67.ブランデーを造ろう
未熟だが一応ワインが完成するとそこにシディアがやってきた。
『スティクォン、これから食料を調達に・・・む、こ、この香りは?! ま、まさかっ?!』
桶から立ち上るアルコールの匂いを感じるとシディアの双眸が見開かれた。
「シディア、一応最低限ワインと呼べるレベルのものはできたよ」
『おおぉー、早速飲みたいぞ!!』
「ちょっと待ってくれ」
スティクォンたちは破砕した葡萄の皮、果実、種が入らないように注意しながら桶の中にあるワインを樽に入れる。
「できたてでまだ誰も試飲してないから味は保証しないけど・・・」
『我が初めてか? それは光栄だな。 どれ』
シディアは舌を伸ばすと樽の中のワインを飲んだ。
『ん、ん、ん・・・まだ角が取れていないが、元々の素材が良いのでそこまで悪くはない』
感想を述べてから樽の中のワインを一気に飲み干した。
「クーイさんの【料理神】によると熟成には最低でも1年はかかるそうだ」
『なるほど、それなら熟成された1年後が楽しみだな』
久しぶりの酒にシディアは上機嫌だ。
「海人たちに造りたてのワインをもっていくとして、あとは圧搾してから熟成しよう」
「ワインを熟成させる倉庫が必要ですな」
「ウィルアムさん、冷凍保管庫じゃダメなんですか?」
「冷凍保管庫では少々温度が低いです。 ワインに適した温度は13~15度です」
スティクォンは腕を組んで考える。
「うーん・・・それなら冷凍保管庫と同じように酒造用の保管庫を建てよう」
「スティクォンさん、具体的にはどんな建物にするのですか?」
「地上1階地下1階の木造建築かな。 1階は酒造用の作業場で2階くらいの高さにして、地下1階を貯蔵庫にしよう」
「わかりました。 シディアさん、穴掘りを手伝ってください」
『冷凍保管庫と同じなら任せるがよい』
シディア、ファリー、それとドワーフたちは酒造用の保管庫を建てるために移動した。
「それじゃ、僕たちも桶の中のワインを樽に入れていこう」
スティクォンたちは用意された樽の中に破砕した葡萄が入らないよう丁寧にワインを入れていく。
シディアが飲んだ分を含めると今回作ったワインは30樽だ。
桶の中には破砕して搾りかすになった葡萄と濃度の高いワインが残っていた。
「クーイさん、この桶にある残ったワインはどうするんだ?」
「それなんですけど、蒸留することでブランデーという蒸留酒になるらしいんです。 ここからはアールミスの力を借ります」
突然名指しされたアールミスは驚いた顔をしていた。
「私は酒なんて造ったことないぞ」
「ポーションは作ったことはあるわよね?」
「あるけどポーションと酒のどこに接点があるんだ?」
「たしかポーションを作る前段階で不純物を取り除いた純粋な真水を作るわよね? それと同じ原理でこのワインから水だけを取り除くの」
クーイの説明を受けてアールミスは納得する。
「なるほど、本来は不純物を取り除くための作業だが、今回はその不純物のほうが必要なんだな?」
「そういうこと。 できるかしら?」
「たぶんできると思うが試してみないとわからないな」
「なら早速やってみましょう」
スティクォンたちは桶の中にある濃度の高いワインを樽に入れる。
「桶の中に残った破砕済みの葡萄はどうする?」
「家畜がいれば餌にするのが一番です」
「家畜か・・・ここには家畜がいないんだ」
悩んでいるとスティクォンの袖をドレラが引っ張る。
「これ食べていい?」
「今のところ使い道がないから食べてもいいよ」
了承を得たドレラは大量にある葡萄の搾りかすを食べ始めた。
処分に困っているときにはドレラの【悪食神】はとても役に立つ。
スティクォンたちは樽を転がしながらクーイたちエルフが住む茸の家へと向かった。
茸の家に到着するとアールミスの案内である部屋にやってきた。
「ここは?」
「私の作業場だ。 入ってくれ」
アールミスが扉を開けて中に入るとスティクォンたちも続いて入る。
そこには錬金術で使われる多くの実験器具が所狭しと置かれていた。
「すごい器具だな」
「見たことがない物がたくさんありますわ」
「私はエルフの中では変わり種でね、魔法よりも錬金術のほうが性に合っているんだ」
アールミスは自身の説明するとフラスコが置かれているテーブルの前に立つ。
「これは水を熱してろ過する装置だ。 いつもなら水の中の不純物を取り除くのだが、今回は水を取り除く」
そういうと慣れた手つきで蒸留用のフラスコにワインを注ぐ。
適量になると蓋をしてクーイに声をかける。
「クーイ、準備ができたぞ。 これからどうすればいい?」
「火をかけてください。 ただし、火の温度は水が沸騰するよりも低くお願いします」
「水が沸騰するよりも低くだな? 了解だ」
フラスコの位置をその場より高くするとアールミスはフラスコの下にある器具に火を点けた。
しばらくするとフラスコの中のワインから湯気が出てきて煙がフラスコに取り付けられた管へと移動する。
時間が経ち、管内が冷却されたことで気体が液体へと凝縮し、別のフラスコへと溜まっていく。
ある程度溜まるとそれ以上変化がないのでアールミスは火を止めた。
「これでいいのかな?」
「私が鑑定いたします」
ウィルアムは【鑑定】を発動してワインから分離した液体を確認する。
「クーイ様が仰る通りこれはブランデーという蒸留酒です。 私もこれは初めて見る酒でございます」
この世界では酒といえばワイン、ビールが一般的だが、それと蜂蜜から造るミードという酒がある。
変わり種だとワインやビール、ミードに果物を混ぜて造る果実酒くらいだ。
クーイの【料理神】によってここに世界初の蒸留酒ブランデーが誕生した。
できあがったブランデーをウィルアムは手の甲に1滴垂らして嘗める。
「失礼いたします。 ・・・なるほど、かなり酒濃度が強いですな。 これはシディア様が喜ばれます」
「シディアが喜ぶならワインと一緒にブランデーも造ろう」
「そ、そうだな。 シディア様が喜ぶなら是が非でも造るべきだ」
シディアの威圧を思い出したのかクーイ、ティクレ、アールミスが首を勢いよく縦に振っていた。




