3.出会い
王都を散策するスティクォン。
歩いているうちに考えがまとまる。
「この国にいても明るい未来がない。 それならどこか別の国にでも行くか・・・」
どうせ勘当されて行く当てもないし、それならほかの国で生きていくことに決めた。
問題はどこの国に行くかだ。
東の帝国、西のエルフの国、南の獣の国、そして北の魔族の国。
まず、南の獣の国はありえない。
なぜなら獣の国に行くにはどうしてもスティクォンの生家である公爵家を通らないといけないからだ。
次に帝国だが王国との関係が頗る悪い。
そんな中、勘当されたとはいえ、元公爵家の子息が行けば狙われるのは必然。
そしてエルフの国は閉塞的で他種族を寄せ付けない。
自然と共有して生きているので、その生活を乱す者には容赦しないと聞く。
では魔族の国はどうだろうか?
話を聞く限りはこの国は弱肉強食で成り立っているらしい。
どちらかといえば王国が一方的に嫌っているように感じる。
スティクォンは悩んだ末に北の魔族の国に行くことに決めた。
そうと決まれば急いで支度をする。
武器屋で自衛用に鋼の剣と鋼のナイフを、錬金術師の店でポーションを、露店で保存食を、あとは色々な店を回り必要な物資を購入した。
準備が整ったスティクォンは乗合馬車を利用して一路北を目指す。
馬車に揺られて1ヵ月───
王国最北端の村に到着する。
そこは荒れ果てており、死んだような目をした人たちで溢れていた。
王国でも噂に名高い世捨て村だ。
ここより先は魔族の国であり、何があろうと王国は関知しない。
「さてと・・・行くか。 さらば、王国よ」
スティクォンは王国を見限り魔族の国に入国する。
この瞬間、フーリシュ王国はこの12年間の平穏が失われたことに誰も気づいていなかった。
魔族の国に入って3日目、スティクォンは荒野を彷徨っている。
今のところは魔物や魔獣に遭遇していないが、いつ襲われてもおかしくないので警戒は怠らない。
しばらく歩いていると前のほうから砂埃が舞って何かがこちらに近づいてくる。
それは逃げる男女2人組とそれを追っかけている複数の者たちだ。
スティクォンがどうしたものかと考えていると初老の男性が急に止まり叫ぶ。
「お嬢様! お逃げください!!」
「ダメよ! 爺も一緒に・・・」
「なりません! ここはこの爺が一命を賭して食い止めます! 早くお逃げください!!」
「爺!!」
女性は悲壮な声で叫んだ。
スティクォンは頭を掻くと男性のほうへと走り出した。
「ああ、もう・・・こういう展開じゃ助けないわけにはいかないだろ! 頼むから助けに行くまで耐えてくれよ!!」
この瞬間、男性と男たちの戦いは維持された。
人数差や武器の良し悪しは関係ない。
普通ならあっという間に終わるはずの戦いだが未だに戦闘が続いていた。
「なんだ! この爺ぃ! なぜ倒れない?!」
「はぁはぁはぁ・・・ふっ、そんなのは知りませんよ」
「おい、もっと大人数で攻めろ!」
そこにスティクォンが剣を抜いて男たちの戦いに乱入する。
「おい! 爺さん、大丈夫か?!」
「あなたは?」
「それはあとでいいだろ? それよりもこいつらを先に片付けよう」
「・・・そうですな。 助力感謝します」
「誰だか知らないが殺っちまえ!」
しかし、男たちは男性ばかりを攻撃してスティクォンには誰も攻撃しない。
「ちょっ?! 爺さんばかり攻撃するの止めろ!!」
スティクォンは持っている剣で男たちを次々と斬っていく。
男たちの数はあっという間に減り、リーダー格の男が無理だと判断する。
「おい、撤退だ!」
そして、男たちは逃げる・・・わけでもなく、まだ男性に攻撃を仕掛けていた。
「何してる?! 撤退しろ!!」
「逃げたら殺される!」
「戦え! 戦うんだ!!」
「お、おい・・・」
しばらくするとリーダー格の男以外全滅していた。
「はぁはぁはぁ・・・あとはもうお前だけだぞ」
「く、くそぉ!!」
リーダー格の男は男性に襲い掛かった。
「だから爺さんばかりを攻撃するな!!」
スティクォンは後ろからリーダー格の男を斬った。
「あぐぅ・・・そ、そんなぁ・・・」
それだけ言うと事切れる。
戦いが終わり女性が男性に駆け寄った。
「爺! 爺! 大丈夫なの!」
「お嬢様、無事で何よりです」
「ああ・・・傷が・・・」
「おい、早くこれを飲ませろ」
スティクォンは自分用に買ったポーションを女性に差し出す。
女性は一瞬迷ったがそれを受け取ると男性に飲ませる。
すると身体が発光して傷が癒されていく。
「おお、傷が治っていく」
「旅のお方、ありがとうございます」
「いや、気にするな。 あのまま死なれても困るからな」
スティクォンは改めて男女を見る。
顔は青白く耳が人間より尖っていた。
彼らが王国でいうところの魔族なのだろう。
倒れている男たちも皆同じだ。
「旅の方、お名前は?」
「あ、僕は人間族で名前はスティクォンといいます」
「スティクォン様・・・わたくしは魔族ウィンアーク伯爵家が三女で名をメルーアと申します」
「同じく魔族でこちらに御座すお嬢様・・・メルーア様の執事をさせていただいておりますウィルアムと申します」
それはスティクォンとメルーアたちとの運命の出会いであった。




