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31.働き蜂は女王蜂になりたい

ハーニ、ビューウィ、ドレラがやってきて数日、スティクォンたちは物作りに精を出していた。

リルは引き続き畑で野菜を育てる。

メルーアとビューウィは畑から離れたところに花畑を作った。

ハーニはその花畑にある花から蜜を採取すると農作物の花に受粉する。

ドレラは自らの身体の一部を細分化して農作物や花を害虫から守る。

ファリーは仮家を建て終えると、クレアから鉄を受け取り工具や農具を作り始めた。

クレアはウィルアムとシディアと協力して防壁作りに力を入れていた。

スティクォンもメルーアたちのサポートをしている。

それぞれの役割を熟すスティクォンたちであった。


今日も今日とてスティクォンたちは畑で野菜作りに勤しんでいる。

「うーん、毎日こんなに美味しい野菜が食べられるなんて幸せですわ」

「リルが畑を耕して、みんなで種を植え、メルーアがある程度成長させて、ハーニが受粉して、またメルーアが成長させる。 見事な連携プレイだな」

「もう、スティクォンったら」

「スティクォンさん、そんなに褒めても何も出ませんよ」

「とても嬉しいです」

スティクォンに褒められてメルーア、リル、ハーニの機嫌はとても良い。

「あら、私も貢献しているわよ」

「私も」

ビューウィとドレラも手伝っていることをアピールする。

「ちゃんとわかっているよ」

「それならいいわ」

「ふふん♪」

ビューウィとドレラを褒めると2人とも上機嫌になる。

「リルがいると農作物を育てるのが楽でいいな」

「もし、わたくしたちだけでしたら毎日が地獄でしたわね」

「あぁ・・・たしかにそうだな」

スティクォンとメルーアはリルがいない生活を想像し身震いする。

リルだけではない。

ファリーがいなければ家を建てるのも大変だし、クレアがいなければ必要な道具も買えない。

ハーニとビューウィがいなければ味の向上ができなかったし、ドレラがいなければ害虫駆除や汚物処理もできなかった。

なによりシディアと出会わなければ今の生活に辿り着くことすらなかっただろう。

「わたくしはスティクォンと出会わなければ死んでいましたわ」

「それなら僕もメルーアとウィルアムさんに会わなければ今も魔族の国を彷徨っていただろう」

スティクォンとメルーアは改めてここにいる皆に感謝する。

「ところでハーニに相談がありますの」

「メルーア、なんですか?」

「実は蜂蜜が欲しいですの。 肌に塗るとしっとりとした肌になりますわ。 できるかしら?」

「蜂蜜ですか? 私1人では時間がかかりすぎてしまいます。 今の私では無理です・・・」

ハーニがスティクォンを見てなぜか顔を赤らめる。

「そうですか・・・残念ですわ」

「メルーア、蜂蜜って肌にいいのか?」

「人によりますわ。 わたくしが実家にいた頃、化粧品の中に蜂蜜を使ったものがありましたの」

「ああ、なるほど。 蜂蜜は食べるだけでなく美容にもいいのか」

メルーアも女性だ。

不老を願うように自分の美しさを永遠に保ちたいのだろう。

実家で使用していた化粧品に蜂蜜を使ったものがあったのを思い出してハーニに頼んだわけか・・・

この死の砂漠では照り付ける太陽の日差しで肌が焼けてもおかしくない。

貴族令嬢であるメルーアが蜂蜜さえあればと願うのも理解できる。

「仕方ありませんわ。 わたくしの我儘でハーニを困らせるわけにはいきませんもの」

「・・・」

「作業に戻るとしますわ」

「そうだな」

皆が作業を再開しようと動き出す。

その時、スティクォンの服をハーニが掴む。

「ハーニ?」

「あ、あの・・・あ、あとで2人きりで話をしたいのですが・・・」

「僕と? 別にいいけど」

「そ、それじゃ、よ、夜に私の家に来てください」

ハーニはそれだけいうとメルーアたちのほうへと急いで向かった。

「ハーニ、なんだか恥ずかしそうにしていたな。 何かあったのかな?」

1人残されたスティクォン。

ハーニのことは気がかりだが今は農作物の手伝いを優先することにした。


夜───

スティクォンはハーニの仮家を訪れる。

コンコンコン・・・

スティクォンが扉をノックした。

「ハーニ、スティクォンだけど」

『はい。 今開けます』

ハーニが扉を開けて出迎えてくれた。

「スティクォン、お待ちしてました」

「それで話って何?」

「とりあえず入ってください」

「え、じゃぁお邪魔します」

ハーニの勧めでスティクォンは家に入る。

家の中を見渡す。

ファリーが建てた家はスティクォンの家と変わらない。

「それでハーニ、話って何かな?」

「じ、実はスティクォンにお願いがあって・・・」

「僕に? 僕ができることなら手伝うよ」

「ほ、本当ですか?」

ハーニはそれを聞いて口を開けようとしては言い淀んでいた。

「ハーニ? 言い辛いなら無理に言わなくても・・・」

「ス、スティクォン!!」

「は、はい!」

突然の大声に驚くスティクォン。

ハーニは恥ずかしながらも言葉にした。

「わ、私を女王蜂にしてください!!」

「え、じょ、女王蜂?」

「は、はい!」

「えっと・・・どういうこと?」

スティクォンはハーニに説明を求めた。

「蜂の世界において雄蜂はほとんど産まれないため、とても貴重で女王蜂以外では次世代の女王蜂しか触れることはできません。 なので、本来働き蜂である私には女王蜂になる資格はないんです」

「知らなかった」

人間の世界では数こそ均等ではないがそれなりに男女の比率に関してはバランスがとれている。

しかし、蜂の世界では何百という数から雄蜂が産まれるのは1匹いれば良いほうだ。

「だけど、1つだけ女王蜂になる方法があるんです。 それは女王蜂がいない場合です。 その時、雄蜂とその・・・することでその働き蜂が女王蜂になるのです」

「それって・・・」

「お願い! スティクォン! 私を女王蜂にしてください!!」

「・・・」

スティクォンとしてはハーニの願いを叶えてあげたいが、どうしたものかと考える。

(余程勇気を振り絞ったんだろうな・・・)

スティクォンは悩んだ末に・・・折れた。

「わかった。 手伝うよ」

「! 本当に?! ありがとう!!」

その夜、スティクォンはハーニの願いを叶えるべく行動に移した。


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