63.家丸ごとお引越し
クーイたちから巨大な茸の家も一緒に持っていきたいといわれたスティクォンたち。
「えっと・・・この家も?」
「はい」
「いろんな道具があるので持っていきたいです」
「向こうで全部揃うとは限らないからな」
長年住んでいたのかクーイたちの家への愛着を感じる。
「シディア、家ごと持っていけるか?」
『この程度造作もない。 どれ・・・』
シディアが巨大な茸の家を引き抜こうとする。
「ま、待ってくださいっ!!」
「無理やり引き抜かないでっ!!」
「乱暴に扱うのはやめてくれっ!!」
シディアが握り潰すと思ったのだろう、クーイたちが慌てて止める。
『う、うむ・・・』
クーイたちの言葉にシディアは動きを止める。
「それなら僕の【現状維持】で家とその周辺の状態を維持するよ」
スティクォンは再び【現状維持】を発動すると巨大な茸の家を中心に半径10メートルを対象として現在の状態を維持する。
これによりシディアの力でも家を破壊されず、扉や食器などが固定されてその場から動かなくなった。
また、家の周辺も同時に固定されているので、持っていく際には取りこぼしはないはずだ。
ついでにクーイたちもスティクォンと同じ状態に維持する。
「僕の準備は整ったけど、クーイさんたちは何かありますか?」
「そうですね・・・これから行くところには茸や山菜はありますか?」
「野菜や果物、それに魚や貝はあるけど茸や山菜はないな」
「それなら茸や山菜をできるだけ持っていきたいです」
「なら私の出番ね」
ビューウィは自らの分身体を何体も作り、茸や山菜の採取を始める。
しばらくすると色とりどりの茸や山菜を持って戻ってきた。
「毒性のあるものは除いて食べられるものだけ持ってきたわ」
そこには如何にも毒茸ですといわんばかりの色合いの茸がいくつかあった。
「え? これ食べられるの?」
「怪しいのですが・・・」
「食べたら腹壊さないよな?」
クーイたちの苦情を聞いたビューウィがムッとする。
「失礼ね。 植物に精通している私に対しての侮辱だわ」
「ビューウィ様、落ち着いてください。 ここは私が調べましょう」
ウィルアムは【鑑定】を発動すると茸や山菜を調べ始めた。
「あれは【鑑定】のスキルですね」
「あの爺さんが白っていえば問題なさそうだな」
スティクォンたちが見守る中、ウィルアムは黙々と茸や山菜を調べていく。
すべて確認し終わると【鑑定】を解除する。
「確認しましたがどれも毒性は見当たりません」
「【鑑定】の持ち主が言うなら間違いないわね」
「こんな毒々しい茸が実は食用だなんてねぇ・・・」
「驚きです」
「何かいうことがあるんじゃないかしら?」
毒性がないことに驚愕しているクーイたちにビューウィが冷や水を浴びせる。
「「「疑ってごめんなさい」」」
「素直でよろしいわ」
クーイたちの謝罪をビューウィは素直に受け入れた。
「この茸や山菜も維持して・・・」
スティクォンはビューウィが持ってきた茸と山菜の状態を維持する。
「これで大丈夫。 ほかにあるか?」
「私たちはこれで問題ありません」
代表してクーイが答える。
「よし。 それじゃ戻るとしますか」
『待ちくたびれたぞ! さぁ、戻るぞ!!』
言うが早いかシディアはその場で羽搏くと巨大な茸の家を引っこ抜くように持ち上げる。
ズズズズズ・・・
地面ごとある程度上空へと持ち上げられてスティクォンたちは思わずしゃがみ込む。
(あ゛、これまずいかも・・・)
スティクォンは慌ててシディア以外全員を地面に触れている状態で維持した。
数瞬後、シディアが行きに見せた超スピードで東へと飛んだのだ。
「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」
あまりの超スピードに全員が目を閉じ、さらにクーイたちは悲鳴を上げていた。
だが、それも一瞬のこと。
『ふむ、着いたぞ』
目を開けるとそこには発展途中の死の砂漠の開拓地が見えていた。
「え? もう着いたのか?」
『この程度の距離我が本気になればどうということはない』
スティクォンたちが呆けていると地上ではメルーアたちの驚く声が聞こえてきた。
『なんですの?! あれは?!』
『地面が浮いています』
『ここに落ちてこないよね?』
『あ! あそこにいるのシディアさんじゃないですか!!』
メルーアたちはシディアに気づいたことでスティクォンたちが戻ってきたことを悟る。
『スティクォン、とりあえずこれをどこに下ろすのだ?』
呆けていたスティクォンだがシディアの声を聞いて我に返る。
「そ、そうだな・・・一時的に北西の空いている場所に下ろして、あとで話し合って正式な場所を決めよう」
『うむ、わかった。 場所が決まり次第声をかけてくれ』
それだけいうとシディアは北西の住宅地で空いている場所に巨大な茸の家をゆっくりと下ろした。
ズシイイイイイィーーーーーン・・・
自重で少し地面にめり込むが周りに影響はなかった。
「えっと・・・クーイさん、ティクレさん、アールミスさん、着きましたよ」
「ううぅ・・・酷い目にあいました・・・」
「耳鳴りが収まりません・・・」
「き、気持ち悪い・・・」
1度経験しているスティクォンたちですらまだ慣れていないのに、クーイたちにとっては未知の体験だっただろう。
スティクォンは地面との固定を解除するとグロッキーなクーイたちを介抱する。
そこにメルーアたちがやってきた。
「みんな、ただいま」
「お帰りなさい。 この茸の家は?」
「ああ、彼女たちの家だよ」
スティクォンはクーイたちを紹介する。
「エルフのクーイです」
「ハーフエルフのティクレだよ」
「名はアールミス。 ダークエルフだ」
メルーアたちも自己紹介する。
「わたくしは魔族のメルーアですわ」
「ホビットのリルです」
「ドワーフのファリーです」
「ノッカーのクレアです」
「キラービーのハーニです」
「スライムのドレラ」
クーイたちは多種族に驚いていた。
「ここにはいないけどほかにも異種族が住んでいるんだ」
『それよりも酒だ!!』
待ちきれないのかシディアが急かすのであった。




