表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/144

7.イコーテム公爵1 〔イコーテム視点〕

時はスティクォンがスキル【現状維持】を知った半月前に遡る。






わしは実子スティクォンを王都の聖教会に置き去りにして、自身の領地であるアバラス公爵領に戻ってきた。

館に戻り使用人に扉を開けさせて中に入る。

玄関には多くのメイドが左右に分かれて並んで頭を下げていた。

そして、その中央には2人の若い男女がいる。

「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」」」」」」」

「今帰ったぞ」

「父上、お帰りなさいませ」

「お父様、お帰りなさい」

わしの実子で長男ロニーと長女リクルだ。

ロニーはわしの周りを確認すると疑問を口にする。

「父上、スティクォンはどうされたのですか?」

「あの恥さらしは我がアバラス家の顔に泥を塗った。 よってその場で追放を言い渡した」

わしの発言にロニーとリクルの眉が動く。

「追放?」

「スティクォンを?」

「そうだ」

わしはスティクォンを追放したことを肯定する。

「そうですか・・・追放ですか・・・」

落ち込んでいるような言葉遣いとは裏腹にロニーの顔は綻んでいる。

「まぁ、兄様。 スティクォンがいなくなったからって、そんな顔をするなんて・・・」

「リクルだってその顔はないんじゃないか?」

そういうリクルも笑っていた。

(ふふふ・・・そうだ、それでいい)

わしはロニーとリクルの闘争心を見て頷いた。

なぜスティクォンがいなくなってロニーとリクルは喜んでいるのか。

それはアバラス家の次期当主の座の候補者が1人脱落したからだろう。

アバラス家はほかの貴族が長男を当主にするのとは違い、最も優れた者を次世代の子を当主にする。

長男ロニーはスキル【賢聖】を、長女リクルはわしと同じスキル【剣聖】をそれぞれ神より賜った。

普通に考えればわしと同じスキルを持つリクルが有利に見えるが、それだけで次期当主を決めはしない。

いや、優れたスキルも判断基準の1つとして考慮している。

ロニーはそのスキルで若くして宮廷魔導師団に配属された。

一方のリクルもそのスキルで若くして国王直轄近衛騎士団の団員になった。

どちらも王国では由緒ある役職だけにどちらが優れているかなど甲乙つけ難い。

わしはロニーとリクルが睨みあっているのを良しとしている。

例え血を分けた兄妹でもライバルがいることにより、自分を高めることに繋がるからだ。

いずれはわしの判断で次期当主を言い渡さなければならないが、今はまだその時ではない。

これからのロニーとリクルの活躍次第で結果が変わっていくのだから。

そういう意味では追放したスティクォンにもチャンスはあった。

魔法ではロニーに劣り、剣ではリクルに劣っているが、もしかすると100年に1度現れるかもしれない【神】を関するとんでもないスキルを手に入れるのではないかと密かに期待していた。

だが、蓋を開けてみれば【現状維持】などというふざけたスキルだ。

【剣聖】や【賢聖】には劣っていてもそれなりのスキルであれば、わしもここまで目くじらを立てることもなかっただろう。

武術系ならわしが治める公爵領の騎士団の下っ端から戦術のイロハを叩き込んでもよかったし、魔術系なら知り合いの魔法師団に入門させて下積みをさせてやろうと考えていた。

まぁ、スティクォンはもうこの家の人間ではない。

綺麗さっぱり忘れてこれからはロニーとリクルのどちらがアバラス家の次期当主に相応しいか見届けなければならぬからな。

「ロニー、リクル、貴様らも為体でいるとスティクォンのようになるかもしれぬぞ」

その一言で冷や水を浴びせられたかのように身震いしロニーとリクルは気を引き締める。

「父上、俺はスティクォンみたいなダメな人間ではないことを、宮廷魔導師団の団長になることで証明してみせるさ」

「私も、いえ私こそがアバラス家の次期当主として相応しいことをお見せしますわ」

「ロニー、リクル、頼もしいぞ。 それならばしっかりと見極めさせてもらおう」

わしはそれだけいうとロニーとリクルをその場に残して部屋へと戻る。

翌日にはロニーとリクルはそれぞれ早馬で王都へと戻っていった。

わしも領主としての仕事に手をつける。

ある程度時間が経ち、窓越しに外を見た。

そこには実りある風景が広がっている。

今年もわしがいるアバラス公爵領は豊作だ。

昔の領地は酷いものでここまで開墾するのにどれだけ時間と金を費やしたことか・・・

だが、神はわしを見捨てなかった。

ある日を境にアバラス公爵領が徐々に変化していく。

不毛な大地に緑が芽吹き始め、それが毎年のように維持された。

穀物を始め、野菜や果物も育ち今では収穫できるまでになった。

たった数年でアバラス公爵領は緑溢れる豊かな大地へと生まれ変わったのだ。

これはきっと神が努力したわしへの褒美に違いない。

わしは満足すると領主の仕事を再開した。


それからスティクォンをアバラス家から追放して1ヵ月が過ぎた頃、それは唐突にやってくる。

それはたった1つの花の葉っぱにできた黒い斑点から始まるのだが、その時わしは気にも留めなかった。

この緑溢れる大地が見るも無残な昔の光景に戻るなど誰が想像できたことかを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ