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73.リクル5 〔リクル視点〕

時はスティクォンがエルフをスカウトする前に遡る。




私は王国の南にある獣の国に来て1ヵ月が経とうとしています。

「今のところは問題なく溶け込めているわね」

獣の国の中では比較的大きな町に身を寄せています。

王国とは違い多くの獣人族たちが町中を歩いています。

「今日も冒険者ギルドで仕事を探すとしますか」

私は準備を整えると冒険者ギルドへと向かいます。

到着して中に入ると多くの獣人族の冒険者たちが依頼板の前で実りの良い仕事を取り合っていました。

依頼板を無視して私は耳が猫の受付嬢のところに行きます。

「リアラにゃん、いらっしゃいませですにゃ」

リアラというのは私が獣の国で使っている偽名です。

私の正体がリクル・アバラスとバレれば何が起きるかわからないですからね。

「ジーニャさん、こんにちは。 今日は何か良い依頼はないかしら?」

猫人族であるジーニャさんに問い合わせると2枚の紙を取り出して目の前に置きました。

「リアラにゃん、腕はいいからこれなんかどうかにゃ?」

紙を受け取って見ると1つ目が討伐依頼、2つ目が護衛依頼です。

「詳しく聞いてもいいかしら?」

「はいにゃ。 1つ目の討伐依頼はフォレスト・ウルフの毛皮が欲しいのにゃ。 にゃのでにゃるべく毛皮は無傷が好まれるのにゃ」

フォレスト・ウルフは獣の国の森に群れで生息しています。

その戦闘力は個体でも侮れなませんが、一番厄介なのは集団での戦闘でしょう。

統率されていて群れのリーダーを叩かない限りは怯まず襲ってくるので単騎での討伐は普段は推奨しません。

ただ、スティクォンからの恩恵を失ったとはいえ、今の私でも十分に対応できるからこそ依頼を回してくれるのでしょう。

「これって毛皮だけでなく牙や肉、魔石も買い取ってくれるのかしら?」

「はいにゃ。 リアラにゃんならいつものように額に一撃で倒せば残りの部位も買い取るにゃ」

私は倒すのは得意でも解体は苦手なので狩ってきた魔物は冒険者ギルドにすべて丸投げしています。

その際に食用肉だけ貰い、それ以外は全部売って生計を立てているのが現状です。

(いつも通りの依頼ね。 もう1つのほうはどんな依頼かしら?)

私が納得したのかジーニャさんが話を続けます。

「2つ目の護衛依頼は輸送の護衛にゃ。 今日の朝早くに商人が来て依頼をしていったにゃ」

「護送の依頼ね。 行先と人数は?」

「行先は王国にゃ。 先着で10人にゃ」

行き先を聞いた私は顔を顰めます。

(よりによって王国か・・・この依頼はパスね)

私は1つ目の討伐依頼を受けることにします。

「ジーニャさん、こちらの依頼を受けます」

「畏まりましたにゃ。 すぐに手続するにゃ」

ジーニャさんは慣れた手つきで依頼を受領します。

「受付しましたにゃ」

「それじゃ、行ってくるわね」

私は冒険者ギルドを出るとフォレスト・ウルフが出現する森へと向かいました。

いつもの依頼にいつもの場所。

この時の私は慣れたことにより気づかぬうちに心にゆとりを持ちすぎていました。

森に着くなり標的であるフォレスト・ウルフの群れを確認すると私は腰にぶら下げている剣を鞘から抜いて正眼に構えます。

「グルルルルル・・・」

威嚇して隙を突こうとしますがこの程度ならば怯えることはないです。

私は少しずつ前へと移動してフォレスト・ウルフに近づきました。

「いくわよ」

間合いに入ると一気に攻め込みます。

弾けるように突進してからの刺突により一番近くにいるフォレスト・ウルフが反応できませんでした。

額に剣が突き刺さり悲鳴を上げまている間にすばやく剣を引き抜いてその場を離れます。

しばらくして額に一撃を受けたフォレスト・ウルフは絶命しました。

フォレスト・ウルフたちもただ黙ってみているだけでなく、群れで襲ってきます。

私は距離を取りつつ一対一になるようにして群れと相対します。

そうして1匹また1匹とフォレスト・ウルフたちを倒していき、ついに最後の1匹を倒しました。

「ふぅ・・・これだけあれば問題ないわね」

一息ついたらフォレスト・ウルフを回収して帰ろうと考えていると周りに怪しい気配をいくつも感じました。

(! いつの間にか囲まれている)

私が警戒していると包囲を完了したのか男たちが姿を現しました。

「こんなところに帝国でも有名なリクル・アバラスがいるとはな」

その瞬間私は内心舌打ちしました。

(よりにもよって帝国の軍隊がこんなところにいるとは・・・)

服装こそ冒険者の恰好をしていますが、間違いなく帝国の軍人たちでしょう。

「リクル・アバラス? 誰ですか?」

「惚けなくてもお前のことは【鑑定】の能力者を使って確認済みだ」

【鑑定】で確認されたのであれば白を切るのは無理そうです。

私はすぐに対応できるように身構えました。

「それで何の用ですか?」

「お前を捕らえて王国の守護者たる【剣聖】イコーテム・アバラスの切り札にするのさ」

そういって彼らは包囲網を狭めていきます。

「残念ですけど私ではお父様への切り札とはなりえませんわ」

スティクォンならともかく今の私など眼中にないでしょう。

「それを決めるのはお前ではない。 俺たちだ」

言うが早いか彼らが一斉に襲い掛かってきました。

(獲物は諦めますわ)

私は一番手薄なほうに向かって全力で走ります。

「逃がすな!!」

逃げた先の男を一撃のもとに倒すと振り向きもせずにそのまま走り続けます。

シュッ!!

何かが後方から飛んできて私の左腕を掠りました。

「くっ!!」

痛めたところを見ると刃物による裂傷のようです。

傷の手当はあとにして私は包囲網を抜けて逃げ続けます。

(!!)

しかし、そこで身体に異変を感じました。

突然目の前がかすみ意識が混濁したのです。

(ま、まさか、これって毒?)

私はなんとか意識を保ちながら逃げに徹します。

その甲斐あってか距離を離すことに成功しました。

やがて川まで辿り着くと辺りを見渡します。

逃げる候補としては洞窟、川の対岸、川の上流と下流の4ヵ所があります。

朦朧とする中逃げていましたがついに限界がきました。

「も、もう・・・ダ・・・メ・・・」

ドサッ・・・

意識を手放した私はその場に倒れると転がり落ちていきました。


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