30.品種改良
スティクォン、メルーア、リル、ハーニ、ビューウィ、ドレラは畑から離れたところにやってきた。
「作物を品種改良する前にまずは花畑を作りましょう」
「ビューウィ、ここら辺に花をお願いしてもいいか?」
「わかったわ」
ビューウィが掌に意識を集中すると花の種がいくつか現れた。
スティクォンたちはそれを不思議そうに見ている。
「これがビューウィさんの【花神】ですか」
「いつも集中すればポコポコ生み出せていたから気にはしなかったけどね」
「ということは、ビューウィは無意識にスキルを使っていたんだ」
「さぁ、この種を蒔いて花を育てましょう」
ビューウィはその場で無造作に花の種をばら蒔く。
次にメルーアが【水魔法】で水を撒き、続けて【木魔法】で種の成長を促す。
すると種が芽を出し、根がのび、葉が出て、どんどん成長し、やがて蕾ができた。
メルーアがさらに魔力を注ぐと蕾が開き花を咲かせる。
「咲きましたわ」
「綺麗」
「良い香りです」
「見事ね」
「美味しそう」
メルーア、リル、ハーニ、ビューウィは花を見てうっとりしている。
だが、ドレラはほかの4人と違い食べ物としか見ていない。
「ドレラ、食べたらダメだよ」
「ええぇ・・・」
スティクォンが窘めるとドレラは悲しい顔をした。
たくさん咲いたから1つや2つなら食べても問題ないが、全部はダメだ。
「さて、次はハーニの出番だな」
「この花の蜜を今育てている野菜の花に受粉すればいいのですね?」
「その通り」
「が、頑張ります」
ハーニは咲き誇る花々から蜜を集めてから野菜畑へと移動した。
「えっと・・・どの野菜の花に受粉すればいいでしょうか?」
「とりあえずトマトをお願い」
スティクォンはトマトのところに移動して花を指さす。
「わかりました」
ハーニは集めた蜜を基に受粉する。
「これでいいのかしら」
受粉が終わるとメルーアが【木魔法】を発動してトマトの成長を促進する。
トマトが赤く実るとそこで魔法を止めた。
真っ赤に実ったトマトを人数分収穫するとスティクォンたちは実に齧りつく。
「うーん、最初のと比べると甘味はあるけど・・・」
「甘味よりも酸味が強いですね」
「不味くはないんですけどね・・・」
最初の不味いトマトに比べると味は格段に進歩していた。
それでも美味い不味いでいえば不味い部類に入る。
「いらないならドレラが全部食べる」
「ドレラは平気なのか?」
「なんでも美味しく食べられる」
「あぁ・・・もしかしてドレラのスキルである【悪食神】の効果なのかもな」
スティクォンの考えた通りドレラのスキル【悪食神】はなんでも食べることができる。
例えそれが不味い食べ物だろうが、腐った食べ物だろうが、排泄物だろうが、汚物だろうが、致死性の毒だろうが、食べ物以外だろうがなんでも食べてしまう。
スティクォンたちは食べかけのトマトをドレラに渡すと全部食べてしまい、あっという間に処理された。
「ハーニ、さっきのはスキルを使ったのか?」
「いえ、ただ花に受粉しただけです」
「それなら今度はスキルを使って受粉してもらえないか?」
「えっと・・・どうすればスキルを発動できるのですか?」
「念じればできるはずだ」
「や、やってみます。 【甘味神】」
ハーニは意識を集中してスキル名を声にすると、手が金色に輝いた。
驚いていたが、気を取り直して花に触れていく。
普通では感じられない甘い香りが花から漂ってくる。
「甘くて良い香り」
「本当です」
「お、終わりました」
受粉が終わるとメルーアが【木魔法】を再度発動してトマトを成長を促進する。
トマトが赤く実るとそこで魔法を止めた。
真っ赤に実ったトマトを人数分収穫するとスティクォンたちは実に齧りつく。
「「「「「美味い!!」」」」」
「美味美味」
以前の酸味が強すぎ、苦みが口内に広がるトマトとは明らかに違う。
店売りのトマトよりも甘く、酸味と苦みも僅かにしか感じない。
「甘味が口いっぱいに広がる」
「これならいくらでも食べられますわ」
「美味しいです」
「本当ね」
「美味美味」
ハーニが自分の手を見る。
「これが私のスキル・・・」
「ハーニ、凄いじゃないか!」
「まさに救世主ですわ!」
スティクォンたちの絶賛にハーニは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「この調子でどんどん野菜の受粉をお願いしたい」
「実ったらすぐに収穫してみんなで食べましょう」
「メルーアさん、待ってください。 種を回収してそれを植えたらハーニさんのスキルで受粉したのと同等の物か検証したいです」
「そ、それもそうですわね」
それからハーニが受粉した野菜を実らせて種を回収する。
回収した種を別の場所に植えて育て、実った野菜を試食したが、味は向上するもハーニがスキル【甘味神】を使った野菜に比べると一段劣っていた。
市販のよりは格段に美味いが、ハーニのスキル【甘味神】で直接受粉した野菜に比べるとどうしても劣ってしまう。
何度か同じ実験を繰り返したが、結局ハーニのスキル【甘味神】で直接受粉した野菜と同等の野菜を作ることはできなかった。
スティクォンたちはこれらの結果を基に話し合い、万が一のことを考えて極限まで品種改良した種を保存することにした。
「ハーニ、できればこれからも受粉を手伝ってほしいのだが・・・」
「任せてください!」
「ああ、ハーニが女神に見えますわ」
「本当です」
「こんな美味しいものを作り出せるなら崇められて当然ね」
「美味美味」
かくして野菜の品種改良は見事に成功した。
そのあと、品種改良した野菜をウィルアム、シディア、ファリー、クレアに食べてもらったところ大絶賛されたことはいうまでもない。




