6.不老? 不死!
スキルを発動し終わるとメルーアが期待と不安を込めた目でスティクォンを見る。
「ス、スティクォン、どうなりましたか?」
「不老はわかりません。 ですが不死についてはすぐに確認できます」
スティクォンはナイフを抜くと一瞬躊躇した後に自分の腹を刺す。
「!!」
メルーアが手で口を押える。
ぐぅ・・・い、痛い・・・
刺した個所から血が流れた。
「ウィ、ウィルアムさん・・・」
ウィルアムはスティクォンの意味を汲み取りすぐに【鑑定】で調べる。
「! ス、スティクォン様の生命力が全く減っておりません」
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!」
結果を聞いたメルーアが驚きの声を上げる。
それから3分ほど経ち再びウィルアムがスティクォンを【鑑定】するが結果は同じだった。
その時間の分、スティクォンは痛みに苦しみ傷口から血が流れ続けたが・・・
スティクォンは意識が朦朧とする中、ナイフを抜き、ポーションを取り出すと口に含み飲んだ。
その直後、身体が発光して腹の傷が癒され痛みが引いていく。
「ぅぅ・・・痛かったぁ・・・」
スティクォンは刺した腹を触る。
いくら確認のためとはいえ自傷する羽目になるとは思わなかった。
かといってメルーアやウィルアムにお願いする訳にもいかず、最終的にはスティクォンが確認することになっただろう。
ウィルアムの【鑑定】によってスティクォンが不死の存在になったことを確認する。
「スティクォン様、大丈夫でございますか?」
「ええ、なんとか・・・ただ、死ななくても痛みは取り除けませんね」
ウィルアムの言が正しければスティクォンたちはこの先老いることもまして死ぬこともないだろう。
ただ、老いや死ぬことはなくなっても痛覚や空腹がなくなった訳ではない。
今のスティクォンたちはほかの生物と同じ傷つけば痛みを感じるし、お腹も空くし、動けば疲れるし、病気にもなる。
これらを克服するのであれば身体を不死身にし、満腹状態を継続し、常に体力があり健康であることを維持するように【現状維持】を発動させればいい。
これによりどんな過酷な環境でも生き抜くことができる究極の生命体へと昇華されるだろう。
スティクォンのスキル【現状維持】はほかのスキルが足元にも及ばないまさに神ともいえる能力だ。
現在【現状維持】の内容を正確に知っているのはスティクォン、メルーア、ウィルアムの3人だけ。
ほかに知る者は誰もいない。
「今ので僕たち3人は不死にはなりましたが、メルーアが望む不老になったのかはわかりません」
「そうですな。 こればかりは年月が経たなければわかりませんな」
スティクォンの言葉にウィルアムが同意する。
「そうですかぁ・・・はぁ・・・」
メルーアはすぐには不老になったかわからないことに落胆した。
「メルーアお嬢様、お気をたしかに・・・」
落ち込んだメルーアをウィルアムが励ます。
「メルーア、落ち込んでいるところ申し訳ないがこれからどうしようか?」
スティクォンの質問にメルーアは悩み、出した答えは意外なものだった。
「・・・西に行きましょう」
「! メルーアお嬢様、本気でございますか?」
「ええ、本気よ。 スティクォンに会う前は自殺行為としか言いようがありませんでしたが今は違います。 スティクォンの協力があれば生きていけるはずです」
メルーアは西にある死の砂漠を目指すと宣言した。
「それにわたくしたちの逃げる先としてはこれ以上ない場所です。 普通の者たちではあの砂漠に踏み入れることすら躊躇われるのですから」
「その死の砂漠だったかな? そこに逃げ込めば追手はまずこないということか?」
「はい、間違いなく」
メルーアは死の砂漠に追手が来ないことを断言する。
それほど過酷な場所なのだろう。
「わかった。 そうと決まればまず必要な物を手に入れよう」
「水とかは魔法で何とかなりますが、問題は衣食住ですわね」
「スティクォン様のスキルで常に維持してもらうこともできますでしょうが、それでは生きているとはとても言えませんからな」
ウィルアムの言う通り飲まず食わずでは生きているとはとても言えない。
最低でも自分たちで生活基盤を作り、そこに住めるような場所を作るべきだろう。
話し合った結果、必要な物資の調達はウィルアムにお願いする。
魔族の通貨を持っていないスティクォンやお嬢様であるメルーアでは危険が付き纏う。
ウィルアムも身バレしているかもしれないが、それでも2人よりかは遥かにましだ。
僅かなお金を持ってウィルアムは近くの町に出向いて、衣類や毛布、食料を購入した。
買ってきてもらった食料を3人は早速食べて満腹状態にし、体力も全快にする。
3人の満腹状態と体力を常に維持するようにスティクォンは【現状維持】を発動させた。
これで空腹で行き倒れになることも体力枯渇でバテることもないだろう。
念のため、この状態で1日ほど飲まず食わずで過ごしたがお腹も体力も減らないことを確認した。
「スティクォン、爺、それでは行きましょう」
「わかった」
「はい、メルーアお嬢様」
すべての準備が整いスティクォンたちはいよいよ西にある死の砂漠へと出発することになった。