28.不安を胸に抱く
「なぜ僕たちについていこうとするんだ?」
「面白そうだから」
スティクォンの質問にドレラは無表情に答える。
「ま、まぁ、別にいいけど・・・それより熊が突然萎んだけど」
「それは私が体内の血を吸ったから。 肉に影響はない」
「血を吸った?」
ドレラがフォレスト・ベアの体内にある血を吸ったことにより、あれほど巨体だった身体が萎んで引き締まっていた。
「本当は肉ごと全部食べたかったんだけど血だけで我慢した」
「・・・」
スティクォンが呆れているとドレラが改めて挨拶する。
「スティクォン、これからよろしく」
「あ、ああ、よろしく・・・」
話が纏まったと判断したシディアが話しかけてきた。
『無事蜂や花も手に入れたし戻るとしよう』
「そうだな。 その前にやっておかないとな」
スティクォンは【現状維持】を発動するとハーニたちを自分と同じ状態にする。
「これでハーニたちも僕たちと同じにしたから大丈夫だ」
「えっと・・・スティクォンと同じってどういうことですか?」
スティクォンの言葉に不思議な顔をするハーニたち。
「これから行くところは砂漠で現在開拓途中の土地以外何もないところなんだよ」
「砂漠ですか?」
「私熱いところ苦手」
「私もよ」
砂漠と聞いてビューウィとドレラがげんなりする。
「嫌なら無理についてこなくてもいいんだよ?」
「私はついていきます」
「私も行くわよ」
「私も行く」
ハーニたちはすぐに一緒に行くと返事をする。
「僕の【現状維持】でハーニ、ビューウィ、ドレラの現在の状態を維持した。 僕が能力を解除しない限りは死ぬことはないよ」
「死なない?」
「枯れたりしない?」
「蒸発しない?」
ハーニたちは疑問を感じているようだ。
「すぐには実感がわかないと思うけど、向こうに着いたら実感できるはずだ。 もし、無理そうでもメルーアの【水魔法】があれば問題ない」
「水ならわたくしが大量に作り出すことができますからお任せくださいな」
メルーアの言葉にビューウィとドレラはそれを聞いて少し安心する。
一方、ハーニは先ほどフォレスト・ベアに殺されかけたのか、震えながらスティクォンの服を掴んでいた。
「ハーニ、大丈夫か?」
「え、えぇ・・・だ、大丈夫です」
『ハーニとやら、スティクォンは嘘をついてなどおらぬ故に心配いらぬぞ』
「そうですわ。 もし、スティクォンがいなければ今頃わたくしは爺とともに死んでいましたもの」
メルーアとシディアがスティクォンの話が真実だとハーニに伝える。
「わ、わかりました。 スティクォンを信じます」
『それでは戻るとしよう』
「その前に確認だけど、ビューウィは何かここら辺の花を持っていかなくても大丈夫か?」
「それならビューウィが指示した花や種を持っていますわ」
「私も貴重な花や薬草を持っているわ」
メルーアとビューウィが何輪か花や種を持っていた。
「これらも維持しておこう」
スティクォンは【現状維持】で花や種の状態を維持する。
「これでよし。 シディア、このフォレスト・ベアも持って帰るからお願い」
『任せるがよい。 皆、我の背中に乗れ』
スティクォンとメルーアがシディアの背中に乗る。
『ハーニ、ビューウィ、ドレラも遠慮するな。 それと我のことは気軽にシディアと呼ぶがよい』
「は、はい」
「わかったわ」
「・・・(コクコク)」
ハーニたちは頷くと恐る恐るシディアの背中に乗った。
『では行くぞ』
シディアはフォレスト・ベアの遺体を前足でしっかり持ち、翼を羽搏かせると空中に浮かび南にある死の砂漠へと飛んで行く。
死の砂漠にある開拓地へと戻ってきたスティクォンたち。
開拓した場所には中央の巨木と等間隔に植えられた木、僅かな建物と畑、それに作りかけの防壁だけ存在している。
ほかは何もなくハーニたちの目が点になっている。
「「「・・・」」」
「3人とも大丈夫か?」
「何もないところですね」
「想像以上だわ」
「暑さ以外は問題ない」
そこにウィルアム、リル、ファリー、クレアが作業を中断してやってきた。
「メルーアお嬢様、スティクォン様、シディア様、お帰りなさいませ」
「ただいま」
「ただいまですわ」
『今、戻ったぞ』
「それで収穫はあったんですか?」
「あ、あったことはあったんだけど・・・」
ウィルアムたちはスティクォンとメルーアのうしろに3人の女性がいることに気付く。
「スティクォンさんのエッチ!!」
「変態です!!」
「は、裸の女性を連れてくるなんて信じられないです!!」
ハーニ、ビューウィ、ドレラを見てリル、ファリー、クレアがスティクォンを非難する。
「ちょっと待って! これには理由が・・・」
「3人とももっと言ってあげなさい。 わたくしも同じ気持ちですから」
「ちょっ?! メルーアまで?!」
メルーアはリルたちに味方する。
いくら生活のためとはいえ、メルーアとしても自分より魅惑的な身体を持つハーニたちが異性に言い寄るのは癇に障るらしい。
裏を返せばメルーアがスティクォンのことをそれほど好きなのだ。
それからしばらくの間、スティクォンはメルーアたちの非難の声を聞くことになった。




