25.優先すべきは何か
スティクォン、メルーア、リルの3人は防壁作りをしているウィルアムのところへと向かう。
土地と砂漠の境界線のところまでくると、巨大なオリハルコンでできた壁が何枚か設置されていた。
クレアは今もオリハルコンの防壁を作成している。
その近くでウィルアムとシディアが見守っていた。
「爺!」
「メルーアお嬢様、どうされましたか?」
「実は爺に相談があってきましたの」
「なんでございましょう?」
「これなんだけど・・・」
スティクォンたちは先ほど育てた野菜をウィルアムに見せる。
「拝見いたします」
ウィルアムはすぐに野菜を【鑑定】した。
「ふむ・・・なるほど・・・メルーアお嬢様は味の向上をお求めということでございますか?」
「その通りですわ」
「今のところ改善するなら土の性質を中性に近くするか土の栄養を補うか水の栄養を補うか、それとも受粉させるかで迷っています」
「理解いたしました」
ウィルアムが納得するとそこにシディアが話しかけてきた。
『ん? 野菜は育てられればそれで問題ないのだろう?』
「シディア様、それはあくまでも食用として最低限のレベルでございます。 食事は生活の基盤の1つです。 もし、毎日不味い食事ばかり出されてはやる気が起きませんでしょう?」
『む! たしかにその通りだな。 食べるなら美味いものが食べたいものだ』
ウィルアムの説明にシディアが納得する。
「それで爺に聞きたいのですが、素材の味の向上を目指すなら何がいいかしら?」
「ここまでくる間に僕たち3人で話していたんだけど、昆虫による受粉がいいのではないかと考えていたんだ」
「たしかにそれなら味の向上は見込めますな」
「それなら昆虫をここに連れてくるということで決まりだな」
スティクォンたちは当初の予定通り、昆虫をこの砂漠に持ってくることに決めた。
『待て』
「シディア、どうした?」
『この状態で放置していくのか?』
シディアは防壁がまだ中途半端であることを指摘する。
「今のところはここに来る変わり者はそうはいないだろう」
『たしかにそうだが』
「ファリーちゃんもここに呼んでみんなで話し合って決めませんか?」
リルが意外な提案をしてきた。
「ファリーだけ仲間外れで決めるのはあまりよくないな」
「ここにいる全員の意見で決めるのは大事ですね」
『ならば我が一飛びしてファリーを連れてこよう』
「お願いします」
シディアは中央に向けて飛んでいく。
程なくしてファリーを連れて戻ってきた。
『待たせたな』
「リルちゃん、クレアちゃん、何かあったの?」
「野菜の味を向上させるために昆虫をこの砂漠に持ってこようとしているの」
リルが説明するとファリーが別の提案をしてきた。
「あ! そういえば私からも提案があるんです!」
「ファリーちゃん、何かあるの?」
「建物立てるのに人が欲しいです。 1人でも問題なくできるけど時間がかかりすぎるから」
「たしかにリルが野菜を耕しているときにそれは感じた」
ファリーの人員を増やすことにスティクォンは納得する。
いくら有能でも1人では限界があるからだ。
新たな選択肢にスティクォンたちは悩む。
「現状の作業、味の改善、人員確保。 どれも優先度が高いですな」
「では多数決で決めよう」
「まずは現状を最優先する人は?」
賛同したのはシディアとクレアだ。
「続いて人員確保を最優先する人は?」
手を挙げたのはスティクォンとファリーだ。
「残った3人は味の改善を最優先・・・ということで、まずは味の改善に決定します」
それを聞いてメルーアがすごく喜んでいた。
「それで外部から何を連れてくるのかしら?」
「そうですな・・・蜂などよろしいかと。 できれば花も一緒に持ってこれれば尚よいでしょう」
ウィルアムとしては蜂を使って野菜の花に受粉することで、より食べやすい野菜を作ろうと考えているのだろう。
『決まったのなら早速行くとしよう』
「シディア、何か良さそうなのを知っているのか?」
『我は知らぬ。 適当に自然が豊かな場所に行けば問題なかろう』
シディアがそういうと慌ててメルーアが提案する。
「それならばこの国の北にある魔湖はどうでしょう? あそこなら花だけでなく自然も豊富ですし、蜂もきっといますわ」
メルーアの発言にウィルアムが思考する。
「あの湖ですか・・・たしかに魔族の国でも指折りの美しい場所ですが危険ではないでしょうか?」
「ウィルアムさん、メルーアが言った場所ってそんなに危険なのか?」
「自然が豊富故に魔物や魔獣が多くいます」
「「「ひぃっ!!」」」
ウィルアムの話を聞いてリル、ファリー、クレアが怖さから悲鳴を上げる。
『リル、ファリー、クレア、そう怖がるな。 何かあれば我の炎で燃やし尽くしてやる故に安心するがいい』
「「「「「「・・・」」」」」」
危険な場所に行くよりもシディアの発言のほうが何百倍も危険だとスティクォンたちは思ってしまった。
「ま、まぁとりあえず誰が行くかだな・・・」
『まず我とスティクォン、それと案内役にメルーアかウィルアムは確定だな。 リル、ファリー、クレアはここで留守番だ。 我らが行っている間に作業をしていてもらう』
「それが妥当ですな。 では、僭越ながら私が・・・」
ウィルアムが志願しようとするとメルーアが止めた。
「爺、お待ちなさい。 わたくしが行きますわ」
「メルーアお嬢様! 危険です!」
「言い出したのはわたくしです。 大丈夫、心配いりませんわ」
メルーアはスティクォンとシディアを見て鷹揚に頷く。
「・・・わかりました。 私はここでリル様、ファリー様、クレア様をお手伝いいたします」
『決まりだな。 スティクォン、メルーア、行くぞ』
スティクォンとメルーアはシディアの背中に乗ると北にある魔湖を目指して出発したのであった。




