26.魔湖
スティクォンはメルーアとともにシディアに乗って昆虫を探しに魔族の国内の北にある魔湖へと向かった。
前方に大きな湖が見えてくる。
「シディアさん、あそこにあるのが魔湖ですわ」
『おお、ここか。 たまに休息で立ち寄る湖だ』
シディアはそういうと魔湖の近くに着陸する。
「綺麗な場所だな」
「ここなら蜂がいるかもしれませんわ」
メルーアは近くに咲いている花に近づくと匂いを嗅いだ。
「う~ん、良い香りですわ」
「水も豊富で花も香りが良いならここら辺にはとても良い蜂がいるようだな」
『ならばさっさと探そうではないか』
シディアの言葉にスティクォンとメルーアは頷いた。
「それじゃ、僕は湖の右側をメルーアとシディアは左側をお願いしてもいいかな?」
「わかりましたわ」
『うむ、任せろ』
スティクォンたちは二手に分かれるとそれぞれ蜂を探すことにした。
「さて、どこに蜂がいるかな・・・」
スティクォンは湖の近くにある木々を確認している。
蜂の巣がないか気を付けて探す。
仮に見つけた場合はメルーアとシディアの協力を得て回収するつもりだ。
スティクォンが探していると木々の奥に開けた場所があり、そこに誰かが倒れていた。
「・・・ぅぅ・・・」
「お、おい! 大丈夫か?!」
スティクォンが近寄ろうとすると奥から何かがやってきた。
「グウウウウウゥ・・・」
そちらに視線を向けるとそこにはかつてシディアが森で倒したフォレスト・ベアがいる。
「嘘だろ・・・」
フォレスト・ベアはスティクォンを見るなり襲ってきた。
「ガアアアアアァーーーーーッ!!」
あまりの迫力と速さについていけずスティクォンはフォレスト・ベアの突進攻撃をもろに受ける。
「ぐふぅっ!!」
スティクォンの身体は後方に思いっきり吹っ飛ばされた。
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!! ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!! ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!! ・・・
3回地面をバウンドすると俯せで倒れる。
「くぅ・・・痛ぇ・・・」
今のスティクォンは死ぬことは決してないが痛覚は感じている。
「こ、こんなことなら痛覚を感じないように身体を維持すればよかった・・・」
ぼやきながらもスティクォンはなんとか立ち上がる。
それを見たフォレスト・ベアは再びスティクォンに向けて突進した。
スティクォンはフォレスト・ベアの突進攻撃を再び受ける。
しかし、今度は吹っ飛ばされなかった。
「?」
「な、何度も吹っ飛ばされてたまるか!!」
フォレスト・ベアはスティクォンを警戒して距離をとる。
なぜスティクォンは吹っ飛ばされなかったのか?
それはスティクォンが【現状維持】を発動して自分の身体の状態とその場にいることを維持したからだ。
そうでなければ先ほどと同じように遥か後方へと吹っ飛ばされていただろう。
(さて・・・これからどうする?)
スティクォンとしてはフォレスト・ベアがどこかに行ってくれることを願っているが、相手は自分を逃がすつもりはないだろう。
選択肢は3つ。
戦うか、逃げるか、シディアが来てくれるのを待つか。
戦うにしてもスティクォンの戦闘力でフォレスト・ベアに勝てるかどうか怪しい。
逃げるにしてもスティクォンは助かるだろうが、倒れている人は見殺しになるだろう。
シディアを待つにしてもいつここに来るかわからない。
「・・・やるしかない!!」
スティクォンは剣を抜くとフォレスト・ベアに切っ先を向けて構えた。
フォレスト・ベアは敵意を剥き出しにしてゆっくりと歩いてくる。
そして、威嚇するように立ち上がり右前足を上げるとその鋭い爪で躊躇なく攻撃した。
傍から見たらフォレスト・ベアの攻撃はスティクォンの胴体を引き裂く攻撃だ。
だが、スティクォンは引き裂かれたり吹き飛ばされたりしなかった。
グサッ!!
逆にスティクォンの剣がフォレスト・ベアの身体を貫いていた。
「!!」
フォレスト・ベアは信じられないといった表情を浮かべている。
「悪いな。 もし、僕がスキルを理解できていなければお前の勝ちだっただろう」
致命傷だったのかフォレスト・ベアはそのままスティクォンのほうへと倒れこんだ。
「お、重い・・・」
スティクォンの体重が約60キロに対してフォレスト・ベアの体重は約300~400キロ。
重くて当たり前である。
普通ならそのまま倒れこんで圧し潰されるのだが、その場にいることを維持しているため倒れることなく支えていた。
スティクォンはフォレスト・ベアの身体からなんとか剣を抜くと身体をずらす。
ズウウウウウゥン・・・
フォレスト・ベアは自重によって地面に倒れる。
「はぁはぁはぁ・・・な、なんとか倒したぞ」
スティクォンは倒れたフォレスト・ベアをそのままに、身体の状態とその場にいることの維持を解除した。
あまりの激痛にその場で膝を突く。
「い、痛い・・・」
スティクォンは持っているポーションを取り出すと口に含んだ。
身体が発光し、先ほどまでの激痛がなくなっていく。
「た、助かった・・・は! そうだ! さっきの人は・・・」
周りを見ると倒れている人がいたので歩み寄る。
「えっと・・・人だよね?」
背の高さはメルーアと同じくらいの女性だ。
ただ、見た目は人間に近いが触角や羽や尻尾があり、尻尾の先には針があった。




