52.人工海の環境を整えよう
アリアーサの【水神】により死の砂漠にある開拓地に人工海を作り出すことに成功した。
そして、リルたちが作った野菜を食べたアリアーサはこの地に移住することを宣言する。
「アリアーサさん、本当にここに住むの?」
「はい! こんな美味しい食べ物今まで食べたことがないですから! これを知ったらもうあの島には戻れませんよ。 あの苦くて酸っぱくて不味い食生活に戻ることを想像しただけで身震いします」
どうやらアリアーサはここで育てた野菜の虜になったらしい。
スティクォンもその意見には同意だ。
この野菜を食べたあとでは昔の食生活には戻りたくない。
「えっと・・・アリアーサさん、これからよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。 それと私のことはアリアーサと呼び捨てでいいですから」
これにてアリアーサが正式に死の砂漠の住人になった。
あとでみんなに報告するとして、まだやることがある。
「ティエスさん、ソレーユさん、人工海の中に入ってみてください」
「「わかりました」」
2人を水槽から人工海へと移す。
早速泳ぎだす2人は水中をすいすいと泳いでいる。
ある程度泳ぐと海面から顔を出した。
「どんな感じですか?」
「私たちがいた海と同じで問題ありません」
「これなら生活に支障はないです」
「よかった」
ティエスとソレーユの発言にスティクォンたちは安堵する。
「それでは持ってきた魚たちを放流します」
「あっ! ちょっと待ってくださいっ! 先にやらないといけないことがありますっ!」
スティクォンが魚たちを放流しようとするのをティエスが制止した。
「何かまずいことでもあるのか?」
「この人工海には魚たちが食べる海藻やプランクトンなどの餌がないです。 先に海藻やプランクトンを増やす必要があります」
魚も貝も海藻やプランクトンなどがなければ生きていけない。
スティクォンは魚は勝手に育つものと考えていたらしい。
「そ、そうなのか? どうすれば海藻やプランクトンを増やせるんだ?」
「まずは海藻や海草を育てます。 この人工海には海藻も海草もありませんから。 その水槽の中に和布、昆布、鹿尾菜、それと水槽の底にある海苔がついた岩を先に入れてください」
「わかった」
ティエスの指示に従いスティクォンは水槽の中から和布と昆布と鹿尾菜と海苔がついた岩を取り出す。
「これとこれとこれとこれか?」
「はい。 それを人工海に投げてください」
スティクォンは言われた通りにそれらを人工海に投げた。
ティエスとソレーユは投げ込まれた海藻をそれぞれ拾い上げる。
「それでは今から海藻や海草を増やします。 【海殖神】」
ティエスがスキルを発動すると海藻が胞子をばら蒔き拡散して人工海を漂う。
しばらく漂ったあとに沈み、海底に着くと海水に含まれるカルシウム、カリウム、ヨウ素などを吸収する。
やがて根を張り立派な海藻へと成長していった。
ティエスは3度同じことを繰り返して海藻を増殖させていく。
「とりあえずここら辺一帯に海藻を分布しました。 人工海全域に広がるには時間がかかりますので少しずつ進めるとして、水槽の中身を全部入れてください」
「わかった」
スティクォンはティエスの指示に従って水槽の中の海水や魚貝を人工海に入れていく。
魚や貝たちはティエスが増殖させた海藻に早速集まっていった。
「【海殖神】」
ティエスは再びスキルを発動すると今度は海藻を食べたプランクトンが爆発的に増えていく。
無色透明だった人工海が見る見るうちに緑色に染まる。
「あとは魚や貝ですね。 【海殖神】」
人工海で泳いでいる魚の雄と雌が体外受精により産卵を始め、貝も海中に卵を放出していく。
そのあと卵から無事孵化した魚や貝たちが海藻や海中に漂うプランクトンを食べ始めた。
「ふぅ・・・どうやら無事に馴染めたみたいですね。 あとは時間をかけて少しずつ魚や貝、海藻、プランクトンを増やします」
結局ティエスの作業は夕方まで続いた。
それでも全体の1割にも満たしていない。
ティエス曰く、これから何日もかけて海域全体を整備していく予定だ。
アリアーサたちが死の砂漠に来てから1ヵ月、スティクォンはシディア、ファリー、ソレーユと共に死の砂漠と海を何度か行ったり来たりしていた。
目的は海域に住む色々な種類の魚や貝を開拓地に持っていくためだ。
普通であれば海で泳いでいる魚を手で捕まえるのは至難の業だろう。
だが、ソレーユの【吟遊詩神】の能力の1つに相手の精神に訴えかけるという能力がある。
これのおかげで魚を強制的に眠らせて楽に捕獲できた。
特にマグロという種類の魚はクラーケンほどの大きさはないがシディアを興奮させた。
その分特殊で常に泳ぎ続けなければ死んでしまうらしい。
理由はほかの魚と違って海水中にある酸素を常に取り込む必要があるからだ。
なのでスティクォンの【現状維持】でマグロが死なないようにするだけでなく体内にある酸素量も維持した。
これのおかげでマグロを生きたまま捕獲できた。
あとは捕獲した魚や貝を海水の入った水槽に入れて持って帰るだけだ。
「今回で大体の魚と貝を確保できました」
「人工海に適応してくれれば問題ないかな」
スティクォンたちは魚貝を持って戻る。
人工海ではティエスがすでに準備を整えて待機していた。
ここ1ヵ月ティエスの働きにより人工海全体に海藻や海草、プランクトンが隅々まで行き渡っている。
「ティエス、これを頼む」
「お任せです」
スティクォンたちは水槽の中にいる魚や貝を人工海に入れていく。
「【海殖神】」
ティエスは魚や貝を繁殖させていく。
しばらくしてティエスが結果を報告する。
「今回も特に問題なく無事に繁殖に成功しました」
「これでこの人工海も本物の海と遜色のない環境になったな」
「あとはそのまま自然に任せましょう。 もし、何か問題があれば私のスキルでなんとかします」
こうして人工海の環境が無事に整った。




