42.人材をスカウトしよう3
女性が落ち着いたところでスティクォンが質問する。
「それで僕たちの住む場所に興味があるの?」
「興味というかこの森は想像以上に危険な場所で、できれば安全な場所に移り住みたいのですが・・・」
「えっと・・・」
まさかの移住希望にスティクォンはどうしたものかとメルーアたちを見た。
すると全員が首を縦に振る。
「みんな問題ないといっています」
「ありがとうございます!」
女性は改めてスティクォンたちにお礼を言う。
「僕は人間族のスティクォン」
「私はキラーモスのマムモです」
スティクォンは挨拶が済むと当初の目的を話す。
「ここにはアラクネをスカウトしに来たんだ。 すまないがそれまで出発は待ってほしい」
「わかりました。 それなら私は子供たちを集めておきます」
マムモは子供である蚕の幼虫を呼び寄せた。
小さいのは葉っぱくらいから大きいのだと全長1メートルを超えるものまでマムモのところにやってくる。
あまりの光景にメルーアが短い悲鳴を上げてしまったのはいうまでもない。
シディアとマムモをその場に残してスティクォンたちは西へと歩いていく。
しばらく歩くと前方に2匹の蜘蛛がいた。
正確には上半身が人間の女性で下半身が蜘蛛だ。
そして、片方が黒く、もう片方が白い。
スティクォンたちの存在に2匹の蜘蛛も気付いて警戒する。
「突然の来訪ですみません。 あなたたちはアラクネですか?」
「そうよ」
「違うわ」
スティクォンの質問に黒いほうは肯定し、白いほうは否定した。
色にさえ目を瞑れば見た目はそっくりなのにそれぞれ別の種族らしい。
「「それで何の用なの?」」
蜘蛛たちがスティクォンたちに質問する。
「単刀直入に言うとアラクネをスカウトしに来たんだ」
「私を?」
「アーネルを?」
どうやら黒い蜘蛛・・・アラクネの名はアーネルというらしい。
「衣服を作れる職人を探しているんだ。 こちらにいるビューウィからアラクネは衣服を作るのが得意だと聞いてそれでスカウトしにここへ来た」
「なるほどね」
アーネルは少し考えてから答える。
「別に構わないわよ」
「本当か?!」
「ええ、この頃この森も住み難くなったことだしこれは天啓と受け取るべきね」
「それは助かる」
スティクォンたちはアーネルが受諾してくれたことを素直に喜んだ。
それを見ていた白いほうが不服を漏らす。
「あら、アーネルだけ狡いわ」
「それならシャンティも一緒に来ればいいじゃない?」
「うーん、それもそうね」
シャンティと呼ばれた蜘蛛も同行するらしい。
「えっと・・・」
「アーネルは良くて私はダメなの?」
「い、いえ、ダメではないです」
「そ、良かったわ」
スティクォンが了承したことでシャンティはそれ以上は何も言わない。
「とりあえずシディアのところに戻ろう。 2人とも一緒に来てくれないか?」
「「わかったわ」」
スティクォンたちはアーネルとシャンティを連れてシディアのいるところまで戻った。
「シディア、戻ったよ」
シディアがスティクォンたちのうしろにいるアーネルとシャンティを見る。
『うむ、無事にスカウトできたようだな』
アーネルとシャンティもまた物珍しいようにシディアを見ている。
「ドラゴンなんて初めて見たわ」
「本当ね」
全員揃ったところでスティクォンが自己紹介する。
「自己紹介がまだだったな。 僕は人間族のスティクォン」
「わたくしは魔族のメルーアですわ」
「同じく魔族のウィルアムと申します。 こちらに御座すメルーアお嬢様の執事をさせていただいております」
『ドラゴンのシディアだ』
「アルラウネのビューウィよ」
「私はキラーモスのマムモです」
「アラクネのアーネルよ」
「アナンシのシャンティよ」
自己紹介が終わるとスティクォンはマムモに質問する。
「マムモさん、子供は全員集まりましたか?」
「いいえ、まだあと少しかかります。 もう少し待ってください」
時間があるということでメルーアがアーネルたちを見て素直な感想を口にする。
「マムモさんたちは服を着ているのですね」
「服はアーネルとシャンティが作ったものです」
「材料はマムモの子供たちが作り出した生糸を使っているわ」
「私たちが作った服をマムモが持ってくる果物や生糸と物々交換しているのよ」
今の会話から3人はこの森で助け合って持ちつ持たれつな関係であるらしい。
「わたくしも早く服が欲しいですわ」
「逸る気持ちはわかるけど戻ってからにしよう」
「わかってますわ」
「皆さん、お待たせしました。 子供たちが全員揃いました」
マムモの周りには大小様々な幼虫がそこにいた。
スティクォンは【現状維持】を発動するとアーネルたちを自分と同じ状態にする。
「これでアーネルたちも僕たちと同じにしたから大丈夫だ」
「同じ状態?」
「僕のスキル【現状維持】で今の状態を維持したんだ。 これから向かうのは死の砂漠だ。 普通なら辿り着く前に死んでもおかしくない場所だからね」
死の砂漠と聞いてアーネルたちは驚いた。
「死の砂漠といえば立ち入る者に確実なる死を与えるという場所ですよね?」
「はい。 なので僕たちと同じ死なないように状態を維持したんです」
「つまりスティクォンが私たちを死なないように呪いをかけたと?」
「そう受け取って構いません」
感心しているとシディアが声をかけてきた。
『うむ、それではそろそろ戻るとするか。 皆、我の背中に乗れ。 マムモ、アーネル、シャンティも遠慮するな。 それと我のことは気軽にシディアと呼ぶがよい』
アーネルたちは素直に頷く。
スティクォンたちはシディアの広い背中に乗る。
『それでは戻るとしよう』
シディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび死の砂漠へと飛んで行く。
マムモの子供である幼虫が落ちないよう細心の注意をしつつ飛行する。
やがて死の砂漠のど真ん中にある開拓地が見えてくるとアーネルたちは驚くのであった。




