38.リクル3 〔リクル視点〕
時はスティクォンが死の砂漠にある開拓地に最低限の環境を整えた頃に遡る。
無尽蔵の体力を失ってから3ヵ月、現在私は国王直轄近衛騎士団の自室で必死に体力作りに励んでいます。
「・・・、98・・・、99・・・、100!!」
腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットをそれぞれ100セットした私はその場で大の字になって寝転ぶ。
「はぁはぁはぁ・・・少しは体力が向上したかしら・・・」
今までは体力に物を言わせて熟してきたが、今は効率の良いように体力作りを毎日行っています。
「それにしても私だけ体力が落ちたのかと思えばそうではないようね」
この3ヵ月、私は体力作りをしつつ情報収集も行っていた。
すると色々なところから様々な情報が私のところに流れてきます。
この国の国王であるラストール陛下の体調が優れないこと。
同僚の騎士たちが私と同じように体力が落ちていること。
実兄ロニーが配属している宮廷魔導師団の全団員の魔力が低下していること。
農作物の不作、鉱石の採掘率低下により、各貴族の領地の景気が落ち込んだこと。
農作物、鉱石、魔石などの生活必需品の値が平年の数倍に跳ね上がったこと。
鉱石の不足により武器、防具、工具、農具などが高騰したこと。
王国内の魔物や魔獣が急に強くなったこと。
ほかにも数え上げたら切りがないので割愛するわ。
これらの情報をまとめると王国に異変が起きたのはどれも3ヵ月前であることが判明した。
「3ヵ月前、ここで何があったのかしら?」
わからない・・・わからないがとにかく嫌な予感しかしない。
(場合によってはこの国を見限るのも考えておいたほうがいいわね。 正直兄様が家督を継ぐのは不本意だけど)
アバラス家の家督を継げないのは正直勿体ないが、王国にいるのは危険だと直感が告げる。
いつでも動けるように準備だけはしておきましょう。
私は非常時に備えてマジックバックを密かに購入していた。
その中には金貨などの貨幣、通常の剣10本、ダンジョンで出土された魔法の剣2本、日持ちする食料と水1ヵ月分、ポーション10個、着替え10着など必要と考えられる物はすでに入れてます。
あとはタイミングを間違えなければ巻き込まれることもないでしょう。
問題はどこの国に行くか。
東の帝国、西のエルフの国、南の獣の国、そして北の魔族の国。
まず、東の帝国はありえないわね。
王国と帝国は不仲の関係である。
そこに公爵家の令嬢である私が亡命を望んでもできるかどうか怪しい。
最悪捕縛されて男どもの慰み者にされるのが落ちだわ。
なので帝国への亡命はなし。
次にエルフの国だけど国自体が鎖国的であると聞く。
それにエルフは他種族とは相容れない。
彼ら彼女らの生活を邪魔せぬように暮らすのは難しいでしょう。
(残るは獣の国と魔族の国か・・・)
獣の国は王国と国交を結んである程度仲の良い国です。
一時的に身を隠すには丁度良いでしょう。
逆に魔族の国は王国が一方的に毛嫌いしている国です。
とはいえ、魔族たちが王国を滅ぼそうと攻めてくることは私が知る限りでは今までに一度もありません。
罪人を島流しする際魔族の国に送ることはありますが、そのあとその罪人がどうなったのかは記録には残されていません。
当然ね、罪人の記録など取っておいても意味がないわ。
(そう考えると獣の国に身を隠すのが一番良いかもしれないわね)
とりあえず身を隠す場所として獣の国に決めました。
そうなると私の生家があるアバラス公爵領を通らなければなりません。
(偽名と変装道具と偽りの身分証が必要ね)
たしか王都内には便利屋があったはず。
そこで必要な物を手に入れましょう。
(さて・・・いつ頃決行するかね)
早ければ早いほどいいけど、突然失踪するのはさすがにまずいでしょう。
下手をすればお父様やラストール陛下が私の捜索に乗り出す可能性があります。
「何か良いタイミングはないかしら?」
一番良いのはアバラス家に帰省した時でしょう。
アバラス領に戻り、王都に戻るふりをして獣の国に向かう。
(うん、それがいいわ)
それまでは国王直轄近衛騎士団にいたほうがいいわね。
私は大人しく日々を過ごすことにしました。
数日後、兄様がお父様から連絡を受けて実家に呼び戻されたと小耳に挟む。
「このタイミングで兄様を実家に戻すなんて・・・何かあったのかしら?」
私は以前情報収集した際に農作物の不作であることを思い出す。
「兄様は領地復興のために呼び戻された可能性があるわね」
いよいよ危険が近づいてきたと認識します。
王国から抜け出すなら今しかないのでしょうが、タイミングがあまりにも悪すぎる。
「はぁ・・・世の中上手くいかないものね・・・」
結局機を逃したことにより私は獣の国へ向かうことはできませんでした。
しばらくして兄様が王都へ戻り、さらにその数日後にはお父様が王都に来たのです。
「お父様が王都に? 一体何用かしら?」
そんなことを考えているとラストール陛下の側近が私のところにやってきて呼び出しを受けました。
私は正装して陛下がいる謁見の間へと足を運びます。
これから今まで王国で起きた出来事を聞かされることになるとは予想していませんでした。




