表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/157

70.パンを作ろう

パン作りに必要な材料である小麦粉、酵母、水、塩の4つが揃ったので早速作業を開始する。

「【料理神】・・・なるほど、まずは小麦粉と酵母、塩を器に入れてから水を少し入れて一塊になるまで混ぜます」

クーイは小麦粉、酵母、塩をボールに入れると少しだけ水を入れて混ぜ始めた。

混ぜては少し水を入れ、また混ぜる。

しばらくすると粉が溶け合って一つの塊になった。

クーイは塊をボールから取り出すと手で捏ね始める。

何度も何度も捏ね捏ねしていると次第に表面がつるつるしてきた。

やがて塊は完全に表面がつるつるな状態へと変わった。

「さて、次にできあがった生地をボールに入れて蓋をしたら寝かせます。 この時の温度は人肌よりも少し高いくらいがいいそうです」

「それなら先にボールを温めておきましょう」

「温度を保つのは僕に任せてくれ」

ウィルアムがボールを人肌よりも少し高い温度になるように温めると、スティクォンが【現状維持】でボールの温度を維持した。

クーイは生地をボールに入れると蓋をする。


30分後───

クーイがボールの蓋を外すと生地が入れる前の倍近くにまで膨らんでいた。

「これは見たことがない現象ですな」

「ウィルアムさんでも知らないの?」

「はい。 普通に小麦粉と水を捏ねただけではこうはなりません。 酵母と塩を入れることで生地が膨らんだのでしょうな」

ウィルアムの推察通り発酵することにより生地が膨張したのだ。

「この生地をこうします!!」

ペタン! ペタン! ペタン! ペタン! ・・・

クーイは生地をボールから取り出すと右に左にと両手でキャッチボールするように生地を叩き始めた。

すると生地が少しずつ縮んでいく。

「何するんですか?」

「せっかく膨らんだのに・・・」

「ああ、これは生地の内部にある余分な空気を抜いているんです。 【料理神】で調べたところ、これをするとしないとでは味が大きく異なるらしいです」

「それなら仕方ないですね」

美味しいパンができる瀬戸際ということでリルたちはすぐに納得する。

クーイは叩き続けてこれ以上縮まないことを確認すると6等分に分けて丸め、ボールに戻すと濡れた布を被せた。


10分後───

クーイが布を外すと生地がまた膨らんでいた。

「あとは室温で10分放置したあとに生地を焼いて完成です。 今のうちに・・・あ!」

「どうしました?」

「そういえばここ(茸の家)には焼き窯がない・・・」

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

スティクォンたちはクーイを見ると気まずそうに視線を床に逸らす。

「どうするんですの?」

「ファリー、今からパン用の焼き窯作れるか?」

「スティクォンさん、10分で焼き窯作るなんて無理ですよ!」

「この家にあるのは暖炉だけだし、それで代用するか?」

「できあがった(パン)が煤まみれになるからやめたほうがいいわよ」

スティクォンたちはどうしようかと色々な意見が飛び交っていた。

パンッ!!

突然の音にスティクォンたちが話すのを止めてそちらに目を向ける。

音の発生源はウィルアムが手を叩いた音だった。

「メルーアお嬢様、皆様、落ち着いてください。 ようはパンが焼ければよいのです。 それなら私に考えがあります」

「ウィルアムさん、どのようにして焼くんですか?」

「まずは鉄板と火を起こせる物を用意してください」

「すぐに持ってくるよ」

「それならこれで温めるとしよう」

ティクレは家にある鉄板を、アールミスは酵母を作る時にも使った火を使わずに温める魔道具を持ってきた。

「これは魔道具ですね。 では180度くらいまで温めてもらえますかな」

「すぐに温めるぜ」

アールミスは魔道具を起動させてウィルアムの指定した温度まで温める。

ウィルアムは【鑑定】を発動すると30センチ上のところの温度を確認した。

「ふむ、こんなところでしょう。 スティクォン様、【現状維持】でこの空間ごと温度を維持してください」

「わかった」

スティクォンは【現状維持】を発動するとウィルアムの指示通り空間の温度を維持した。

「生地が完成しました」

「それでは焼いていきましょう。 鉄板に生地を並べたらこの空間に置いてください」

「はい!」

クーイは生地を鉄板の上にくっつかないように並べたらトングで鉄板の端をしっかりと掴んだ。

そして、そのまま鉄板を高温に維持された空間へと移動させる。

すると生地が少しずつ焼かれて鼻腔をくすぐる香りが部屋に充満し始めた。

「わあぁ~♪」

「良い香り~♪」

「美味しそう」

白い生地は膨らみ表面が少しずつ茶色に変色していく。


15分後───

「そろそろかしら」

「そうでございますな」

ウィルアムは【鑑定】で、クーイは【料理神】でパンの焼け具合を確認する。

頃合いを見てクーイは空間から鉄板を取り出す。

そこにはこんがりと茶色に焼かれ大きく膨らんだ6つのパンがあった。

それぞれ白い煙が立ち上り香ばしい匂いが辺りに漂う。

「「「「わあぁ~♪」」」」

メルーア、リル、ファリー、クレアが歓喜の声を上げる。

「できました。 皆さん、試食してみましょう」

人数分に分けてスティクォンたちはできたてのパンに噛りつく。

「! 美味しいですわ!」

「これがあのパンだというのか?!」

「酵母を入れるだけでこれほどまでに味が変わるとは驚きですな」

リルたちはもちろんのこと、パンを知っているスティクォン、メルーア、ウィルアムですら驚愕するほどの美味しさだ。

「これならいくらでも食べられますわ~♪」

「そうだな。 これ(パン)も今後は積極的に作っていこう」

こうしてクーイの【料理神】によってここに世界初のふんわりして美味なパンが爆誕した。

このパンをホビットやドワーフ、海人たちに試食してもらったところ、好評でもっと食べたいという声から酒造用の保管庫の隣にパン工房を併設することに。

また、パンの製造だけでなく、パンのお供として果物を砂糖で煮詰めて作られたジャムも人気だったので併せて製造することになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
[一言] これ現状維持で今のパンの状態をキープさせてから、パン焼き釜作れば、間に合わせること出来たかも…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ