61.エルフの国へ
スティクォンはビューウィと共にシディアのところに向かう。
そこにはメルーアたちも一緒にいた。
「シディア、お願いがあるんだけど」
『む? 我に何か用か?』
「西にあるエルフの国に行ってもらいたいんだけど」
スティクォンの言葉にシディアが目を細める。
『ほぅ・・・エルフの国か』
「無理か?」
『無理ではないが何をしに行くのだ?』
「酒・・・」
『何っ?! 酒だとっ?! エルフの国に美味い酒があるのかっ?!』
酒という単語にシディアが目を見開き興奮した声でスティクォンに話しかける。
「シ、シディア! 落ち着け!!」
スティクォンはすぐにシディアを宥めた。
シディアも我に返ると謝罪する。
『す、済まぬ。 酒と聞いてつい興奮してしまった』
今のやり取りでスティクォンは察した。
(シディア、酒がすごく好きなんだな)
好きなモノが手に入るかもしれないと考えれば興奮しても仕方がない。
「エルフの国に酒を造れるかもしれない者がいるらしい」
『なるほど、スカウトしに行くのだな?』
「ああ、だけどエルフは他種族を嫌うから今までのように上手くいくかはわからない」
『何を弱気なことを言っている! スティクォン! 今回のスカウトは何としても成功させるぞ!!』
「ええぇ・・・」
シディアのやる気にスティクォンはドン引きする。
「スティクォン様、どうしてエルフが酒の製造方法をお知りになられたのでしょうか?」
スティクォンとシディアの会話を聞いてウィルアムが質問する。
「ああ、実はソレーユさんのスキルである【吟遊詩神】で知ったことなんだ」
スティクォンはソレーユが口ずさんだ詩を口にする。
それを聞いたメルーアたちが首を傾げる。
「えっと・・・スティクォン、それのどこに酒が絡んでいますの?」
メルーアが皆を代表して質問する。
「僕がティエスさんとソレーユさんに酒の造り方を聞いたときにソレーユさんが突然詩いだしたんだ。 それで詩を解読して照らし合わせたのさ」
「なるほどね。 それで私にエルフの国にある変わった家を探させたのね」
スティクォンの説明にビューウィが納得する。
だが、ここでメルーアとハーニがある単語に反応した。
「探させた?」
「ビューウィに?」
「ひぃっ!」
アーネルとシャンティの時のことを思い出したのだろう、メルーアとハーニから表情が消えた。
2人の凍えるような視線を受けたスティクォンが後ずさる。
『メルーア、ハーニ、止めよ。 スティクォンとビューウィが何をしたのか知らぬが我のために働いてくれたのだ。 労いこそすれ妬むのは止めよ』
「「う゛」」
「あははははは・・・」
仲裁してくれるシディアだがあまりの圧にメルーアとハーニは完全に気圧されていた。
『そんなことよりエルフの国にすぐに向かうぞ! 早く我の背中に乗れ! スティクォン!!』
「落ち着けって!」
『スティクォン! 我から見たエルフは短命だ! 早く行って保護せねばならない!!』
「いや、シディアからみればどの種族も短命だから」
人間族であるスティクォンからみたらエルフは十分に長命な種族だ。
余程のことがない限り命に関わることなどないだろう。
『いいから早くしろ!!』
「わかったから落ち着けって! すぐに誰を連れていくか手短に決めるから。 ビューウィは確定としてほかに誰を連れて行こうか?」
「スティクォン様、私が同行いたします」
ウィルアムが手を挙げる。
「ウィルアムさん! 【鑑定】でエルフの種族を確認してもらうと助かるよ」
「お任せください」
ほかはというとメルーアたちは珍しく手を挙げない。
自分たちが行っても役に立たないというのだろう。
「それじゃウィルアムさんとビューウィの2人を連れて行ってくるよ」
『さっさと行くぞ! スティクォン、ウィルアム、ビューウィ! 早く乗れ!!』
シディアは待ちきれないのかスティクォンたちを促す。
スティクォンたちが乗るとシディアは確認もせずに翼を広げた。
『さぁ! すぐに行くぞ!』
「待て! シディア!」
『何だ! スティクォン! 出発の邪魔をするな!!』
「ちょっとだけ待って!」
スティクォンは【現状維持】を発動すると3人がシディアの背中から飛ばされないように維持した。
「これで良し! 待たせたな!」
『本当だぞ! では行くぞ!!』
シディアが羽搏いて空に舞うと進路を西に定めて一気に加速した。
あまりのスピードにスティクォンたちは目も開けられない。
『それでその珍しいエルフたちはどこにいるのだ?』
「どこって・・・」
スティクォンが目を開けるとそこは死の砂漠とエルフの国の境界線だ。
一瞬にして移動したことにスティクォンたちは驚いた。
気を取り直してビューウィが指示を出す。
「ここからだともっと西ね」
『そうか・・・』
シディアが先ほどと同じように移動しようとするとビューウィが止めた。
「待ちなさい! こんな速度で移動したら見逃すわよ!」
ビューウィの言う通り音をも超える速度で移動すれば通り過ぎる可能性が高い。
『う、うむ・・・そ、そうか・・・』
「ここからはいつも通りの速度でお願いするわ」
『わ、わかった』
正論をいわれたシディアはいつも通りの速度でエルフの国の上空を飛行する。
スティクォンたちは上空から変わった家を探す。
「変わった家・・・変わった家・・・」
「見当たらないですな」
「ないわね」
地上を見れば木ばかりで変わった家を確認できない。
シディアが我慢できずに咆える。
『まだか! どこにエルフどもがいる!!』
あまりの大声にスティクォンたちは手で耳を塞ぐ。
シディアの咆哮は地上にも届いたのだろう、身の危険を感じたエルフたちはドラゴンに見つからないようすぐに隠れた。
西に向かって進むこと数十分が経つと何やら変わった家が見えてきた。
それは巨大な茸を刳り貫いたような家だ。
「もしかしてあの家か?」
「そうだと嬉しいですな」
「まったくね」
『あの家に決まっている!!』
シディアは待ちきれないのかそのまま巨大な茸の家の前に降り立った。
ズシイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
シディアの着陸により地響きが起こり、辺り一帯から小鳥が羽搏いて逃げていく。
『出てこい! この家に住む者たちよ!!』
しばらくして家の中から耳の長い3人の女性が怯えながら現れた。




