66.ワインを造ろう
無事に酵母を手に入れたスティクォンたち。
「クーイさん、早速ワイン造りに着手しましょう」
「はい。 【料理神】」
クーイは【料理神】を発動するとワインの造り方を詳細に調べた。
「えっと・・・いくつか工程がありますね。 葡萄の選別、除梗、破砕、発酵、圧搾、熟成だそうです」
「具体的には?」
「葡萄の選別は傷んだものや未熟なものを取り除きます。 除梗は枝や茎を取り除いきます。 破砕は果皮を破ける程度に軽く潰します。 発酵は破砕した葡萄に酵母を加えます。 圧搾は発酵後の葡萄の搾りかす部分より下の果汁を取り除きます。 熟成は圧搾した果汁を木樽に入れて寝かせます」
「ワイン造りってそんなに工程があるんだな」
作業量の多さにスティクォンは驚いた。
「質問ですけどワインができるまでどのくらい期間が必要ですの?」
「そうですね・・・葡萄の選別、除梗、破砕は人海戦術でやればいいとして、問題は発酵で酵母を加えてから3~5日は必要です。 圧搾、熟成の工程を除けば最速3日でワインが出来上がります。 味の補償はしませんけど」
「3日ね・・・もし、圧搾、熟成も含めたらどのくらいかな?」
「最低でも1年はかかります」
「1年か・・・」
シディアにどう説明していいか悩むスティクォン。
「シディアに説明するのはあとにして、まずは葡萄の収穫と選別をしよう」
スティクォンたちは南西の畑へと移動する。
到着するとホビットたちが作物を収穫していた。
「リル、ちょっといいか?」
「スティクォンさん、どうしました?」
「これからワインを造るのだけど、ホビットたちに葡萄を収穫してほしいんだ。 熟成して傷がない葡萄で、できれば収穫時に枝や茎を取り除いてくれると助かる」
「わかりました。 みんなに伝えて葡萄を収穫します」
リルはホビットたちに葡萄の収穫を行うよう伝える。
人海戦術によって大量の葡萄が入った籠が次々とスティクォンたちの前に置かれていく。
「すごい量だな」
「たくさん作ったのでまだまだ運ばれてきますよ」
1筆1平方キロメートルまるごと葡萄畑で、リルのスキルによって段階的に収穫できるように調整した。
今回収穫した葡萄は約13500房、重さにして約6750キロだ。
ホビットたちの丁寧な作業により傷んだものや未熟なもの、枝や茎が綺麗に取り除かれている。
「リル、助かったよ。 ホビットのみんなもありがとう」
「それでスティクォンさん、この葡萄をどうするんですか?」
「収穫と選別、それに除梗が終わって次は破砕だよね?」
次の工程についてクーイが答える。
「はい。 除梗した葡萄の果皮を破ける程度に軽く潰す作業です」
「この量をどうやって破砕するんだ?」
「えっと・・・桶の中に葡萄を入れて少女が足踏みする・・・らしいです」
「え?」
クーイの言葉にスティクォンは耳を疑う。
「【料理神】の説明だと『穢れの無い少女が足で踏む』と美味しくなると・・・」
「うーん・・・それって『汚れの無い足で踏む』の間違いなのでは?」
「いえ、『穢れの無い少女が足で踏む』です」
聞き間違いではないことにスティクォンは苦笑いする。
「ああ・・・わかった。 そうなると桶と葡萄の破砕を手伝ってくれる女性が必要だな」
「桶はファリーたちドワーフに用意してもらうとして、少女たちは有志を募れば問題ないでしょう。 わたくしも葡萄踏みをやってみたいですわ」
そこにウィルアム、ファリー、クレア、それにドワーフたちがたくさんの樽を持ってやってきた。
「スティクォン様、樽の準備ができました」
「ファリー! 丁度いいところに来てくれた。 実は頼みたいことがあるのだけど」
「なんですか?」
「葡萄を破砕するための大きな桶を作ってもらえないか?」
「桶ですね? わかりました。 みんな! 木材をここに持ってきて!」
「「「「「「「「「「はい! ファリー親方!!」」」」」」」」」」
ファリーの命令でドワーフたちは木材を取りに行った。
程なくしてドワーフたちは木材を抱えて戻ってくる。
「それではいきます! 【製造神】」
ファリーはスキルを発動するとものすごいスピードで桶を作り始める。
「できました!!」
そこには大量に物を入れても壊れることはない頑丈で大きな桶が1つできあがっていた。
「ファリー、ありがとう。 早速破砕を始めようか。 作業を手伝ってくれる女性はメルーアのところに集まってくれ」
できあがった桶に男性のホビットたちが収穫した葡萄を入れていく。
メルーアのところには破砕作業を手伝ってくれるホビット、ドワーフたちの女性が集まる。
「これだけの人数だと桶1つでは足りないわね」
「ファリー、追加でもう1つか2つ作ってくれないか?」
「任せてください!」
ファリーは追加で桶を作り始める。
「ドレラ、悪いけど手伝ってくれる女性たちの足の汚れを【悪食神】で取り除いてくれないか?」
「・・・(コクコク)」
メルーアたちが桶に入る直前にドレラのスキルで汚れを取り除いて綺麗にした。
桶に10人入るとメルーアが音頭をとる。
「足踏み開始ですわ」
メルーアたちは一斉に足踏みを開始して葡萄を踏み潰していく。
葡萄の実から果汁が飛び出し、少しずつ底に溜まる。
「結構重労働ですわね」
「メルーアお嬢様、あまり無理をなさらないでください」
「これくらいなら大丈夫ですわ」
破砕を始めて1時間が経つと桶の中には大量の果汁で満たされていた。
「あらかた葡萄を潰し終えましたわね」
「それでは酵母を入れて発酵させましょう」
クーイは酵母の入った器を振ってから中の酵母を取り出して桶の中に入れる。
すると酵母からシュワシュワと音とともに発酵が始まった。
「桶に蓋をして3~5日ほど待ちます」
「ファリー、至急蓋を作ってくれないか」
「はい!」
ファリーはスキルを発動してすぐさま蓋を作る。
完成したら蓋をすぐに桶にのせた。
「あとは1日1回発酵具合を確認する必要があります」
「発酵は私が確認いたします」
「ウィルアムさんの【鑑定】なら間違いないからね」
それから3日後、発酵が完了して未熟だが一応ワインが完成した。




