72.ロニー5 〔ロニー視点〕
時はスティクォンがエルフをスカウトする前に遡る。
「おい! 新入り! ちゃんと東のほうを見張っておけよ!!」
「・・・はい」
俺は今現在東の帝国近くの国境付近にある王国魔法兵団の駐屯地にいた。
なぜ俺がこんな場所にいるかというと宮廷魔導師団を除名されて第四魔法兵団に異動したからだ。
(なぜ俺がこんな目に合うんだ・・・)
俺は自分の身に起きたことを振り返る。
1ヵ月前───
スティクォンが俺に齎していた恩恵は計り知れない。
今まで誰にも負けないと自負していた無尽蔵の魔力は実はスティクォンの【現状維持】というスキルで成り立っていたことを。
それを失って初めて自分の力が高が知れてると痛感した。
現に今もほかの魔導士たちとの差が埋まらない。
「どうした? もう終わりか?」
「はぁはぁはぁ・・・」
「これで仕舞いだ!!」
練習相手の魔導士が放った火球を俺は【水魔法】を発動して水の壁を張ってやりすごそうとする。
だが、火球は水の壁を破壊して俺に襲い掛かった。
「ぐわあああああぁーーーーーっ!!」
火球が直撃した俺は痛みから叫ぶことしかできなかった。
それからしばらくして火が消えると俺は気を失ってその場で無様に倒れるのであった。
「ぅ、ぅぅん・・・」
「気が付いたか?」
目を覚ますと俺は医務室のベッドに寝かされていて、宮廷魔導師団団長が隣で椅子に座って俺のことを見ていた。
「だ、団長・・・」
俺は上半身を起こすが身体のあちこちから痛みが襲ってくる。
「ロニー、今日はお前にとって悪い知らせがある」
「わ、悪い知らせ?」
団長は懐から1枚の紙を取り出すと俺に渡す。
受け取って開いてみるとそこには宮廷魔導師団からの除名と書かれていた。
「だ、団長っ!!」
「ロニー、お前には失望したよ。 聞けばお前の弟だったか? そいつの力がないと何もできないほど弱いと皆いっているぞ」
「そ、それは・・・」
事実を突きつけられて俺は言葉を失う。
「とはいえ、ほかの団員たちも弱体化・・・というか元の力に戻ったというべきか? お前の弟がこれほどの力を持っていたということは間違いないだろう。 ただ、お前はほかの団員と違ってそいつの力を色濃く受けていた」
「・・・」
そう、俺は思い出した。
無尽蔵の魔力を手に入れたのはスキル【賢聖】を授かった後だ。
きっかけはスキル【賢聖】を父上とともに家族に報告したときのことだ。
最初こそ魔法を使用したあとに倦怠感を感じていたが、いつの間にか倦怠感がなくなり、そのうちいくら魔力を使っても底を尽きないことに気づいた。
それからは魔力に物を言わせて力任せな魔法の使い方をしてきたものだ。
派手な魔法に魅了され、緻密な鍛錬を怠り、己を過信し、力に溺れた結果が今の俺という訳だ。
スティクォンが父上からアバラス公爵家を追放されるまでは。
「その紙にも書いてあるが、お前の行き先は第四魔法兵団だ」
「なっ?!」
俺は辞令のところを見ると第四魔法兵団への異動が明記されていた。
(第四魔法兵団といえば別名『魔導士の墓場』とも言われる場所じゃないか!!)
俺は団長を睨む。
その視線に気づいたのか団長がお道化る。
「言っておくがこの配属を言い渡したのは国王陛下だからな。 恨むなら陛下を恨めよ」
「・・・」
紙の最後にはラストール国王陛下の名が書かれていた。
「もし、力が消失していなければいずれは団長まで上り詰めていただろうにな・・・惜しい人材を失ったと思っているよ」
「そ、それなら・・・」
団長は首を横に振る。
「宮廷魔導師団に残れないか頑張ってみたが陛下の決定を覆すことはできなかった」
「・・・そうですか・・・」
俺はそれだけ言うのが精一杯だった。
「一両日中に荷物を纏めて出て行ってくれ」
「・・・わかりました」
要件が済んだのか団長は立ち上がると医務室から出て行った。
「・・・なぜ俺がこんな目に合わないといけないんだ」
俺は毛布を握りしめることしかできなかった。
それから2日後、俺は荷物を纏めて宮廷魔導師団を出ると第四魔法兵団がある宿舎へと向かった。
着いたところは今にも潰れそうなほどのぼろい建物だ。
俺は気を取り直して玄関を開ける。
そこにはいかにも怪しい出で立ちの2人の男が玄関の開く音に気づいて俺のほうを見ていた。
「宮廷魔導師団から転属になったロニーです」
挨拶すると男たちは俺を指さして笑った。
「おい! 本気で来たぜ!」
「ああ! 耐え切れずに辞めるんじゃないかと思ってたのにな!」
男たちはぎゃはははははと笑いながら俺を侮辱する。
「おい! 俺を見下すなら・・・」
「入口塞いでるんじゃねぇよ! 邪魔だ! どけ!!」
突然後ろから声をかけられて俺が振り返るとそこには見知らぬ女が立っていた。
男たちが突然恐縮する。
「「だ、団長っ!!」」
「見ない顔だな・・・ああ、お前が宮廷魔導師団から追い出された貴族のボンボンか。 ここは王族だろうが貴族だろうが平民だろうが身分は関係ない。 俺の命令が絶対だ。 わかったな」
団長と言われた女が俺に命令する。
不快を感じた俺は団長に盾突く。
「誰がお前の指示など・・・」
俺の反抗に団長が怒声を上げる。
「答えは『サー!』だ! わかったか! このゴミクズが!!」
「サ、サー! イエッサー!!」
気圧された俺はつい応じてしまった。
「それよりも第四魔法兵団全員を招集しろ」
「「サー! イエッサー!!」」
団長の命令に男たちはすぐに行動を開始した。
しばらくして第四魔法兵団全員が揃ったところで団長が報告する。
「陛下直々に俺たち第四魔法兵団に東の国境付近にある駐屯地に移動するよう命令が下った。 各自至急移動の準備をしろ」
「「「「「「「「「「サー! イエッサー!!」」」」」」」」」」
第四魔法兵団に到着して早々俺は休むことなく東の帝国近くの国境付近にある王国魔法兵団の駐屯地に移動することになった。
それから馬車に揺られながら1ヵ月ほどで目的地へと到着する。
数日後───
駐屯地の練習場で訓練という名のいじめを受けた俺は地面に寝そべっていると見張りの者が慌ててやってきて報告した。
「だ、団長っ! 大変ですっ! 帝国が攻めてきましたっ!!」
帝国が攻めてきた一報を受けた俺や第四魔法兵団団員たちに緊張が走った。




