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60.変な詩

酒が欲しいといわれたスティクォンは片っ端から聞き込みを開始する。

「酒の造り方? 知らないですわ」

「酒? なんですかそれ?」

「酒の職人? さすがに知らないわね」

「酒なんていいからこれから私たちと・・・」

結局酒の造り方を知るものは1人もいない。

「うーん、海人なら酒の造り方を知っているのかな?」

スティクォンは人工海に赴いて、酒が欲しいといった海人に聞いてみた。

「酒の造り方? すまぬ、知らないのだ」

海人は申し訳ないように頭を下げた。

そこでふと疑問を感じたスティクォンが海人に尋ねる。

「そういえばどうやって酒を知ったんですか?」

「今まで住んでいた海域では人間族の船が偶に時化で難破するのだ。 沈没した船の船内を漁っていると大きな木箱があってその中に酒が入った瓶が大量にあるのだ」

「なるほどね・・・」

どうやら人間族の船が輸送中に荒天に巻き込まれたのだろう。

船には当然商人が乗船しているはずだが、海に投げ出されてそのまま帰らぬ人になっている可能性が極めて高い。

仮に生きていたとしても海のど真ん中で船が沈没すればどこで難破したかなんてわかるはずがない。

そうして難破して海底に沈んだ船から海人たちが使える物を持っていったのだろう。

その中には当然食料も含まれているが、ほとんどの物は海水に浸かってダメになっている。

だが、酒の入った瓶だけは木箱に入れて厳重に保管していたのだろう、海人たちが持って帰ってみんなで酒盛りしたと想像に難くない。

いよいよ酒を造るのは困難で外部から手に入れるしかないだろうと考えたその時、ティエスとソレーユが話しかけてきた。

「スティクォンさん、どうしました?」

「何か悩み事ですか?」

「ティエスさんにソレーユさん・・・実は酒の造り方を知っている人を探していたのだが、1人もいなくて・・・2人は酒の造り方を知っているか?」

スティクォンの質問にティエスとソレーユが首を横に振る。

「知りません」

「私も同じです」

「そっか・・・」

酒は外部から入手するしかないと考えているとソレーユが変なことを言い出した。

「ここから西に行けば~♪ 耳が長い人がいて~♪ 異なる3人娘が~♪ 変わった家で暮らしてる~♪」

突然のことにスティクォンは驚いた。

「ソ、ソレーユさん?」

「あ! でた! ソレーユの変な独り言!」

「へ、変とは何ですか! 突然頭の中に浮かんだことが私の意志とは関係なく口から出ただけです!」

ティエスに揶揄われてソレーユは頬を膨らませる。

「あははははは・・・今のはまるで吟遊詩人・・・」

そこまでいってスティクォンは目を見開く。

「スティクォンさん?」

「どうしました?」

「・・・そうか! 今のはソレーユさんのスキルである【吟遊詩神】が発動したんだ!!」

スティクォンの発言にティエスとソレーユが驚いた。

「え?! あれってスキルだったんですか?!」

「どうしてスキルが発動したんですか?!」

「あくまでも推測だけど僕が酒の造り方について質問した時、ソレーユさんはこの世界に伝わる伝承や噂、実在するモノを何かしらの方法で手に入れて、それを(うた)にしたんじゃないかな?」

話を聞いたティエスとソレーユは疑問を抱く。

「本当にそうなんでしょうか?」

「ちょっと信じられません」

スティクォンから説明を受けてもティエスとソレーユは確信が持てない。

「僕も半信半疑さ。 だけど先ほどの詩を考えると西にはエルフという耳が長い種族が住む国がある」

「1節目、2節目はわかりましたけど、3節目の異なる3人娘って何でしょう?」

「異なる・・・異なる・・・3人いるのに異なる・・・まるでリルとファリーとクレアみたいな・・・! そうか! 種族だ! 異なる3人のエルフ種がいるということか?! あとは変わった家というのはほかのエルフたちとは違う家に住んでいる可能性が高いな!」

詩を解読していくスティクォン。

ティエスとソレーユはますます理解できないという顔をしている。

「ソレーユさん、ありがとう! もしかすると酒が造れるモノが手に入るかもしれない!」

「はぁ・・・」

スティクォンの礼にソレーユは気の抜けた声で返す。

「それじゃ、僕はこれで」

それだけいうとスティクォンはその場をあとにする。

残されたティエスとソレーユは可哀想な目でスティクォンの背中を見るのであった。


南西の畑で農業に勤しむメルーアたち。

そこにスティクォンがやってくる。

「えっと・・・いた! おーい、ビューウィ!!」

スティクォンは農作業を手伝っているビューウィに声かける。

「スティクォン、どうしたのかしら?」

「お願いがあるんだけど」

「何かしら?」

ビューウィはスティクォンに先を促す。

「西にあるエルフの国に種族が異なる3人のエルフが住んでいる家があるらしい。 それを探してほしいんだ」

「また無茶なことをいうわね。 その3人のエルフの特徴は?」

「・・・そういえば特徴を聞いてなかったな。 変わった家に住むとは聞いたけど・・・」

「変わった家に住む・・・ねぇ。 なんとか探してみるわ」

「頼む」

ビューウィは自分が今行っている農作業をリルに引き継ぐと花畑へと移動した。


それから3日後、ビューウィがスティクォンのところにやってきた。

「スティクォン、エルフの国にある変な家がどこにあるかわかったわ」

「本当か?!」

「ええ、アルラウネ(同族)の話ではその家に3人の変わったエルフが住んでいるそうよ。 場所は中央よりも西の深い森の中よ」

「ビューウィ、ありがとう!」

「それじゃ、報酬を貰うわ」

ビューウィは前回と同じようにスティクォンの唇を奪う。

「?!」

不意を突かれてスティクォンは驚いた。

しばらくしてビューウィは唇を離す。

「・・・ふふふ、相変わらず可愛いわね♡」

満足したのかビューウィは上機嫌だ。

「・・・はぁ、勘弁してくれよ」

不満を言いつつも協力してくれたことに感謝するスティクォンであった。


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