51.人材をスカウトしよう4
スティクォンが大声で叫んだことにアリアーサは驚き後ずさる。
「驚かせてすまない」
「えっと・・・私のスキルってそんなにすごいのですか?」
「僕にとっては有益なスキルに聞こえたんだ」
ウィルアムもスティクォンの発言に同意するように頷いた。
「とりあえず試してみないか?」
「試す?」
「メルーア、【水魔法】でこの桶に水を入れてくれないか?」
「わかりましたわ」
メルーアは【水魔法】を発動して桶の中に水を注いでいく。
8割ほど入れたところで魔法を止める。
スティクォンは桶の水を掬うと口に含む。
飲み水としても使える普通の水だ。
「アリアーサさん、この水をあの海水みたいにできないかな?」
スティクォンは桶の水を海水に変えられるか質問するが、アリアーサは首を捻る。
「意識してやったことはないからわからないです」
「試しにこの水を海水と同じ水質に変えられるかやってもらえないか?」
「え、えぇ・・・」
アリアーサは桶の水に触れる。
すると水が1度だけ光った。
光が収まると桶の中は光る前と同じ水に見える。
スティクォンは桶の水を掬うと口に含んだ。
「ごほぉっ?! ぺっぺっ・・・しょっぱい・・・」
口の中が塩辛い。
ウィルアムはすぐに【鑑定】を発動して桶の水を調べる。
「そこの海の水よりも少し塩分が高いですが海水になっています」
「本当ですのっ?!」
ウィルアムの言葉にメルーアが目を輝かせた。
そして、アリアーサの手を取って勧誘する。
「アリアーサさん、わたくしたちと一緒に来てもらえませんか?」
「え? え? どういうことですか?」
「僕たちがいる場所には海がないんだ。 海がないなら塩もない。 できればアリアーサさんの力を借りられればと思いまして」
スティクォンもメルーアの援護に回る。
「きゅ、急に言われても困ります」
アリアーサからしたら当然の答えである。
スティクォンたちが開拓している死の砂漠と比べればここは海の幸山の幸が豊富で1つの場所として完成しているのだから。
「ならばこういうのはどうでしょう。 今回食料を提供したので1回だけ力を貸していただけないでしょうか?」
ウィルアムが先ほどの食事を引き合いに出す。
「う゛」
アリアーサは悩んだ末に出した結論を口にする。
「・・・わ、わかりました。 1食の恩義をお返しします」
「ご協力感謝いたします」
ウィルアムはアリアーサに対して深々と礼をする。
「あ、あの私たちもシディア様がいる場所に同行してもいいでしょうか?」
「役に立つかわかりませんがお願いします」
ティエスとソレーユはシディアに頭を下げる。
『我は構わぬが』
シディアがスティクォンを見る。
「僕たちも別に構わないですよ」
「ありがとうございます!!」
「シディア様のために頑張ります!!」
『うむ、期待しているぞ』
話も一段落したところでスティクォンたちは島で1夜を過ごす。
翌日、本来ならあと2~3日はここで塩を作成する予定だったが、急遽戻ることにした。
理由はティエスとソレーユが住めるように人工海を作るためだ。
アリアーサ、ティエス、ソレーユには人工海の下準備ができてから改めて連れていく予定である。
作った塩をもって2日かけて戻るまでにスティクォンたちはどこに人工海を作るか検討する。
話し合った結果まだ何の開拓もしていない南東の中心部に作ることに決定した。
できれば人工海に魚や貝、海藻や海草なども養殖したい。
死の砂漠に戻ったスティクォンたちは早速人工海用の穴を掘ることになった。
詳細を聞いたシディアが『ここは我に任せろ』といったのでお任せすることに。
その翌日には縦横42キロメートル深さ100メートルの巨大な穴ができあがっていた。
『我にかかればこの程度造作もない』
シディアが得意げに話していたのが印象的だ。
穴の底に降りると土が海水を吸収しないように、クレアの【鉱石創造】でオリハルコンの板を作成して四方と底をしっかりと補強する。
また、穴の中心には直径2キロメートルのオリハルコンの円柱を立てた。
メルーアの要望で海水だけでなく島も作りたいということでこの円柱は島の土台だ。
水漏れしないことを確認するとメルーアの【土魔法】でオリハルコンを覆い隠す。
それが終わると今度は【水魔法】で穴の中を水で満たしていく。
ついでに潮風のことを考えて周りには椰子の木を植える。
作成から約1ヵ月、ついに人工海の大本が完成した。
あとはアリアーサに水を海水にしてもらうだけだ。
5日後、アリアーサ、ティエス、ソレーユを死の砂漠にある開拓地に連れてきた。
連れていく際にスティクォンが現在の状態を維持するのを忘れない。
それとティエスとソレーユはクレア特製の水槽により運ばれた。
開拓地に着くと3人は砂漠のど真ん中にこんなところがあることに驚く。
それから目的の場所に着くと目の前に広がる人工海に目を奪われる。
「すごいです!!」
「本物の海とそっくり・・・」
スティクォンがアリアーサにお願いする。
「アリアーサさん、この人工海の水を海水にしてください」
「わ、わかりました」
アリアーサは水に触れると【水神】を発動した。
水が光り目には見えないが、水質が徐々に変わっていく。
3時間後、未だにアリアーサはスキルを使い続けていた。
「アリアーサ様、スキルを止めてください」
【鑑定】で確認していたウィルアムが突如アリアーサにスキルを止めるように発言する。
「は、はいっ!」
アリアーサは急いで触れていた水から手を放す。
人工海の水質は現在ティエスとソレーユの入っている水槽と同じ水質だ。
「アリアーサさん、ありがとうございます。 食事を用意したので食べてください」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
アリアーサは用意された食事を手に取る。
「いただきます!」
焼いたさつまいもを口の中に入れる。
「!!」
あまりの美味しさに声が出ず、アリアーサの食べる手が止まらない。
あっという間に完食するアリアーサ。
「アリアーサさん、あとで島に・・・」
「決めました! 私、ここに住みます!!」
「え゛?」
アリアーサの発言にスティクォンたちは驚く。
「こんな美味しい食べ物が毎日食べられるなら島に戻らずここに移住します!」
こうしてアリアーサは開拓地に住むことを宣言した。




