44.織物をしよう
マムモたちが死の砂漠にある開拓地に来て数日後、今ではすっかりと馴染んでいた。
北西にある1つの家。
そこはアーネルとシャンティの家であり工房でもある。
2人は機織り機の前で今日も楽しそうに織物をしていた。
「ふぅ・・・できたわ」
「相変わらず速いわね」
「スキルのおかげね。 あるとなしでは雲泥の差だわ」
スキルを知る前は2人ともほぼ同じくらいの速さで編物をしていた。
だが、アーネルがスキルを知ってからは今までの倍以上の速さで完璧に作れるようになったのだ。
「シャンティだって織物上手よ」
「お世辞でもアーネルに褒められると嬉しいわね」
シャンティも織物・編物はできるほうで、ウィルアムと同じ実力を持っている。
「糸を持ってきました・・・あ! これいいですね!」
マムモが色染めした糸を持ってきて、その場にあった服を物欲しそうに見た。
「気に入ったのならマムモにも作るわよ」
「本当?! それならお願いします!」
「ちょっと待ってね。 【織編神】」
アーネルは【織編神】を発動すると物凄いスピードで服を作っていく。
それから30分後、アーネルの手に一着の服ができあがっていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。 早速使わせてもらうわ」
マムモが服を受け取って出ていこうとするとスティクォンが野菜を持って現れた。
「アーネル、シャンティ、差し入れ・・・って、マムモさん?」
「あ、スティクォンさん、こんにちは」
「あら、スティクォン、こんにちは」
「いつも差し入れ助かるわ」
スティクォンはアーネルとシャンティに野菜を渡す。
「マムモさんの分もあとで家に持っていきますね」
「助かります。 子供たちも美味しい食事にありつけて大喜びしていますから」
「本当助かるわよね。 正直砂漠のど真ん中では真面な食事は期待していなかったわ」
「ここの食事は今まで食べた中では一番美味しいものね」
「それは良かった。 これを作ったメルーア、リル、ハーニが喜ぶよ」
そんな会話をしながらスティクォンは床にある服の山を見た。
「こんなに服を作ってくれたんだ。 助かるよ」
今スティクォンが着ている服はアーネルたちがキラーモスの糸から作ったものだ。
伸縮性や通気性が良く、熱がこもらないから快適に過ごせている。
デザインも男性は恰好良く、女性は可愛くした。
アーネルたちの腕も良く、刃物で切ろうとしない限りは解れたり裂けたりはしない。
それに何度水洗いしても色落ちがまったくしないのだ。
「私たちも助かっているからおあいこよ」
「そうだな。 それにしても見事な連係だな」
マムモの子供たちが生糸を作り出し、それにマムモが【色染神】で様々な色を染色し、シャンティが【絵画神】でデザインした服をアーネルが【織編神】を発動して作成していく。
スティクォンはマムモたちの流れるような作業に感心した。
「さて、僕はそろそろ戻るよ」
「それならホビットとドワーフにいつでも取りに来ても問題ないことを伝えておいて」
「わかった。 リルとファリーに伝えておくよ」
スティクォンは工房を出るとその足でリルとファリーのところに向かい、服の件を伝えたのであった。
それから3日後、アーネルとシャンティの家にスティクォンたちが訪れた。
「あら、こんなに大勢でどうしたのかしら?」
メルーアが代表して話し始める。
「今日は2人にお願いがあってきましたわ」
「お願い?」
「ええ、実は服以外のものも作ってほしくて」
「具体的には?」
「掛け布団、敷布団、枕、座布団、クッション、カーペット、カーテン、あとハンカチとタオルをお願いしたいですわ」
メルーアは思いつく限りの布製品を言葉にする。
「そんなに一遍には無理ね」
「それはわかっていますわ。 なので、無理しないで1つずつお願いしたいの」
「そういうことなら構わないわよ」
アーネルとシャンティはメルーアの要望を引き受ける。
「アーネル! シャンティ! ありがとうですわ!!」
「何を優先して作ればいいのかしら?」
「そうですわね・・・寝具関連をお願いしますわ」
メルーアは掛け布団、敷布団、枕を切望した。
今は床にそのまま寝ているが、柔らかい布でできた布団があればぐっすり眠れるはずだ。
「爺」
「はい」
ウィルアムは持ってきた掛け布団、敷布団、枕をアーネルとシャンティの前に置く。
これらはロストアーク伯爵領の都市にある貴族向けの寝具を取り扱っている店で一番高い品を購入したものだ。
「サンプルをお持ちしました」
「あら、なかなか良いデザインをしているわね・・・シャンティ?」
「ふふふ・・・これは私への挑戦と受け取るわ」
美しい柄を見てシャンティがやる気になる。
「・・・そうね。 これを作った職人に負けてられないわね」
アーネルもやる気を見せる。
「それではお願いしてもよろしいかしら?」
「任せなさい」
「立派なものを作って見せるわ」
その言葉を聞いてスティクォンたちの顔が綻ぶ。
「デザインを考えて、それから作るから」
「布団の中に入れる大量の綿を用意しておいてくれるかしら」
「すぐに用意するよ」
「それではお願いしますわ」
話が終わりスティクォンたちは家を出て行くが、すぐにメルーアが戻ってくる。
「あら、どうしたのかしら?」
「実はもう1つお願いがありますの」
メルーアは顔を赤らめながらお願いを口にする。
「か、可愛い下着を作ってほしいですの」
メルーアも女性だ。
普段人には見せない部分もお洒落に着飾りたい。
「ふふっ、わかったわ」
「見惚れるものを作ってあげるわ」
「あ、ありがとうですわ」
それだけいうとメルーアはすぐに立ち去る。
入れ違いで今度はハーニがやってきた。
「どうしたの?」
「実はお願いがあるんです」
アーネルとシャンティはデジャブを感じた。
「セ、セクシーな下着を作ってくれませんか・・・」
ハーニは顔を赤らめながら言葉にするが最後のほうは聞き取れるかどうかな声量だ。
「ええっ、わかったわよ」
「魅了するものを作ってあげるわ」
「え、あ、ありがとうございます!」
それだけいうとハーニは脱兎の如くその場をあとにする。
「2人とも可愛いわね」
「なら期待通りのものを作ってあげないとね」
アーネルとシャンティが作った女性下着はのちに大人気になるとはこの時誰も想像していなかった。




