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59.欲しい物は嗜好品

海水浴からしばらくして死の砂漠にある開拓地に新しい人を連れてきた。

今回スカウトしたのは魚鱗人族、人魚、セイレーンなどの海人である。

理由はティエスとソレーユだけでは養殖した魚や貝、海藻、海草の採取に限界を感じたからだ。

ティエスもソレーユも泳いでいる魚を捕まえるのはあまり得意ではない。

そこで漁猟が得意な同族を連れてくることをスティクォンたちに提案する。

話を聞いたスティクォンたちはティエスを連れて早速スカウトしに海へと向かう。

移住希望者を募ったところそれなりに集まった。

どうやらサーペントやクラーケンなどの危険な魔物が跋扈する海域に不安を感じているらしい。

若い男女だけでなく年寄りや子供、家族全員での移住希望者もいた。

こうして魚鱗人族60人、人魚20人、それにセイレーン20人、合わせて100人が死の砂漠にやってきた。

移住当初は海人たちは不安を抱いていたが、危険な魔物がいないことで今では自由に暮らしている。

そんな彼ら彼女らの仕事はソレーユが【吟遊詩神】で動きを止めた魚を捕獲しスティクォンたちに渡すことだ。

特にマグロなどの大型魚はティエスとソレーユの2人だけではもってこれないので助かっている。


海人たちが死の砂漠にやってきてから1週間が経過した。

スティクォンは荷車に野菜や果物を載せて人工海にやってくる。

「スティクォンだけど誰かいるか?」

それに反応して海面から魚鱗人族や人魚が何人か顔を出す。

「スティクォンさん、待ってました」

スティクォンは持ってきた野菜や果物を海人たちに渡していく。

果物を受け取った子供たちは皆大喜びだ。

持ってきた物をすべて渡すと今度は海人たちから魚や貝、海藻、海草を受け取った。

それらをすべて荷車の上に載せる。

「ありがとう。 いつも助かるよ」

「何をいうんですか、助かっているのは我々のほうですよ」

海人の1人がいうとその場にいた海人たち全員が同意するように頷いた。

海人たちにとってスティクォンたちが作ったこの人工海は海域としては狭いが、安全かつ安心に暮らせる理想な場所なのだ。

「そういえば何か欲しい物はありますか?」

スティクォンの質問に海人の1人が答える。

「スティクォンさん、実は1つだけ欲しい物があるのじゃが・・・」

「なんですか?」

「酒が飲みたいな・・・と」

「酒?」

酒。

その単語に大人の海人たちが頷いていた。

「ごめんなさい。 ここに酒はないんだ」

「い、いや、こちらこそ我儘をいってすまぬ」

海人は申し訳なさそうに謝罪する。

顔には出していないがほかの海人たちも皆落胆していた。

(酒かぁ・・・そういえばここには嗜好品はないよなぁ・・・)

今まで衣食住を重点的に発展させてきた。

スティクォンたちのいる開拓地はすでにある程度の水準まで達している。

ならば嗜好品に着手してもいい頃合いだろう。

(とりあえず戻ったらウィルアムさんに相談しよう)

スティクォンは海人たちに礼を言うと荷車を引きながらメルーアたちのいるところへ戻った。


中央の巨木に着くとそこでは仕事終わりのホビット族やドワーフ族たちが食事をしていた。

スティクォンが戻ってきたことに気づいたメルーアが出迎える。

「メルーア、ただいま」

「スティクォン、お帰りですわ」

「海人たちのところから魚貝や海藻を貰ってきたよ」

荷車には大量の魚や貝、海藻、海草が載っていた。

それを見たメルーアは目を輝かせている。

「まぁ、どれも美味しそうですわ♪」

「ちょっと冷凍保管庫に入れてくるよ」

スティクォンはそれだけいうとある家の前にやってくる。

その家の前には立て看板が立っていた。

『冷凍保管庫 ※要防寒着』

ここは生肉や生魚を冷凍保存するために作られた家・・・というか超がつくほどの巨大な倉庫だ。

生肉や生魚の入手が可能になった今ウィルアムの提案により急遽保存する場所を作ることになった。

本来ならドワーフたちによる木造の家を予定していたが、メルーアの案で金属の建物へと変更される。

建物の大きさだが、この際立派なものにしようと話し合った結果、面積900平方メートル、地上2階地下1階の超巨大な建造物を作ることに・・・

まずシディアにお願いすると縦横900メートル深さ3メートルの大きな穴ができあがる。

次にクレアが【鉱石創造】を発動して鉄の板を作成して四方と底をしっかりと補強する。

ここからはファリーの指示で10メートル間隔に直径1メートル高さ9メートルの鉄柱を作った。

中央に上り階段を作って地下が終わると今度は地上部分を作っていく。

クレアはファリーの指示で鉄柱と鉄柱を繋ぐ梁を大量に作った。

できた梁をドワーフたちが設置する。

梁の設置が終わると今度はクレアが作り出した鉄板を壁や床に次々と填めていく。

東西南北にそれぞれ出入口を、各部屋の入り口と鉄扉を作るのも忘れない。

鉄板が地下に落ちないことを確認すると上り階段を作る。

1階部分が終わると2階も同じ手順で作業していく。

最後に屋根を作って完成だが、これだけでは普通の倉庫だ。

そこでメルーアの【水魔法】で水を霧状に発生させて、アリアーサの【水神】で氷らせ、スティクォンの【現状維持】で部屋の状態を維持することで冷凍保管庫が完成した。

因みに地下1階は氷点下30度、地上1階は氷点下10度、地上2階は0度と階により温度が異なっている。

「同じ鮮度を保つのでも僕のスキル(【現状維持】)だと温度まではどうにもできないからな。 冷凍保管庫があって助かったよ」

スティクォンは魚や貝、海藻、海草を次々と倉庫の中に入れていく。

食材を入れ終わり、冷凍保管庫から出て中央の巨木に戻るとウィルアムがいた。

「ウィルアムさん、丁度いいところに。 聞きたいことがあるのですが」

「スティクォン様、お聞きしたいこととは?」

「酒の造り方はご存じですか?」

「酒でございますか? 申し訳ございません。 酒の製造方法はわかりかねます」

さすがのウィルアムも酒の造り方までは知らないようだ。

「そうですか・・・」

「お力になれず申し訳ございません」

「こちらこそ無理をいってすみません」

ウィルアムに礼をいうとその場を離れる。

(仕方ない。 聞いて回るか・・・)

スティクォンは聞き込みを開始するのであった。


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