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65.酵母を作ろう

死の砂漠の開拓地にクーイたちが引っ越してきた翌日のこと。

コンコンコン・・・

扉をノックする音が響く。

「誰だろう? はーい・・・」

クーイが扉を開けるとそこにはスティクォンたちがいた。

「クーイさん、こんにちは」

「あ! スティクォンさん、こんにちは。 どうしました?」

「酵母を作るのに必要な物を持ってきました」

「へ?」

クーイはスティクォンのいっている意味が理解できずに思わず変な声を上げる。

近くにいたティクレとアールミスもクーイ同様思考が停止した。

が、すぐにティクレが質問する。

「あの、たしか昨日砂糖黍(さとうきび)の栽培に着手したんだよね?」

「その通りですわ! それでできた物がこれですわ!!」

メルーアは1台の荷車を指さす。

そこには大量の葡萄(ぶどう)と砂糖黍が載せられている。

クーイたちは荷車のところにくると葡萄と砂糖黍を見た。

「これが葡萄だからこっちが砂糖黍かな?」

「葱みたいに細いですね」

「昨日の今日でどうやって砂糖黍を作ったんだ?」

クーイたちの記憶が正しければ、昨日南西の畑を見たときは砂糖黍はなかった。

しかし、今目の前にあるのは間違いなく砂糖黍だ。

「これはメルーアの【地母神】とリルの【農業神】を活用して作ったものだ」

「そ、そうなのか?」

半信半疑であるクーイたち。

「なら実践してみせますわ」

言うが早いかメルーアは荷車の葡萄から1粒取り出して口に含むと果肉は食べて種だけを取り出した。

その種を地面に植えると【水魔法】で水を与え、【木魔法】で成長を促進する。

すると地面から芽が出て大きくなり幹になり枝を出す。

やがて立派な木になり花を咲かせそれが実となっていく。

急激な展開にクーイたちは皆驚いていた。

「この通りですわ・・・んん、やっぱりハーニの【甘味神】で受粉してくれないと味が一段落ちますわね」

目の前の葡萄を1粒食べてメルーアは味の感想まで述べる。

「な、なるほど・・・わかったよ」

逸早く正気に戻ったティクレが納得する。

それから葡萄と砂糖黍を持って家の台所へと移動した。

「これで酵母が作れそうか?」

「え、ああ・・・えっと、酵母の前にまずは砂糖黍から砂糖を作ります。 【料理神】」

クーイは【料理神】を発動すると砂糖の作り方を調べた。

「まずは砂糖黍を押しつぶしてジュースを絞ります」

「早速砂糖黍を押しつぶそう」

「この器を使ってくれ」

スティクォンはアールミスから大きな器を受け取るとその上で砂糖黍を押しつぶす。

「か、皮が硬い・・・」

押しつぶすのを一旦止めると腰から鋼のナイフを抜いて砂糖黍の皮を削る。

「こんなものかな? もう1度」

再度押しつぶすと切り口から液体が流れ出る。

何本か同じように絞って器は砂糖黍のジュースで満たされた。

「次にジュースから不純物を取り除きます」

「それなら私が得意」

言うが早いかドレラは器に手を入れて【悪食神】を発動し、ジュースの中に含まれる不純物を取り除く。

「あとは煮詰めれば完成です」

「ならこれの出番だな」

ティクレが不思議な板状の箱を持ってきた。

「これは?」

「私とアールミスで作った魔道具だよ。 火を使わずに温めることができるんだ」

ティクレは魔道具を起動してからその上に器を載せる。

ポコポコポコ・・・

しばらくすると器の中のジュースが沸騰し始めた。

焦がさないように気をつけながら煮詰めるとやがて器の中に砂糖の結晶ができあがる。

「できあがりました」

「どれどれ・・・」

スティクォンたちは指で軽く触れてついた砂糖粒を舌で舐めた。

「「「「「「「「「甘い!!」」」」」」」」」

たった数粒舐めただけなのに砂糖の甘さが口いっぱいに広がっていく。

無事にできあがったが、念のためウィルアムのところに行って確認してもらうと砂糖で間違いないといわれた。

「これで酵母を作る材料が揃ったな」

「では早速酵母を作っていきましょう。 まずは殺菌した蓋つきの透明の器によく洗った葡萄の実と砂糖少量、それに人肌より少し低い温度の水を葡萄の位置よりも倍近くまで注ぎよく掻き混ぜます」

クーイは【料理神】を発動すると手際よく器に材料を入れて掻き混ぜる。

器の中の水が透明から徐々に薄紫へと変わっていく。

「蓋をしてこれであとは明日まで待ちます。 器の温度は今の状態をキープする必要がありますけどね」

「なら僕の出番だな」

スティクォンは器の温度を今の状態を保つように【現状維持】を発動した。

「これでこの器の温度は常に今の温度を維持し続けるよ」

「一番の問題は温度を保つことだったのでとても助かります」

こうして酵母作り初日が終わった。


酵母作り2日目───

透明の器の中にある水は前日よりやや濃くなり、葡萄の実も前日より膨らんでいた。

「零れないように器をよく振って、それから外気に触れさせて・・・っと」

蓋を開けてある程度外気に触れさせると再び蓋をする。

この工程を朝昼晩に1回ずつ行ってその日の作業は終了した。


酵母作り3日目───

透明の器の中にある水はさらに濃くなり、一部の葡萄の実が浮かんでいた。

「前日と同じように器をよく振って、外気に触れさせて」

前日と同じ工程を朝昼晩に1回ずつ行ってその日の作業は終了した。


酵母作り4日目───

透明の器の中の葡萄の実が底から浮かんでいた。

「葡萄の実が底になく、泡も出てきて良い感じに仕上がってます」

前日と同じく器をよく振って、外気に触れさせる工程を朝昼晩に1回ずつ行ってその日の作業は終了した。


酵母作り5日目───

透明の器の中の葡萄の実が水面より出ているのを確認した。

「うん、ちゃんとできています」

クーイが満足しているとそこにスティクォンたちが訪ねてきた。

「クーイさん、酵母のほうはどんな感じだ?」

「スティクォンさん、あとはこの器を冷やして1日置けば完成です」

スティクォンは器の温度を解除してからアリアーサに頼んで【水神】で氷らない程度に一気に冷やした。


酵母作り6日目───

底面に酵母菌がたっぷり含まれたオリが現れて酵母が完成した。

「スティクォンさん、ついに酵母が完成しました」

「これでワインを作成できるな」

念のためスティクォンは酵母の今の状態を保つように【現状維持】を発動する。

こうしてスティクォンたちは無事に酵母を手に入れた。


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