンは頷くとソレーユの(うた)を紐解いていく。

「1節目はここや王国の更に南にある獣の国を、2節目は獣人という種族を、3節目はおそらくだけど見た目が狼と鷲の獣人をそれぞれ指している。 4節目も仮定だがスキルを使って豚や鶏といった生き物を無意識のうちに育てているのではないかと推測する」

「スティクォンさん、よくソレーユの(うた)を解読できるわね」

ティエスが感心したようにスティクォンを見る。

「偶々知っている単語があっただけだよ・・・って、皆僕を変な目で見ないでよ」

「だって・・・」

「ねぇ・・・」

メルーアたちは珍獣を見るような目でスティクォンを見ていた。


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