32.蜂を育てよう
スティクォンがハーニに協力した翌日、いつものように畑を拡張しようとしたがそこにハーニの姿がなかった。
「あら、ハーニがいないわね。 どうしたのかしら?」
「ハーニさんがいないと受粉できませんよ」
「ハーニがいれば美味しい野菜が食べ放題なのに」
メルーア、リル、ドレラはハーニを心配する。
「・・・」
「疲れがでたのでしょ。 少し休ませてあげたら」
スティクォンがどう説明しようかと考えているとビューウィがハーニを気遣う。
「そうですわね」
「あまりハーニさんに負担をかけるのも悪いです」
「・・・(コクコク)」
「ぼ、僕もそう思うよ」
「それでは今日はこの5人で作業をしていきましょう」
メルーアの号令でハーニを除いた5人で作業を開始しようとする。
スティクォンが胸を撫で下ろすとそこにビューウィが近づいてきて小声で話しかけた。
『昨日はお盛んだったわね。 頑張ったんだから結果を期待しているわよ』
「?!」
スティクォンはビューウィの言葉にドキッとする。
(ば、ばれてる)
ビューウィは小悪魔な笑顔でそれだけいうとメルーアたちのほうへと歩いていく。
その日は野菜の収穫を見送り、代わりに畑を拡張した。
次の日もその次の日もハーニが姿を現さない。
「今日もハーニがいないわね」
「ハーニさん、大丈夫かな」
「野菜お預け」
今日もハーニがいないことにメルーア、リル、ドレラは心配していた。
「ハーニを見舞いに行きましょう」
「そうですね」
「・・・(コクコク)」
「それではこれからハーニのところに行きましょう」
メルーアの提案でスティクォンたちはハーニのところへと向かった。
ハーニのいる仮家に到着すると代表してメルーアが扉を叩く。
「ハーニ、メルーアです。 中に入ってもいいかしら」
『メルーア? はい、大丈夫ですよ』
中から聞こえたハーニの声は以外にも元気だ。
「お邪魔しますわ」
代表してメルーアが扉を開けて中に入る。
『きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!』
突然、家の中からメルーアの悲鳴が聞こえてきた。
「メルーア!!」
「メルーアさん!!」
メルーアの悲鳴に反応してスティクォンたちはすぐに扉を開けて中に入っていく。
そこには尻餅をついて信じられないものを見ているメルーアがいた。
「メルーア! 大丈夫か?」
「ス、スティクォン・・・あ、あれ・・・」
「え? なっ?!」
メルーアが指さしたほうを見るとスティクォンたちも驚いた。
そこにはハーニと数千、下手をすれば数万もの小さい卵があったからだ。
「あ、スティクォン」
「ハーニ、これは?」
「私が産み出した卵です」
ハーニはスティクォンから貰ったもので多くの卵を産みだしたのだ。
「あらあら随分頑張ったわね」
「初めてなのでこれでも足りるかどうかわかりません」
不安がるハーニにリルが質問する。
「これ全部ハーニさんが産んだんですか?」
「はい。 あ、そろそろかしら」
ハーニが一番最初に産み出したところに行くと卵を見る。
すると孵化が始まり殻が破けて幼虫が出てきた。
突然のことに驚くスティクォンたち。
「スティクォン、お願いがあるのですが、この子を死なせないようにできますか?」
「え? あ、ああ、できるよ。 ちょっと待ってね」
スティクォンは【現状維持】を発動すると幼虫が死なないように維持した。
それからしばらくしたら大量にある卵から次々と幼虫たちが出てくる。
「スティクォン」
「わ、わかってる」
次々と現れる幼虫たちを死なせないようにスティクォンは維持していく。
スティクォンが1人頑張っている間にハーニはメルーアたちにお願いする。
「メルーア、お願いがあるのですがこの子たちに餌を与えたいので花を用意してもらえませんか?」
「こ、この子たちにですか?」
メルーアは蜂の幼虫を見て身震いする。
こういうのは苦手らしい。
「それなら私がやるわよ」
メルーアの様子を見てビューウィが名乗りを上げる。
「ビューウィ! お願いします!」
「任せて頂戴」
ビューウィは引き受けると自らの分身体を何体も作り、花を持ってこさせる。
ハーニは持ってきた花から蜜を採取すると幼虫たちに与えていく。
「御飯ですよ」
ハーニは花から蜜を掬うと幼虫たちに与えていく。
殻を破って生まれてきた幼虫全員に蜜を与え終えるとようやく落ち着いた。
「スティクォン、ビューウィ、ありがとうございます」
「これで問題ないのかな」
「いえ、あと5日ほどは幼虫に餌を与えます」
「なら明日から5日は協力するわよ」
それから5日間、ハーニは幼虫たちに蜜を与え続けた。
幼虫に蜜を与えて7日目、スティクォンたちは再びハーニの家を訪れた。
そこには蛹になった幼虫たちが1ヵ所に集まっている。
「ハーニ、幼虫たちは?」
「成虫になるために蛹になったところです。 あと11日はこのままです」
ハーニはそれだけいうと孵化しなかった卵たちを悲しい顔で見つめる。
もしかしてと淡い期待をしていたが、ついに幼虫として孵化することはなかった。
「ハーニ、あの卵食べていい?」
「・・・ええ、いいですよ」
ドレラがハーニから許可をもらうと孵化していない卵たちを体内に取り込んだ。
「ハーニ、悲しむことはない。 この子たちは私の血肉となって生き続ける」
それはドレラなりの励ましの言葉だった。
ハーニもそれに気付いたのか少し表情が和らいだ。
「ドレラ・・・」
「孵化しなかったけど、きっと産んでくれたことを感謝しているはず」
「そうだといいですね」
ドレラなりの気遣いにスティクォンたちはなんともいえない顔をしていた。
それから11日が経ち、スティクォンたちは再びハーニの家を訪れる。
そこには蛹を破り中から成虫である蜂が現れた。
「皆さん、見てください! 私の子たちがこんなに元気良く飛んでいますよ!」
我が子を喜ぶハーニだが、スティクォンたちは気が気でない。
「ハーニ、その蜂たちだけど刺したりしないよね?」
「大丈夫です。 親である私が命令すれば逆らうことはないです」
「それなら問題ないか・・・」
これだけの蜂がいれば警戒してしまうのも無理はない。
ハーニは親として子たちに人を襲わないように命令した。




