5.【現状維持】
ウィルアムがスティクォンに提案する。
「スティクォン様、そのスキル今ここで試してみませんか?」
「試す?」
「はい、確認する良い方法があります」
スティクォンとしては自分のスキルを知ることができるなら知っておきたい。
「わかりました。 どうすればいいですか?」
「その前にメルーアお嬢様にも協力をお願いしたいのですが・・・」
「わたくしは構いませんわよ」
「ありがとうございます。 それではスティクォン様、お耳を・・・」
そういうとウィルアムはスティクォンに近づいて耳打ちをする。
「え? メルーアの?!」
「しっ! 声が大きいですぞ」
「すみません」
「爺?」
メルーアは不審な目で見ているがウィルアムは気にしていない。
スティクォンはウィルアムの言う通りに行動した。
準備ができるとスティクォンはウィルアムに目配せする。
「それでは現在の状態を確認します」
そういうとウィルアムを見ると目が光った。
「あれは?」
「あれは爺のスキルで【鑑定】ですわ」
「【鑑定】ってレアスキルじゃないか!」
スティクォンは驚いているとウィルアムが声をかける。
「それでは始めましょう。 メルーアお嬢様、ありったけの魔力を消費して【水魔法】を発動してください」
「爺、それではこの先・・・」
「大丈夫です。 私の予想では問題ないはずです」
「そうですか? では・・・」
メルーアは意識を集中すると【水魔法】を発動して大量の水を放出した。
その威力は凄まじく、荒野に水がどんどん放たれる。
それから10秒ほどしたのちにメルーアは驚いた。
「どういうこと?! 魔力が枯渇しない?! それどころかまだまだ放出し続けることができるわ!」
メルーアが今使っている魔法はとんでもない魔力量を要求される。
普通なら10秒も放出すれば魔力が枯渇し動けなくなるだろう。
スティクォンも今のメルーアを見ていると膨大な魔力を持つ実兄ロニーを見ている気分だ。
そして、ウィルアムもまた【鑑定】を使ってメルーアの魔力を見て驚いている。
「やはりそうですか・・・メルーアお嬢様、もうよろしいですよ」
ウィルアムが声をかけるとメルーアが魔法を止める。
放たれた水は荒野に巨大な水溜まりを作ったが、しばらくすると少しずつ土の中に吸収されていく。
「ふむ、私の予想通りですな」
ウィルアムは1人納得していた。
「ウィルアムさん、もしかして・・・」
「はい、スティクォン様の想像通りです」
それを聞いてスティクォンは自分のスキルの本当の凄さを実感する。
「爺、どういうことか説明して」
1人だけ蚊帳の外であるメルーアが頬を膨らませてウィルアムに説明を求めた。
「はい、まずメルーアお嬢様の魔力ですが全く減っておりません」
「えっ?!」
メルーアは驚いた。
あれだけの魔法を使用したのに魔力が一切減っていないことに。
「先ほど私はスティクォン様にメルーアお嬢様の魔力を【現状維持】してほしいとお願いしたのです」
「それで僕が『メルーアの魔力を維持する』ことを意識して【現状維持】を発動させた」
「それがあれですか?」
メルーアは徐々になくなっていく巨大な水溜まりを見た。
それはウィルアムの憶測が正しいという証左である。
「まさかとは思いましたが、これほどとは思いもよりませんでした」
ウィルアムがスティクォンに敬服しているとメルーアがあることに気付き興奮したような声で質問してくる。
「もしかして・・・もしかするとですよ? スティクォンがその気になればわたくしの若さを死ぬまでそのままにできるのですか?」
メルーアの質問にスティクォンは首を捻る。
「さすがにそれはわからないけど・・・」
「爺はどう思うのかしら?」
「憶測を踏まえた上で申し上げますと理論上は可能かと。 ただ、スティクォン様がスキルを解除したり何かしらのきっかけで死亡した場合はわかりかねますが・・・」
それを聞いたメルーアはスティクォンの手を取る。
「スティクォン! 一生のお願いです! わたくしの若さを維持してください!!」
「ええぇ・・・」
メルーアの気持ちはわかる。
女性にとって老いは大敵。
それが老いもせずに美しい姿のまま人生を過ごせるならこれほど素晴らしいことはないだろう。
ただ、どうすれば若さを維持できるのかがわからない。
「不老を維持するには・・・年齢を維持すればいいのかな?」
加齢と共に老いは進む。
しかし、若くして老いる者もいる。
どのように維持すればいいのかスティクォンにはわからなかった。
「ウィルアムさん、メルーアの願いを叶えるのには不老を願えばいいのかな? それって【鑑定】で確認できますか?」
「スティクォン様、申し訳ございません。 私の【鑑定】も万能ではございません。 ただ一言言わせていただければ不老を願えば叶うはずです」
「そうなの? うーん・・・せっかくなので僕たち3人を対象にして実験的に不老とついでに不死も検証してみようかな。 まず不老は年齢を、不死は生命力を維持すると意識して【現状維持】を発動してみます」
「それがよろしいかと」
スティクォンはウィルアムに基本的な質問をする。
「ウィルアムさんは【鑑定】で僕たちの年齢を確認できますよね?」
「はい、できますが・・・ああ、なるほど。 畏まりました」
ウィルアムは【鑑定】を使って自分を含めた3人の詳しい年齢を記憶する。
メルーアは一瞬嫌な顔をしたが若さを維持するためと自分に言い聞かせて了承した。
「それじゃ、いきます」
スティクォンはこの場にいる3人の年齢と生命力を維持するよう意識して【現状維持】を発動させた。