40.衣服が解れて
スティクォン、メルーア、ウィルアムはホビット族とドワーフ族の働きぶりを見て頼もしく感じていた。
「ホビット族とドワーフ族が増えたことで、僕たちの生活も少しずつ充実してきたな」
「育てる作物や住める建物が増えていくのはとても嬉しいですわ」
「左様ですな」
リルは同族であるホビット族を指揮して多くの作物を育てている。
今は食料だけでなく調味料になる香草にも着手した。
ファリーも同族であるドワーフ族を指示して建物を建築している。
今までの仮家と違い、本格的な家屋を何軒も建てていた。
そんなホビット族とドワーフ族の働きを見ていたとき、リルとファリーがやってきた。
「ウィルアムさん、よかった見つかった」
「ちょっと話があるんですけど」
「リル様、ファリー様、どうされましたか?」
「実は今働いている人たちの服に解れがでてしまって」
「作業に支障が出ると困るので新しい服があればもらえませんか?」
リルとファリーの質問にウィルアムが難しい顔をする。
「服ですか・・・申し訳ございません。 先日お渡ししたのが最後になりまして現在在庫がございません」
「そうなんですか」
「困ったね」
リルとファリーはどうしようという顔をしていたが、ウィルアムはすぐにフォローする。
「服を持ってきていただければ私のほうで直しておきます」
「そうですか! それではあとで持ってきます!」
「ありがとうございます!」
リルとファリーはウィルアムに頭を下げると作業へ戻っていった。
「うーん、やっぱり服はなんとかしないといけないな」
「そうですわね。 爺にばかり無理させたくはありませんわ」
「メルーアお嬢様、スティクォン様、これくらい問題ありません」
力仕事で破れたり解れたり綻びたりすることが多く、その都度ウィルアムが補修している。
今は問題ないだろうが頻度が増せばウィルアム1人では限界がくるだろう。
「衣服を買うにしても全員を連れて町には行けないし、かといって適当に買ってきたものはサイズが合うかもわからないしなぁ・・・」
「そうなると衣服を作れる職人が欲しいですわね」
「できれば綿や蚕などの糸を生成できるものも一緒に手に入れたいですな」
そこにハーニ、ビューウィ、ドレラがやってくる。
「スティクォン、メルーア、ウィルアムさん、何を話しているの?」
「実は衣服を作れる職人をここに招きたいんだけどね」
「ついでに綿や蚕なども一緒に手に入れたいのですわ」
それを聞いてドレラが質問する。
「服を作る人はドワーフではダメなの?」
「ダメではないけどドワーフはどちらかといえば鍛冶や建築のほうが得意だからな」
「そうなんだ」
ドレラは興味がなくなったのかそれ以上突っ込むことはしなかった。
「ここに人間族か魔族を招くの?」
「そこなんだよなぁ・・・」
ハーニの質問にスティクォンが頭を抱える。
スティクォンには衣類関連の職人に伝手がないのだ。
「ウィルアムさん、伝手はないの?」
「あることはありますが、メルーアお嬢様の身に危険が及ぶ可能性がありますので承服いたしかねます」
ウィルアムはメルーアに少しでも危機が迫ることを恐れてかきっぱりと断った。
「なら、人間族・魔族以外の種族を招くしかないわね」
「人間族と魔族以外となると・・・エルフか獣人か・・・」
「あとは私たちみたいに魔物に分類される者」
「裁縫ができる魔物なんていたかしら?」
ハーニとドレラも衣類関連の職人は知らないようだ。
皆の視線がビューウィに注がれる。
「ビューウィ、何か衣類関連の職人について知っているか?」
「そうね・・・たしかアラクネという蜘蛛の魔物が得意ということを聞いたことがあるわ」
「アラクネ? どこにいるかわかるか?」
「私は知らないわね。 ほかの地域に住んでいるアルラウネに聞けばわかるかもしれないけど・・・一応調べることはできるけど見つけるまでに時間がかかるわよ?」
ビューウィがスティクォンたちに『どうするのかしら?』といった視線を送った。
スティクォンはメルーアとウィルアムを見ると2人とも頷く。
「ビューウィ、とりあえず調べてくれないか」
「わかったわ。 各地のアルラウネに聞いてみるわ」
ビューウィはスティクォンの願いを快諾した。
「それじゃぁ集中して調べたいからお花畑に行ってくるわ。 アラクネがどこにいるかわかったら教えに行くから。 それと調べている最中はくれぐれも私の邪魔をしないでね」
それだけいうとビューウィはその場をあとにする。
それから3日後、ビューウィがスティクォンたちのところにやってきた。
「スティクォン、アラクネがどこにいるかわかったわ」
「本当か?!」
「ええ、あっちのほうよ。 アルラウネの話では森の中に住んでいるそうよ」
ビューウィが指さした方角・・・それは北西だ。
「北西ですか?」
「ここから北西ってことはロストアーク伯爵領だっけ?」
「ロストアーク伯爵領は中央よりにありますので別の貴族の領地になりますな」
スティクォン、メルーア、ウィルアムが話をしているとビューウィが横から割り込んだ。
「それはそうと働いた分に合う報酬を貰うわよ」
ビューウィは言うが早いかスティクォンに近づくと素早く唇を奪った。
「?!?!?!?!?!」
「「あああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」
「「「・・・(かあああああぁ・・・)」」」
スティクォンは突然キスされて動揺し、メルーアとハーニはその光景に絶叫する。
リル、ファリー、クレアは目を手で隠すも隙間からスティクォンとビューウィのキスシーンをドキドキしながら見ていた。
ウィルアムは困った顔をし、ドレラは興味がないのか無関心だ。
時間にして1分程だが、その場にいた者たちにとっては何十分何時間と錯覚するほどの時間を感じていただろう。
「・・・ふぅ、ご馳走様♡」
ビューウィは自分の唇を手で触ると悪戯っぽく笑う。
我に返ったメルーアとハーニがスティクォンに詰め寄る。
「「スティクオオオオオオオォーーーーーーーンッ!!!!!!!」」
「ひぃっ!!」
このあと、スティクォンはメルーアとハーニにこってり絞られた。




