33.ハーニの告白 〔メルーア視点〕
成虫へと進化した蜂たちは産みの親であるハーニの周りを飛んでいます。
「これからこの子たちに花の蜜を集めさせます」
ハーニは成虫になった蜂たちを連れて外に出ます。
花畑まで行くとハーニは蜂たちに命令しました。
「さぁ、花から蜜を集めてきて。 集めた蜜はこの箱の中に溜めること」
蜂たちは一斉に花に移動して蜜を集め始めました。
それから箱に移動するとそこに蜜を徐々に溜め込んでいきます。
「蜂たちが花と箱を行ったり来たりしているな」
「みんな頑張ってます」
「これで蜂蜜が手に入るわよ」
「楽しみ」
スティクォンたちが蜂について嬉しそうに話しています。
ですが、わたくしの心は穏やかではありません。
「・・・」
「メルーア、どうしたの?」
「! ハーニ・・・いえ、なんでもありません」
ハーニが声をかけるとわたくしはすぐにいつも通りに対応しようとしました。
しかし、心がモヤモヤして普段通りには振舞えていないのが自分でもわかります。
(このままではいけない)
わたくしはハーニに声をかけます。
「ハーニ、少し話があるのですがよろしいかしら?」
「話? ええ、いいですよ」
わたくしはハーニとともにスティクォンたちから離れたところに移動します。
「それで話というのはなんでしょう?」
「ハ、ハーニの周りにいた蜂って・・・」
「メルーアはあの蜂たちについて、薄々気付いていたのですね」
「えっと・・・その・・・スティクォンと?」
わたくしの言葉にハーニは顔を赤くしながら頷きました。
その回答にわたくしの心に悲しみが広がっていきます。
「はい。 ただ、誤解がないように言っておきますけどスティクォンからは雄の因子を貰っただけです。 それにあれは私が望んだことです。 なので、スティクォンを責めないでください」
「わたくしは別に・・・」
「メルーア、私はスティクォンのことが好きです。 命を助けられたあの時から」
「!!」
突然の告白にわたくしの心臓がギュッと掴まれる感覚を覚えます。
「なぜ・・・それをわたくしに告白しますの?」
「フェアではないから・・・ですかね。 メルーア、あなたもスティクォンのことが好きなのでしょう?」
「わ、わたくしは・・・」
ハーニと違い、わたくしは言葉に詰まり即座に回答できない。
「メルーア、スティクォンと一緒では楽しくないですか?」
「そ、そんなことありませんわ!」
スティクォンと一緒にいると楽しいし、嬉しいし、何よりドキドキします。
スティクォンがわたくし以外の女性と仲良く話していると胸がチクッとします。
それが恋だと一目でわかるくらいに。
「もし、メルーアがスティクォンのことをほかの女性の皆さんと同じように頼もしい人止まりなら、私はスティクォンに・・・」
「それはダメですわ!!」
わたくしは自分の口から反射的に出た言葉に驚き、手で口を塞ぎます。
ハーニは予想通りなのか至って冷静でした。
「やっぱりメルーアも私と同じ気持ちなのですね」
「・・・(コク)」
ここまで来たら嘘をついても仕方ないとわたくしはハーニの言葉を肯定します。
「わたくしもスティクォンのことが好きですわ。 ハーニ、あなたに負けないくらいに」
スティクォンと出会ってからそれほど経っていないけど、これが恋だということは薄々感じていました。
死の砂漠に来てスティクォンと爺と3人で協力して暮らしていくのだとばかり考えていましたから。
ですが、シディアと出会ったことがきっかけでここに女性が何名かやってくるとは想定外でした。
リル、ファリー、クレアの3人は尊敬の対象として、ビューウィとドレラは興味の対象としてスティクォンのことを見ています。
そんな中、ハーニだけは初めてスティクォンのことを恋愛対象として見ていたのです。
そして、ハーニの周りにいる蜂を見てわたくしは少なからずショックを受けました。
「だけど、スティクォンが誰のことが好きなのか知るのが怖いですわ。 もし、告白してわたくし以外の誰かが好きだと言われた日には・・・」
「たしかに私もスティクォンの本心を聞くのは怖いです。 もし、本人の口から一番ではないと言われたら悲しいかもしれません」
「ハーニ・・・」
「でも、二番目でも三番目でもいいんです。 スティクォンが私のことをほんの少しでも好きならそれでいいんです」
ハーニはわたくしを真っ直ぐに見つめて本心を語ります。
そんなハーニが眩しく見えました。
(わたくしは・・・どうなんでしょう・・・)
ハーニみたいに殊勝な心掛けができるのでしょうか・・・
(わからない・・・)
スティクォンがわたくし以外の女性を好きになる・・・
(嫌・・・嫌・・・そんなの嫌です・・・)
するとわたくしの心を悲しみが再び襲います。
「わたくしはハーニほど心が強くはありませんわ」
「それをいうなら私も同じです。 本心ではああはいっても実際に直面したらきっと耐えられないでしょう」
「・・・」
「結局はスティクォンの心が誰に向いているかの問題だけなんです」
「・・・そうですわね」
ハーニのようにわたくしもいつかスティクォンに告白する日がくることでしょう。
その時、スティクォンの心がわたくしに向いてほしいと切に願うのでした。




