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2.追放

周りの貴族たちがざわざわと騒ぎ出し、嘲笑する者が出始めた。

スティクォンは聞きなれないスキルに教皇へ説明を求めようとする。

ところが・・・

「スティクォン! ふざけているのかっ!!」

実父である公爵が怒りを露わにして大声で叫んだ。

そのあまりの剣幕と声に貴族たちは騒ぐのを止めた。

なぜなら、実父のスキルは実姉同様【剣聖】でフーリシュ王国を武力で支える一翼だからだ。

下手に邪魔したり歯向かおうものならその腰に引っさげた剣の錆になるだろう。

故に今は黙って見守ることしかできない。

スティクォンは教皇に願い出る。

「きょ、教皇様、もう1度神晶に触れてもよろしいでしょうか?」

しかし、教皇は悲壮な顔をして首を横に振る。

「スティクォン、1度表示されたスキルは覆ることは決してないのだ。 過去に同じようなことがあったが何度神晶に触れても結果は変わらなかった」

「そんなぁ・・・」

スティクォンは教皇の言葉に落胆し絶望していると、実父が壇上近くまで歩いてきた。

「なんだこのスキルは! 【現状維持】だと? 貴様には兄や姉みたいに向上心がないのか、この恥さらしが! スティクォン! お前を我がアバラス家から追放する!!」

「ち、父上、待ってください! これは何かの間違えで・・・」

「間違い? 間違うわけなかろう! 神晶に表示されたスキルは絶対だ! ああ、神はどうしてこんな愚息をわしのところに遣わしたんだ!!」

実父は神聖な教会内で教皇の後ろにある女神像に向けて怒りをぶつける。

見兼ねた教皇が実父に話しかけた。

「公爵閣下、落ち着かれよ。 神の御前で子を捨てる発言はどうかと思われるぞ」

「失礼ですが教皇様、この者(スティクォン)はもうわしの子ではない。 それにスキルを授かったということは1人前の証ではないですか?」

「た、たしかにそうじゃが・・・」

『親が子を捨てることなかれ』というのはあくまでスキルが判明する前までのことであり、スキルが判明した今はどのような扱いをしてもよいと実父はそう受け取っていた。

教皇は実父の発言に神の怒りに触れて雷が落ちてこないか心配になっていたがそれは杞憂に終わった。

「スティクォン、お前は今後アバラス家を名乗ることは許さん! いや、わしの領地に足を踏むことすら許さない!!」

「ま、待ってください! せめて母上に報告だけでも・・・」

「ならん! 今すぐわしの剣の錆になりたいか!!」

実父は腰にある剣の柄に手を伸ばす。

さすがの教皇もそれには異を唱える。

「公爵閣下! 神聖な教会で剣を抜くのであれば如何に貴公といえど許さんぞ!!」

「! これは失礼をした!!」

実父も神の御前で剣を抜けばただではすまないことを察しすぐに柄から手を離す。

如何に強い実父でも教会を敵に回すほど愚かではない。

「スティクォン、先ほども言ったがアバラス家を名乗ることも、わしの領地に足を踏むことも許さない」

実父はそれだけ言うとスティクォンに背を向けて聖教会から出て行った。

あとに残されたスティクォンが途方に暮れる。

「スティクォン、気を落とすでない。 これは神がそなたに与えたモノ(スキル)だ。 きっと意味がある」

「教皇様・・・教えてください、【現状維持】とはどのようなスキルなのですか?」

「普通に考えれば読んで字の如くだと解釈するが・・・過去に例がないので何とも言えん」

教皇は歯切れの悪い言い方をした。

スティクォンはそれを聞いて俯くと壇上から降りていく。

「なあにあの【現状維持】ってスキル、笑っちゃうんだけど」

「親が優秀だからって子が優れてるとは限らんだろ」

「たしかあれの兄姉って賢聖と剣聖でしょ? それらと比べたらねぇ」

周りの貴族やその子息子女たちはひそひそと話しているのだろうがスティクォンには丸聞こえである。

否、スティクォンに聞こえるようにわざと大きな声で話し、嘲笑うように見ていた。

スティクォンはその場の重圧に耐えられず壇上を降りて入り口に向かうと教会の扉をそっと開けて出ていく。

教会の横にあるはずのアバラス家の馬車はそこにはなかった。

それは実父がスティクォンと袂を分かつ証左である。

スティクォンは天を仰ぐ。

太陽が燦々と照りつける。

少し冷静になったスティクォンはこれからどうするか考えた。

スティクォンに残されたのは今着ている礼服1着のみ。

自身を守るための武器すら持っていない。

このままでは誰かに狙われてもおかしくないと悟り、スティクォンは急いで王都内にある便利屋に駆け込んだ。

幸い過去に何度か利用したことがあったので場所だけは覚えていた。

便利屋の扉を開けて入るとそこには多種多様な商品が置いてある。

食料品、日用品、食器、雑貨などなど、ほかにも色々ある中には衣類も売られていた。

「いらっしゃいませ、今日はどのような御用でしょう?」

商人がスティクォンに話しかけてくる。

「実は今着ている服を売って金に換えたい。 それと差額で一般的な服を1着買いたい」

「こちらへどうぞ」

商人のうしろをスティクォンがついていく。

衣類のコーナーに案内されるとまずは着る服を選ぶ。

これから長い付き合いになるだろうから、なるべく丈夫で長持ちしそうなものを選び出す。

それが決まると次は自分が着ている服の買取だ。

貴族の礼服なのでそれなりの値段で買い取ってくれた。

「ありがとうございました」

店を出るとスティクォンの手には金貨2枚が入った袋があった。

「さて、これからどうしよう・・・」

袋を懐に入れるとスティクォンはこれからのことを考えながら王都を歩き始めた。


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