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55.イコーテム公爵4 〔イコーテム視点〕

時はスティクォンが塩を求めて海に行く頃に遡る。






わしは国王(ラストール)の呼び出しにより王都へとやってきた。

事前に連絡を入れていたのでそのまま入城して、国王がいる謁見の間へと歩く。

到着するとそこにはロニーとリクルがいた。

「ロニー、リクル、なぜこんなところにいる?」

「父上、実は国王陛下からお呼びがかかりまして」

「お父様、私もです」

ロニーもリクルも呼び出されたが内容までは聞かされていないらしい。

2人とも不安な顔になる。

国王(ラストール)め、何を企んでいる?)

しばらく考えたが結論は出ない。

「まずは謁見しなければな。 衛兵、イコーテム公爵が来たことを国王陛下に伝えてもらえないか?」

「少々お待ちください」

2人の衛兵のうち1人が扉を開けて中に入りわしが来たことを報告する。

それからすぐに衛兵が戻ってきた。

「イコーテム公爵閣下、どうぞ中にお入りください」

そういうと衛兵たちは扉を開ける。

中に入ると左右には多くの貴族たちがわしを見た。

わし、ロニー、リクルの3人は堂々と中央まで歩くと国王に対して膝を突く。

「ラストール国王陛下。 イコーテム、お呼びにより馳せ参じました」

「よく来たな、イコーテム。 面を上げよ」

「はっ!!」

わしは顔を上げて国王を見る。

「イコーテム、スティクォンはどうした?」

スティクォン?

あんな向上心を持たないアバラス家の恥さらしなど知らぬわ。

「スティクォン? そのような者は我がアバラス家にはおりません」

「・・・今なんと言った?」

「スティクォンは我がアバラス家から追放したのでおりませんと申し上げたのです」

わしの回答に国王は額に手を当て落胆する。

「なんということだ・・・」

「国王陛下、スティクォンが何をしたのか知りませんが、用件はそれだけでしょうか?」

「イコーテム、其方は事の重大さを理解しているのか?」

国王がわしに何を言いたいのかさっぱりわからない。

「恐れながら陛下の御心がわかりかねます」

「・・・イコーテム、其方がここまで愚か者だとは思わなかったぞ」

国王はわしのことを完全にバカにした言い方をする。

(この若造がっ! 言うに事欠いてわしをバカにしよってっ!!)

心の中で毒突くと国王がわしに問いかける。

「スティクォンが授かったスキルを覚えているか?」

わしは当時のことを思い出して怒りが込み上げてくる。

(ああ、あのスキルか・・・あんなものを授かりおって・・・アバラス家の恥さらしがっ!!)

わしが答えないと国王が再び問いかける。

「どうなんだ?」

「・・・ええ、知っていますよ。 あんな向上もしないスキルなど我がアバラス家には不要なスキルですから」

わしは不満を隠すことなく無愛想に答えた。

国王は呆れたのか1つ溜息を吐く。

「・・・そうか・・・イコーテム、其方を国家内乱罪で拘禁する! アバラス公爵家は廃爵とし全財産を没収とする!!」

その言葉にわしだけでなく同席していたロニーやリクルが蒼褪め、更にその場にいた貴族たちも驚いていた。

「なんだとおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!!」

あまりのことにわしは大声で叫んでいた。

「納得がいかないっ! 理由を説明しろっ!!」

憤怒のわしに対して国王は冷静に語り始めた。

「其方がフーリシュ王国に混乱を招いたからだ。 農作物の不作、品不足、物価の高騰、国力低下、魔物や魔獣への脅威度が増したことなど数え上げたら切りが無い」

「それがなんでわしのせいになるのだあああああぁーーーーーっ!!」

「それはスティクォンが授かったスキル・・・【現状維持】に関する事だからだ」

意味不明なことをいう国王。

(はぁ? なんでここでスティクォンが出てくる?)

わしは反論しようと口を開こうとした。

「ああっ! そうかっ! そういうことかっ!!」

国王の言葉に逸早く気付いたロニーが突然叫ぶ。

「ロニー?」

「父上っ! 一刻も早くスティクォンを我が家に連れ戻しましょうっ!!」

「ロニーっ! 貴様何を言うっ! 気でも狂ったかっ!!」

「正気ですっ! スティクォンは俺の、いや我がアバラス家に無くてはならない存在なのですっ!!」

「兄様、どういうこと?」

リクルが質問するとロニーがすぐに答える。

「スティクォンの【現状維持】は父上がいう向上しないという意味じゃないっ! 現在の状態を維持し続けるんだっ! 少し前の俺の無尽蔵の魔力やリクルお前の無尽蔵の体力とかだっ!!」

「なんですってっ?!」

リクルは驚き、2人の会話を聞いていた貴族たちが騒めく。

「おい、農作物がここ10年ほど豊作だったのも・・・」

「鉱山で採掘される鉱石が一定の水準で採れるのも・・・」

貴族どもの会話を聞いてわしは蒼褪める。

(な、なんだ? スティクォンのスキル(【現状維持】)はそれ以上強さを求めないのではないのか?)

そこでスキルについての常識が頭に浮かぶ。

(人によっては生まれた時から無意識にスキルを発動すると聞く)

そして、わしは思い出す。

スティクォンが生まれてからアバラス公爵領が徐々に緑豊かになっていったことを。

(スティクォンはスキル(【現状維持】)で土地が良好な状態を維持していたということかっ?!)

ここに来てわしはスティクォンのスキルをようやく理解すると同時に額から止めどなく汗が流れていた。

もし、ロニーや国王の言葉が正しければ、わしがやったことは国家を揺るがすほどの罪を犯したといえるだろう。

「静まれっ!!」

国王の声にその場が静寂に包まれる。

「余もそこの者(ロニー)と同意見だ。 余も精力が無尽蔵にあると思っていたのだからな」

国王が玉座から立ち上がる。

「イコーテム、本来なら拘禁するところだが其方は長年国を守護してきた。 故にチャンスをやろう。 スティクォンを探して余の前に連れてこい。 さすれば今回の騒動を不問とする。 ただし、失敗すれば・・・わかるな?」

アバラス家を守るためにわしは国王の言葉に首を縦に振るしかなかった。

「それと皆の者にもチャンスをやろう。 スティクォンを余の前に連れてきた者には褒美として陞爵を約束しよう」

貴族たちの目の色が変わった。

「へ、陛下?」

「今を失いたくなければ自ら動くのだな、イコーテム」

それだけいうと国王は謁見の間から退室した。

かくして大勢の貴族を巻き込んだスティクォン捜索戦が始まった。


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