62.人材をスカウトしよう5
巨大な茸の家から現れた女性たちにシディアが声をかける。
『お前たちが酒を造れる者たちだな! 我と共に来るのだ! さもなければ我が業火に焼かれると知れ!!』
いつもと違いシディアは有無を言わさぬ圧を3人のエルフにぶつける。
ドラゴンに脅迫されたエルフたちはすっかり怯えていた。
「シディア! 落ち着け! 彼女たち怯えているだろ!!」
『何を悠長なことを言っている! 早くしなければ誰かに先を越されるではないか!!』
「いや、この場には僕たちしかいないし、それに彼女たちがシディアが求めるスキルを持っているとは限らないだろ?」
スティクォンの言葉にシディアは冷静さを取り戻し頷く。
『・・・うむ、たしかにそうだな・・・』
シディアを宥めることに成功したスティクォンは3人のエルフを見る。
それぞれ肌の色や耳の形が微妙に違う。
「えっと・・・突然の来訪で申し訳ない。 ここに酒を造れる方はいますか?」
スティクォンの質問にエルフたちは困惑したような声で応じる。
「お酒ですか? 私は作ったことはないです」
「私も」
「私もないな」
「そうですか・・・」
エルフたちの回答にスティクォンは肩を落とす。
今度はウィルアムが質問する。
「失礼ですが御三方はどのようなスキルをお持ちでしょうか?」
「それは初対面の方にお話しするには・・・」
『・・・』
シディアがエルフたちを無言で睨みつける。
エルフたちは慌てて答えた。
「私は【料理神】です!」
「私は【技術神】だよ!」
「私は【錬金術神】だ!」
「【料理神】?! 料理のスキルを持っているのか?!」
スティクォンは肌色の耳が尖ったエルフを問い詰める。
「え、ええ・・・ただ、料理といってもここら辺には自生している茸しかないの。 それらを収穫してどうすれば美味しく食べられるかスキルで確認するくらいよ?」
「ウィルアムさん!」
スティクォンとウィルアムは頷き合う。
「よろしければ私たちにご助力願えないでしょうか?」
「えっと・・・それはちょっと・・・」
『・・・』
シディアがエルフたちを赤い瞳で威圧する。
口を少し開くとそこには火がチラッと見えた。
「「「ぜ、是非とも協力させてください!」」」
エルフたちは命の危険を感じたのか首を何度も縦に振りながら承諾した。
「ご助力感謝します」
「あははははは・・・」
シディアの圧力で無理矢理言わせたとはいえ料理のスキルを持つ者をスカウトできたのは大きな収穫だ。
「そういえば自己紹介がまだだったね。 僕は人間族のスティクォン」
「私は魔族で名前はウィルアムと申します」
『ドラゴンのシディアだ』
「アルラウネのビューウィよ」
「私はエルフのクーイです」
「ハーフエルフのティクレだよ」
「名はアールミス。 ダークエルフだ」
ソレーユが口ずさんだ詩の通り3人とも異なるエルフ族だ。
お互いの自己紹介が済んだところでクーイが質問する。
「それで私は何を協力すればいいの?」
「僕たちは今死の砂漠を開拓しているのだけど・・・」
「「「えええええぇーーーーーっ?!」」」
死の砂漠と聞いてクーイたちが驚愕する。
「死の砂漠って東にあるあの死の砂漠よね?!」
「人が住めないところを開拓してるとか正気の沙汰じゃない!!」
「私はまだ死にたくないぞ!!」
クーイたちは死の砂漠のことを知っているのか次々と非難の声が上がる。
「落ち着いて聞いてくれ。 今僕たちが開拓しているところにはすでに200人以上が住んでいるんだ」
「200人も?」
「いくら何でも・・・」
「俄かには信じ難いな」
スティクォンの言葉にクーイたちは疑問を感じていた。
「うーん・・・どうすれば信じてもらえるんだろう?」
『至極簡単なことだ。 スティクォンのスキルをクーイたちに見せてやればよい』
「それが一番手っ取り早いかな・・・」
「「「??」」」
スティクォンとシディアの会話にクーイたちは怪訝な顔をしていた。
「そうだな・・・よし」
スティクォンは地面に咲いている花を見つけると引っこ抜き、花全体をそのままの状態で維持するように【現状維持】を発動した。
「クーイさん、花びらを摘まんで抜いてもらえますか?」
「? 花びらをですか?」
クーイはスティクォンから花を受け取ると花びらを摘んで抜こうとする。
「え?」
スティクォンのスキルで維持された花びらはその場から1ミリも動くことはない。
「くぅっ! んんっー! なにこれ? 全然動かない!!」
「はぁ? 何いってるんだ? ちょっと代われ」
クーイから花を奪い取ってアールミスが花びらを摘んで抜こうとするが結果は同じだ。
「何だよこれ?! 全然抜けないぞ?!」
「これが僕の【現状維持】です」
「【現状維持】?」
「そうです。 今花全体をそのままの状態で維持しています。 解除しますね」
スティクォンが解除した途端勢いよく花びらが抜けたことにアールミスが驚きの声をあげる。
「うわぁっ!! さっきまで全然抜ける気配がなかったのに急に抜けてびっくりした」
「アールミスさん、その花の花びらを何枚か抜いて空中に放ってもらえませんか?」
「え? あ、ああ・・・」
アールミスはスティクォンの要望通り花から花びらを摘まんで抜くと空中に放り投げた。
スティクォンは花びらが地面に着かずに舞い続けるように【現状維持】を発動した。
すると花びらはひらひらさせながら下降して、地面に着く前に上昇してはまたひらひらしながら下降を繰り返す。
異常な光景にクーイたちは驚いた。
「何この異様な動きは?!」
「風もないのに花びらが宙を舞い続けてる・・・」
「いったいどうなっているんだ?!」
「今は花びらが地面に着かずに舞い続けるようにスキルを発動したんだ。 解除っと」
【現状維持】を解除すると花びらはひらひらしながら地面へと落ちた。
ティクレは落ちた花びらを手に取るとまじまじと見てから宙に放り投げる。
花びらはひらひらしながら地面へと落ちていった。
「・・・なるほど、スティクォンさんの【現状維持】というスキルを使って私たちに何かしらして死の砂漠に連れて行くわけですね?」
「その通りです」
クーイたちは頷き合う。
「わかりました。 私たちをその場所に連れて行ってください。 ただし、この家も一緒にお願いします」




