58.ラストール4 〔ラストール視点〕
時はスティクォンが塩を求めて海に行く頃に遡る。
謁見の間───
余の前に1人の衛兵が膝を突いていた。
「国王陛下、イコーテム公爵が入都されました。 ここへと向かっております」
衛兵の言葉に頷くと近くにいる2人の文官を見て話しかける
「イコーテムの親族である宮廷魔導師団のロニーと国王直轄近衛騎士団のリクルをここへ呼べ」
「「はっ!!」」
衛兵と文官は一礼すると退室した。
しばらくして扉から衛兵が入室する。
「国王陛下、イコーテム公爵が来訪し面会を求めております」
「通せ」
「はっ!!」
衛兵が戻ると入れ違いにイコーテム、ロニー、リクルが入室して中央まで来ると膝を突き挨拶してきた。
そこで奇妙な違和感を感じた余はイコーテムに問いかける。
「イコーテム、スティクォンはどうした?」
「スティクォン? そのような者は我がアバラス家にはおりません」
・・・は?
「・・・今なんと言った?」
理解できなかった余は素で聞き返していた。
「スティクォンは我がアバラス家から追放したのでおりませんと申し上げたのです」
イコーテムの回答に余の頭の中が真っ白になる。
(追放? スティクォンを?)
言葉の理解と同時に余は落胆する。
「なんということだ・・・」
イコーテムは強さを重視すると聞いたことがあるが、まさかスティクォンを追放するとは想像の遥か斜め上をいっていた。
ロニーとリクルが優秀すぎたため、スティクォンを理解しようとすらしないとは・・・
「・・・イコーテム、其方がここまで愚か者だとは思わなかったぞ」
余の言葉にイコーテムが苛立つのを感じた。
それから余はスティクォンのスキルについて質問する。
「・・・ええ、知っていますよ。 あんな向上もしないスキルなど我がアバラス家には不要なスキルですから」
イコーテムの回答を聞いて余はある意味納得した。
(なるほど、イコーテムは【現状維持】と聞いて向上心がないと受け取ったのか)
受け取り方は人それぞれだが、イコーテムの捉え方は浅慮すぎだ。
余は1つ溜息を吐くとイコーテムを断罪する。
「・・・そうか・・・イコーテム、其方を国家内乱罪で拘禁する! アバラス公爵家は廃爵とし全財産を没収とする!!」
「なんだとおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!!」
余の言葉にイコーテムは怒り、ロニーとリクルが顔を蒼褪め、貴族たちは驚愕していた。
「納得がいかないっ! 理由を説明しろっ!!」
「其方がフーリシュ王国に混乱を招いたからだ。 農作物の不作、品不足、物価の高騰、国力低下、魔物や魔獣への脅威度が増したことなど数え上げたら切りが無い」
余は国内で起きている騒動を1つ1つ言葉にしていく。
「それがなんでわしのせいになるのだあああああぁーーーーーっ!!」
「それはスティクォンが授かったスキル・・・【現状維持】に関する事だからだ」
「ああっ! そうかっ! そういうことかっ!!」
イコーテムと違ってロニーはスティクォンのスキルを真に理解したようだ。
「ロニー?」
ロニーは未だ理解していないイコーテムを説得する。
「父上っ! 一刻も早くスティクォンを我が家に連れ戻しましょうっ!!」
「ロニーっ! 貴様何を言うっ! 気でも狂ったかっ!!」
「正気ですっ! スティクォンは俺の、いや我がアバラス家に無くてはならない存在なのですっ!!」
「兄様、どういうこと?」
リクルの質問にロニーがすぐに答える。
「スティクォンの【現状維持】は父上がいう向上しないという意味じゃないっ! 現在の状態を維持し続けるんだっ! 少し前の俺の無尽蔵の魔力やリクルお前の無尽蔵の体力とかだっ!!」
「なんですってっ?!」
ロニーの言葉にリクルは驚き、貴族たちはざわつき、そしてイコーテムはやっと理解したのか顔が蒼褪めていく。
「静まれっ!!」
余の声にその場が静寂に包まれた。
「余もそこの者と同意見だ。 余も精力が無尽蔵にあると思っていたのだからな」
余が玉座から立ち上がり言葉を続ける。
「イコーテム、本来なら拘禁するところだが其方は長年国を守護してきた。 故にチャンスをやろう。 スティクォンを探して余の前に連れてこい。 さすれば今回の騒動を不問とする。 ただし、失敗すれば・・・わかるな?」
イコーテムは言葉を理解したのか首を縦に振る。
「それと皆の者にもチャンスをやろう。 スティクォンを余の前に連れてきた者には褒美として陞爵を約束しよう」
余の言葉に貴族たちの目の色が変わった。
「へ、陛下?」
「今を失いたくなければ自ら動くのだな、イコーテム」
それだけ言うと余は謁見の間をあとにした。
しばらくすると宰相がやってくる。
「よろしかったのですか?」
イコーテムのことだろう。
「即刻切り捨てたいところだがな・・・イコーテムがこの国を守護しているのもまた事実だ。 その名で近隣諸国に牽制しているのだからな」
本来ならば王国内を危機的状況に陥らせたのだから死刑にしたいところだが、ここでイコーテムを消すのは得策ではない。
隣国である帝国が攻めてこないのもイコーテムの力があればこそだ。
そして、イコーテムの子であるロニーとリクルもまたこの国を支えたる人材である。
それらを簡単に手放す訳にはいかない。
「お前も探しに行ったらどうだ? 今なら大公・・・いや余に代わって王になるチャンスだぞ?」
余の言葉に宰相は首を横に振る。
「ご冗談を・・・今以上に苦労したくはありません」
国を知り尽くしている故に宰相は王になど興味はなかった。
「それでアバラス公爵が連れ戻すことに失敗したらどうするおつもりで?」
「あの場では廃爵といったが長年の功績を考えて伯爵に降爵、損害賠償を請求し払えない場合は領地と財産の一部を没収する予定だ」
「そこら辺が妥当でしょう」
余の言葉に宰相は頷いた。
「それで見つかると思うか?」
「困難かと・・・」
「だろうな・・・」
「それを見越して貴族たちを利用したのでしょう?」
イコーテムだけに任せておけない。
余の覇道のためなら使える者はなんでも使う。
「お前の言う通りだ。 それよりも近隣諸国の警戒を怠るな」
「畏まりました」
宰相は一礼するとその場を去った。
「・・・さて、この先どうなるかな」
このあと、余がいくつか想像した中でも最悪な未来が訪れることになった。




